■九月二三日④ 龍神沼④刃挽
■この物語を読み進めてくださっている方々に、感謝いたします。
以前より、「ブックマークに追加」、「ポイント」の★印、「いいね等のリアクション」を入れてくださっている方々、そして、この度、新たに入れてくださった方々、本当にありがとうございます。
皆様がいてくださることで、書き進めることができています。
今後とも、ぜひ皆様のお力添えをいただけますよう、宜しくお願いいたします。
また、作者としましては、読んでくださっている方々がどのような感想をお持ちなのかも気になるところです。
教えていただけると嬉しいです。
うら、骨切の噛砕刃挽というだよ。
ラブリーな、勇者眷属育成科二年生の聖力使い。
骨切包丁で、生きている人間の、骨を砕くのが趣味の、おちゃめさん。
召喚勇者パーティーメンバーの一人だよ。
召喚勇者である北斗拳斗様のパーティーメンバーになれるんは、うらみたいなキュートなガールだけだ。
もちろん、メンバー全員、拳斗様の女だよ。
拳斗様は、勇者のテレビ番組が放送されるたんび、新しい子を引っかけて、自分のものにするだよ。
パーティーメンバーとなった子は、これまで六十人ほどいただ。
死んじゃって、パーティーメンバーから、いなくなる子も多い。
今春時点での生き残りメンバーは、三〇人だっただ。
五月の『陸上部のエース』事件時点で、十五人に減った。
んで、現時点では、九人しか残っていないだ。
勇者パーティーメンバーとなるような子って、生来正義感が強い。
魔王をはじめとする諸悪や、人々を襲う魔獣と戦うこと、そして、その正義の戦いで、自分が命を落とす可能性があることを、覚悟のうえでパーティー入りするだ。
だけんど、拳斗様に抱かれてしまうと、みんな、正義への奉仕者ではなく、拳斗様への奉仕者となってしまうだ。
これは、召喚者としての拳斗様の力で、『諂上欺下』というだ。
拳斗様は、『欺下』の者に肉体関係を強要し、精神支配下に置くことができるだ。
拳斗様は、精神支配下に置いたパーティーメンバーのことを、自分の意のままにできる、便利な道具としか考えていないだ。
我欲とか性欲を満たすため、どうでもいいワルダクミで、パーティーメンバーを、躊躇なく、使い捨てにする。
より正義感の強い、純粋な正統派ヒロインから、拳斗様のワルダクミの犠牲にされていっただ。
それでも、己が信念に殉死できた者たちは、まだいいだよ。
残される、うらたちは、どんどん荒んで、精神が歪んでいっただ。
拳斗様に対する失望。
使い捨てであったとしても、選ばれた者への嫉妬心。
そして、精神を支配されていることからくる人格の歪み。
残った者たちが、性格の歪んだ、くせ者揃いとなったのは、致し方ないことだ。
生き残っている九人を、紹介しておくだ。
まず、肉体関係を持ちながらも、拳斗様の精神支配下にいない者が二人いるだよ。
○賢者の天壇沈香
○聖女の天壇伽羅
この二人は、『欺下』ではなく、『諂上』なんだって。
勇者パーティーメンバーであることを逆用して、好き放題やっているだ。
残る七人が、『欺下』として、拳斗様の精神支配下にいるだ。
だけんど、『欺下』であることをよしとせず、まだ抗っている者が一人いるだ。
○天使の熾天清良
盲従しないものだから、拳斗様の不興を買っているだ。
開催中の武闘体育祭での廃棄が、確定しているだよ。
で、残る六人が、うらを含めた、不良在庫組だ。
○毒舌の舌禍紫苑
○纏付の纏絡目
○愛染の米良愛瑠
○放電の電荷放
○粘液の下留車厘
○骨切の噛砕刃挽=うら
☆
三日前、査問丹間が、武闘体育祭の賞品である儚内薄荷を攫って、行方を眩ましただよ。
この時点で、清良は、すでに『格闘部連合』に拘束されていただ。
拳斗様は、丹間の逃亡先が學外だと把握し、己が配下である『刀剣連合』千五百名を二つに分けただ。
拳斗様自身は、結託している藪睨謀と共に、『刀剣連合』のうち千名を連れ、丹間と薄荷を追って、學外へ向かった。
