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■四月三日 鹿鳴館學園祝入學進學舞踏会

薄荷(はっか)ちゃんの學園デビュー回です。

ここから、一気に、物語が動き始めます。

お楽しみいただければ、幸いです。

 昨日の入學式で、死者が出る騒ぎかあった。

 というのに、今日は、予定通り、鹿鳴館學園の祝入學進學舞踏会が挙行される。


 期待とともに學園へと送り出した子が、入學式当日死体となって帰ってきた……。

 そんな家族の気持ちを、慮ったりはしないのだろうか?


 『朝に紅顔ありて夕べに白骨となる』

 この學園は、そんな場所なのだと、改めて思う。


 ☆


 カストリ皇國の貴族には、五つの力が求められる。

 まず第一に、物語力、続いて、武力、政治力、魔力または聖力のいずれか、そして舞踏力だ。


 舞踏力は、他の四つに比肩するほどの力だと見做されている。

 舞踏は文化や社交の集大成であり、舞踏から人脈が造られ血縁が繋がる。

 この國の政治は、舞踏中に交わされた会話によって動いている。

 『会議は踊る』という慣用句があるほどだ。


 ボク――儚内(はかない)薄荷(はっか)――は、舞踏会の会場である鹿鳴館へ向う。


 曲線的なフォルムや豪華な装飾が散りばめられた壮麗な白亜の建物だ。

 バロック調とロココ調が絶妙なバランスを保ち、全体が一個の芸術品と化している。


 レンガ造りの高い塀と庭園に囲まれている。

 庭園内の此処彼処に、この世界に瑞祥を齎したという、御社(おやしろ)のご本尊様たちの彫像が隠されているそうだ。

 白鼠、白栗鼠、白猫、白犬、白鼬、白貂、白狐、白狸、白猿、白羊、白豚、白馬、白麒麟、白虎、白獅子、白鯨、白雀、白鳩、白烏、白鶏、白鳥、白鷺、白鶴……等々、その総数すら明らかになっていない。


 メインホールは、通常の建物であれば四階にあたる高さに天井がある。

 ホールには沢山の扉があり、庭園、温室、娯楽室、応接室等に繋がっている。


 そんな扉を、定められたルールで潜ると、秘匿された白鹿様の御社(おやしろ)に辿り着くという話しも聞く。


 そもそも、鹿鳴館は、學園の施設として造られたのではない。

 逆だ。

 白鹿様の御社(おやしろ)であったものを鹿鳴館とし、そこに學園を建てたのだ。

 ゆえに、この學園には、鹿鳴館の名が冠されている。


 貴族や、平民であっても裕福な者たちは、幼い頃より、マナーとともに社交ダンスを學ぶ。

 だけど、ボクみたいな、日々を生きることに汲汲としている者たちにとって、最も縁遠いのが舞踏だ。


 ボクは、ダンスなんて習ったことなどない。

 テレビ放送で、様々な催し事のダンス風景を見たことがあるだけだ。


 鹿鳴館に参集してくる生徒たちの様子を見れば、ダンススキルの有無が一目瞭然だ。

 貴族や、心得のある富裕層であれば、正装の男性が、ドレスで着飾った女性をエスコートし、メインホールへ向う。

 一方、それ以外の者は、學園の制服姿でやってきて、天井が低くなっているところにある、バイキング形式の立食テーブルに張り付くことになる。


 ボク――儚内(はかない)薄荷(はっか)――は、複雑な心境で、そこに居た。


 全くもって踊れないボクにとって、鹿鳴館は自分に不似合いな場所だと感じられる。


 その一方で、心底ほっとできていることがある。

 學園に来てからのボクは、ずっと、自分だけ、どピンクの服装で、濃紺の制服に囲まれていた。

 だけど、今日は、全員ではないものの、自分の周りに様々な色合いの正装やドレスを纏った人たちがいる。

 それだけで、ほんとうに人心地をつくことができた。


 最奥の、一段高い場所には、特に鮮やかな色彩の服装が視認できる。

 そこにロイヤルボックスがあり、王族関係者が着席されている。

 ただ、昨日騒ぎを起こした白銀(しろがね)第三皇子の姿はないようだ。


 舞踏会が始まった。

 司会者から、ファーストダンスを務める、白金(しろがね)黄金(こがね)第一皇子と、萵苣(ちしゃ)智恵(ちえ)公爵令嬢が、改めて紹介された。


 スポットライトが当たる中、お二人が、ロイヤルボックスを降りる。

 ダンスホールの中央へ、進み出る。


 智恵(ちえ)様が、黄金(こがね)様の耳元に、何やら囁いている。

 と思ったら、お二人が、揃ってボクに、ウィンクしてきた。


 ――えっ!


 ああ、これだけ華やかなドレスに囲まれていても、ボクの、どピンクセーラー服姿って目立つんだと、ガックリ肩を落とす。

 それにしても、未来の皇帝と皇后様が、一介の平民にウィンクするなんてことは止めて欲しい。


 沢山の生徒たちの視線が、ボクへと集まり、無遠慮に睨め回してくる。

 思わずミニスカートの裾を、ギュッと握りしめてしまった。


 黄金(こがね)第一皇子が、一段低いところにあるオーケストラピットへ合図を送る。

 当然スタンダードなソーシャルダンスを踊るものと思っていたら、御二人の選曲は情熱的なラテンナンバーだった。


 それは、もう、圧倒的なダンスだった。

 高度なテクニックの連続でありながら、優雅で、繊細で、美しい。

 煽情的でありながら、清楚だ。


 聖力を効果的に使うことで、半浮遊状態となり、人間業とは思えない大技を、次々と繰り出してくる。

 並んで同じ技を同期させるサイドバイサイド。

 オーバーヘッドや、ラッソーなどの様々なリフト。

 フィニッシュは、智恵(ちえ)様が大きなカーブに乗り、黄金(こがね)様が円の中心でピボットの体勢で片手を支え、智恵(ちえ)様の身体をほぼ水平に倒して円を描き続ける、デススパイラルを決めた。


 ダンス終了後、拍手が、鳴り止まなかった。

 お二人は、はあはあと荒い息を吐きつつも、笑顔で歓声に応えていた。


 ☆


 ――さて、食べるぞ。

 ボクとしては、何より、甘味を所望したい。

 それも、これまで、ほとんど口にする機会がなかった、チョコレート菓子を熱望する。

 ガトーショコラ、ザッハトルテ、オペラ、ブラウニー……目が泳ぐ。

 ここは、やっぱり、チョコレートファウンテンだろうか。


 ボクは、魅惑の泉から湧き出すチョコレート求める人々の行列に加わろうとした。

 ところが、そんなボクの前に、順番待ちをする生徒の列ができてきた。

 ダンスの申し込みだ。


 カストリ新聞に写真が載ってしまったのが、いけなかったと思う。

 注目度が高い上に、平民だと知られているから、身分に関係なく申し込んでくる。


 しかも、ちょっとおかしい。

 普通、男性なら女性の行列ができるし、女性なら男性の行列ができる。

 なのに、ボクの前には、男性も女性も並んでいる。


 最初のうちこそ、自己紹介しあったうえで、丁重にお断りしていた。

 だけど、十人を超えたあたりから、誰が誰やら憶えていられなくなる。


 いつまでたっても、人が途絶えない。

 むしろ、行列が長くなっている。


 ――このままじゃ、チョコレートにありつけないまま、舞踏会が終わっちゃう。


 ついに、ボクは、行列へ向って、声をあげた。

 「スミマセン、ボク、平民の貧しい家庭で育ったんで、まともに盆踊りだって踊ったことないんです。運動音痴手で剣も握れないし、リズム感もなくって、おまけに音痴なんです」


 なぜだか、どっと沸いた。

 「十五歳なのに、声変わりしてないのかな」

 「盆踊りってなに? お盆持って踊るの?」

 「庶民派男の娘、キタ、コレ」

 様々な声があがり、行列の長さが二倍に膨れあがった。


 どうやら、ダンスができない人たちが、逆に、ボクに親近感を持っちゃったみたい。

 ボクと、ひとことでも言葉を交わしてみたいと、列に加わってきた。


 そんな、ボクの前の行列に、煌びやかな正装の男子生徒が、ずかずかと割り込んできた。

 誰か助け出しに来てくれたのかな、と思ったら逆だった。

 

 男子生徒は、いきなりボクの右手を引っ掴む。

 「おい、お前、ピンクのミニスカセーラー服なんかで、格式高い、この鹿鳴館に足を踏み入れるとは不埒な。そうやって、男女構わず誘惑しまくっておいて、踊れないとは何事だ。あろうことか、この俺様まで籠絡しようとは。さあ、俺様が、手取り足取り、ダンスを教え込んでやる。こっちへ、来い」

 ボクの右手を、強引に曳いて、ダンスホールへ連れだそうとする。


 男子生徒は、端正な顔立ちで、傲岸不遜な空気を纏っている。

 不用意に逆らったりしたら、逆ギレされそうだ。


 ――ボ、ボク、誘惑だなんて、そんな大それたこと……。

   だっ、誰か助けて。

 行列に並んでいた人たちに、視線で助けを求めた。


 だけど、誰もが目を伏せて、動こうとしない。

 行列に並んでいた人たちは誰ひとり、その男子生徒に注意・諫言できないようだ。


 強引に手を引かれたものだから、ボクは、バランスを崩して、前に、つんのめりそうになった。

 そんな、ボクの左手を掴んで、支えてくれた人がいる。

 お陰で、ミニスカートを翻して倒れ込むような醜態を晒さずに済んだ。

 ボクは、その人物に「ありがとうござ……」とお礼を言いかけて、言葉を失った。


 燦然と輝く豪奢な衣装を纏った令嬢が、ボクを、キッと睨んでいた。

 どうやら、ボクを助けてくれたのではなく、ボクが、その男子生徒とともにダンスホールへ向うのを阻止しただけらしい。


 令嬢は、グイッっと掴んだ、ボクの左手を離そうとしない。

 そして、ボクの右手を離そうとしない男子生徒に苦言を述べる。

 「鍍金(めっき)様、このような卑しい平民に手を出すなど、皇族に相応しからぬ行為でしてよ。たとえ一夜の慰み者にされるとしても、この牡丹(ぼたん)鍍金めっき様の許嫁として、看過できませんわ」


 この言葉を聞いて、愕然とした。

 ――なんてこった。

   このお二人って、第二皇子の白金(しろがね)鍍金(めっき)様と、

   その許嫁であられる公爵令嬢の芍薬(しゃくやく)牡丹(ぼたん)様だ。


 鍍金(めっき)皇子は、平然と嘯く。

 「牡丹(ぼたん)、いくら許嫁でも、嫉妬は見苦しいぞ。俺様は、こいつに一目惚れした。こいつを第一夫人にする。お前は、第二夫人に格下げだ」


 牡丹(ぼたん)様が「なっ――!」と、絶句する。

 鍍金(めっき)様に向っては二の句が継げなかったようで、ボクに向って怒りをぶつけてくる。

 「あなた、平民の分際で、一國の皇子を誑かすとは、言語道断でしてよ。大人しく身を引くのであれば許したものを――。あくまで、鍍金(めっき)様を『攻略対象』とするのですね。こうなった以上、わたくし、『悪役令嬢』のロールを持つ者として、あなたを虐めて、虐めて、虐め抜いてみせますわ! たとえ、この身が、國外追放になろうと、断頭台に登ることになろうと、もはや勘弁なりませんわ!」


 ――えっ、ボク、誘惑なんてしてないし、

   『第二皇子を攻略する』とか『身を引くつもりがない』とか、

   口にしてもいないんですけど――!


 これは、もう、ボクなんぞの社交能力の限界を超えた事態だ。


 ――それに、ボク、セーラー服なんか着てても、肉体的には男子だよ。

   男性皇族の結婚相手になんか、なれるわけないよ。

   皇族の結婚って、世継ぎを得るためだよね。

   ボク、無理だから。


 精神的な負荷に耐えかねて、視界が、くにゅっと歪む。

 意識を手放しかけて、くらりと、よろめく。


 そんなボクを、誰かが「おい、大丈夫か?」と、抱きとめてくれた。

 かなり離れた位置から、縮地で、瞬時に移動してきてくれたらしい。

 すぐ横に女子生徒も移動してきて、「勇者様、私が治癒をかけます」とかいう声が聞こえた。


 ――ゆ、勇者様!

   いま、勇者様って、言った。


 ってことは、ボクを抱きとめてくれたこの方が、三年前に勇者召喚された北斗(ほくと)拳斗(ケント)様だ!


 ――まずい。

   この人、大物語『勇者の召喚』の主役だ。

   ボクが、絶対近寄るまいと決めていた中の、御一方だ。


 ――こ、これは、おちおち、失神してもいられない。


 慌てて、手放しかけていた自意識を掴み直し、閉じかけていた瞼を見開く。


 眼前に、勇者様の凜々しい顔があった。

 唇が触れあいそうな近さだ。


 ――いや、いや、いや、ぜんぜん違う。


 まず、勇者様の顔は、凜々しくなんてなかった。

 これは、獲物を狙う猛禽類の目だ。


 そして、明からに、勢いで、ボクの唇を奪おうとしていた。

 ボクは、男とキスなんか、絶対にイヤだ。

 慌てて、勇者様を押し退ける。


 勇者様は、ボクの瞳を心配そうに覗き込んだまま、平然と、隣の女生徒に「ああ、伽羅(きゃら)っちの治癒なら万全だ」なんて、言っている。


 「ダ、ダイジョブデスヨ。ボクなんかにセイジョ様の治癒なんて――」

 『――聖力がモッタイナイ』と言おうとして、遅まきながら思い至った。


 こっちの女性生徒は、聖女にして、教皇様の御息女天壇(てんだん)伽羅(きゃら)様だ。


 羽織っている白いローブは、裾が踝に届くほど長い。

 なのに、その下から覗いている白い貫頭着は、ノースリーブのミニ丈。

 白い長手袋とニーソックスに、背丈より長い白檀の杖。

 足元はなぜか、ゴツイ安全靴だ。


 伽羅(きゃら)様は、「勇者様、お顔が、治癒の邪魔です」と、拳斗(ケント)様の顔を、ボクの眼前から押し退けて、ボクの額に、掌を翳す。

 掌中から、神々しい光が湧き起こる。


 ――こっ、これって、ただの『治癒』じゃないよね。

   あらゆる治癒能力の頂点、瀕死者すら全快させるっていう、『聖女の癒やし』だよね。


 聖光がボクの全身を包み込み、緊張や混乱を、スーッと取り除き、安らかな心持ちを齎してくれる。

 それはありがたいけど、『聖女の癒やし』って、緊張感で失神しかけただけのボクごときに、使って良いものじゃないよね。

 戦いで手脚を失った重傷者や、明日をも知れぬ重篤な病に苦しむ人々にこそ、使ってあげるべきものだよね。


 伽羅(きゃら)様の手で向きを変えられたことにより、拳斗(ケント)様の顔は、鍍金(めっき)皇子の方を向いている。

 「鍍金(めっき)っち、さっきの『第一夫人、第二夫人、云々』の言い様は、こちらのピンクレディーに対しても、許嫁の牡丹(ぼたん)様に対しても、失礼だぜ」


 ――うわーっ、拳斗(ケント)様ったら、

   鍍金(めっき)皇子を『っち』呼びにして、諫めちゃったよ。

   衆目の中で皇族にこんな言い方するなんて、

   勇者様でなきゃ許されないよね。


 ――それにしても、ピンクレディーって、なんですか?

   勇者様が召喚される前にいた世界の言葉かな?

   あっ、そうか、ボクが全身ピンクの服装で、それもセーラー服だから、

   きっと、ボクのこと女の子だって思ってるんだ。

   勇者様って、世界を救うので忙しいから、

   今年度入學者を紹介したテレビニュースや、

   カストリ雑誌の記事なんか、ろくに見てないよね。


 なんて、現実逃避していたら、伽羅(きゃら)様まで、口を出してきた。

 「鍍金(めっき)様も牡丹(ぼたん)様も、いいかげん、この新入生から、手を離してさしあげて」


 そうなんだよ。鍍金(めっき)様は、ボクの右手を握りしめたままで、牡丹(ぼたん)様は、ボクの左手を握りしめたままなんだ。

 お二人とも、ボクの手を放すつもりは、毛頭ないらしい。


 勇者様は、引き下がる気のない鍍金(めっき)様と牡丹(ぼたん)様の様子に、首を横に振る。

 そして、ボクに向って言う。

 「ピンクっち、このままじゃ、大変なことになっちまうぜ。そうだ、ピンクっちを助ける、いい方法を思いついた。どうだい、俺っちの、勇者パーティーに入らねえか? ハーレムパーティーを目指してるから、見目麗しければ、実力はなくとも大歓迎だぜ」


 ――ピンクレディーの次は、ピンクっち!

   ボクは確かに『色もの』だけど、そんな呼び方はやめて!


 それに、やっぱり、勇者様は、ボクのことを女だと思い込んでるよね。

 この勇者様の性格だと、ボクが男だとバレた瞬間、騙したなと憤慨しそうだ。

 自分のハーレムに、男を入れるなんて、とんでもないと激怒するだろう。


 ボクは、内心の動揺を押し隠し、ちゃんと説明しようとした。

 「ご、ご遠慮申し上げます。ボク、実は、これでも、おと――」


 「そんな横暴を許すか!」

 ボクの発言を遮る、鋭い声が、新たに割り込んできた。

 声の主を探すと、ロイヤルボックスの奥から跳び下りてくる人物がいる。


 ――えっ、えっ、な、な、なんで、この人が、ここにいるの!

   昨日、あれだけの騒ぎを起こしたんだから、拘束が無理でも、

   自室で大人しくしてなきゃおかしいでしょ!


 その人物は、抜き放った白銀の儀礼剣を、振りかざす。

 あろうことか、第三皇子の白銀(しろがね)様だ。


 入學式で、新入生代表としての挨拶時に、あれだけの騒ぎを起こしておきながら、何の咎めもなかったらしい。

 ボクは、學園長が言っていた「この學園に入學した者は、ロールの命じるところに従い、人を殺すことも許される」という物騒な言葉の意味するところを実感する。


 白銀(しろがね)皇子は、抜き身の剣を振りかざして叫ぶ。

 「鍍金めっき兄上と、牡丹ぼたん様は、二年生の大物語『令嬢の転生』のメインキャラクターだし、勇者の拳斗ケント様と伽羅きゃら様は、三年生の大物語『勇者の召喚』のメインキャラクターじゃないか。どうして一年生の大物語である『服飾の呪い』のキャラであるこの子にまで、絡もうとする。一年生の総意として、この子への手出しは、認めない。そして、鹿鳴館祝入學進學舞踏会という晴れの舞台で、ピンクのセーラー服に呪われたこの子をエスコートする権利があるのは、同じ一年生の皇族である、オレだよ、このオレ。オレはね、この子を、王水(おうみ)が創る新しい世界の供物にするんだ」


 ――うわ~っ、やっぱり、この人、頭のネジが跳んでるよ。

   ボクって、供物にされちゃうの?

   人身御供なの?

   ホント、どうしていいか分からない。


 ボクは、助けを求めて、辺りを見回した。

 でも、誰もが、係わりあいになるまいと目を逸らす。


 そんな中、見つけた。

 周囲の騒ぎを意に介することなく、飲食テーブルで、平然とワイングラスを口に運ぼうとしている、その女子を――。

 その子の服装は、正装でもドレスでも制服でもない。

 装飾過多なレースやフリルやリボンだらけで、袖や裾がひらひら広がった真紅の超ミニワンピ――間違いなく、ゴスロリ服だ。


 正確に言うとスウィートロリータ=甘ロリ服だ。

 髪を縦ロールにしており、その上に、大きく広がったレースのボンネット。

 足下は、総レースストッキングに、厚底ブーツ。


 そして、キラキラ光るルビーのビーズで飾られた仮面をつけている。


 服装は真紅で統一されているのに、肌だけが異様に白く、豊満な女性らしい体型だ。


 一見しただけで、ボクと同じ、『服飾の呪い』を受けた子だと分かる。

 ――この子、ボクの仲間だ。


 ボクは、咄嗟の判断で、自分に纏わり付いている皇族や勇者の方々の手を振りほどく。

その子に向かって、駆けだす。


 ボクは、背も低いし、ガリガリで、体力もない。

 だけど、前にも話したように、これまでの悲惨な経験から、逃げ足だけは速いんだ。


 片手を差し出して、叫ぶ。

 「助けて、(タキシード……じゃなかった)ゴスロリ仮面!」


 ゴスロリ仮面の子は、口に運びかけていたワイングラスを手にしたまま、ボクに視線を向ける。


 と、ゴスロリ仮面の子の横合いから、またまた別の女子が割り込んできた。


 その女子は、ちゃんとドレスを纏っている……んだけど、若干くたびれた流行遅れのAラインドレスだ。

 あり合わせの服の方に、自身の腰のサイズを合わせるため、慣れないコルセットで腰を締め上げている。

 コルセットとハイヒールのせいで、ちょっとの距離を走っただけで、ハアハア息を荒げている。


 ボクに向かって、ヒステリックな声を投げてくる。

 「あなた……ハアハア……逃げる気! ちょっと……ハアハア……待ちなさいよ。アタシから令嬢ヒロインの座を奪っておいて……ハアハア……。この鹿鳴館祝入學進學舞踏会で……ハアハア……鍍金(めっき)第二皇子から……ハアハア……一目惚れされるのは……ハアハア……令嬢ヒロインのアタシだったはず。だって、アタシ……ハアハア……転生者なんだから!」


 ゴスロリ仮面は、手にしていたワイングラスをボクに渡して、ボクに掴みかかろうとしていたその令嬢を、「まあ、まあ」と優雅な仕草で押し止める。


 ボクは、そのワイングラスを、息を荒げている令嬢に渡して、「これでも飲んで、気を落ちつけて――」と宥める。


 そのタイミングで、白銀(しろがね)皇子に、追いつかれた。

 白銀(しろがね)皇子は、抜き身の剣を、メチャクチャに振り回しながら、ボクへ躍りかかってくる。

 「オレを無視したな! ちやほやされて、いい気になりやがって! オマエなんかなあ、この場で、そのカワイイ顔を切り刻んで、邪神様への供物にしてやる!」


 ゴスロリ仮面は、くるりと身を翻して、白銀(しろがね)皇子から、ボクを庇ってくれる。


 白銀(しろがね)皇子は、そんなゴスロリ仮面に、更に逆上した。

 ゴスロリ仮面に向って、思いっきり、剣を振り降ろした。


 だれもが、これは二日続けての惨劇かと思った――その瞬間、ボクとゴスロリ仮面の姿は、鹿鳴館のダンスホールから、搔き消えていた。

 ゴスロリ仮面が、瞬間転移の能力を発動させたんだ。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■四月四日 生徒会室での事情聴取

ボク、いきなり、生徒会に呼び出されちゃった。

いつの間にか発生していた殺人事件!

ボク、事件の重要参考人らしいんだけど……なんで?


■拙文を読み進めていただいておりますことに感謝いたします。

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