んで、うらたちパーティーメンバー八人は、『刀剣連合』の五百名とともに學内に残り、『格闘部連合』への陽動のため丹間と薄荷を捜しているふり、つまり陽動をするように、命じられただ。
學外へ向かう拳斗様を見送った直後、愛染の米良愛瑠が、「拳斗様、キショい」と、嘔吐いただ。
愛瑠の権能である『愛染』は、愛欲や煩悩を感じ取る。
愛瑠は、拳斗様が新たな女を追っていった際に、残されたパーティーメンバーが抱く、嫉妬の炎が大好物だ。
そんな愛瑠が、丹間と薄荷を追う拳斗様に、気色悪さを感じて、嘔吐いてしまったそうだ。
愛瑠によれば、あの傲岸不遜な拳斗様が、まるで、「別の女と逃げた不倫相手を追いかける、『女』のよう」だったそうだ。
纏付の纏絡目が、傍らのソファーに腰掛ける。
目を閉じて、だらりと脱力する。
拳斗様への付纏を発動させただ。
絡目は、肉体をその場に残して、魂を生霊化させ、誰かに纏わり付くことができるだ。
相手が目の前に居ようと、他國に居ようと、距離に関係なく纏わり付ける。
そして、纏わり付いた相手と、その周りの様子を、盗視・盗聴できる。
それだけでは、ないだよ。
付纏中、残された絡目の肉体に誰かが触ると、触った者まで、絡目が盗視・盗聴しているものを、共有できるだ。
うらたちは、絡目の服の中に、手を突っ込んだ。
いつもは、拳斗のことを小馬鹿にしている、賢者沈香と聖女伽羅まで一緒に、手を突っ込んできた。
拳斗様に命じられた陽動のための、丹間と薄荷の學内捜査なんて、やっている場合ではないだ。
うらたちは、絡目の身体をベッドに運び、七人で囲んで、もみもみする。
そうやって、絡目を含めた八人で、拳斗様の行動の一部始終を見守り続けただ。
☆
絡目が付纏してくれた拳斗様の行動に、うらたちは愕然としただ。
まず、拳斗様の愛欲の向かう先が、儚内薄荷ではなく、査問丹間であったことに、衝撃を受けただ。
拳斗様が、うらたちを差し置いて他の誰かに走るとして、それが薄荷なら、悔しいけどまだ納得できるだ。
だって、薄荷って、ホント、可愛いだ。
だども、丹間に思いを寄せるなんて、理解できないだ。
丹間って、毛むくじゃらのデカブツで、怖気が走る気色悪さだよ。
拳斗様が、よりにもよって、あんなのを追いかけるだなんて――。
そして……うらたちは、トドメを刺されただ。
拳斗様は、自分を選ばなかった丹間ではなく、丹間に惚れられた被害者でしかない薄荷の方を、殺そうとしただ。
拳斗様って、確かに、これじゃぁ、凜々しい勇者じゃなくて、嫉妬にかられたゴミクズだよ。
ここまでで、どん底に落とされた感があったのに……まだ、その先の展開があっただよ。
薄荷と戦い、なんと拳斗様が、勇者の証したる『召喚勇者の剣タチ』を失っただ。
『召喚勇者の剣タチ』は『転生勇者の剣ネコ』と統合され、『勇者の剣リバ』となった。
そして、その、『勇者の剣リバ』は、薄荷を主と選んだだ。
その瞬間、うらは、自分の魂を縛っていた鎖が、砕け散るのを感じただ。
肩にのしかかっていたものから解放され、身体全体が軽くなった。
精神を曇らせていたものが、晴れ渡っていき、青空が見えた。
拳斗様の精神支配下に置かれていたパーティーメンバーたちと、顔を見合わせた。
拳斗――もう『様』づけなんていらない――の支配から、解放されただ。
ここに居るパーティーメンバーだけでなく、國や學園内で、密偵をやらされている者たちまで含めて、拳斗に肉体関係を強要された女、全員が解放されたと分っただ。
だども、うらたちは、誰も動こうとしない。
みんな、自分が、解き放たれ自由になったと理解している。
このまま、拳斗の元を離れることができる。
どこにだって行ける……はずなのに……。
うらは、自分を省みる。
ずっと、自分が拳斗に縛られている自覚はあっただ。
でも、うらは、拳斗と出逢う前から、勇者パーティー入りに憧れていただ。
だから、召喚勇者に抱いていた気持ちの、どこまでが自分本来の感情で、どこからが拳斗による精神支配で創り出されたものだか……分らない。
そこを見極めなければ、自分がどうして良いか分らず、この先に進めない気がしただ。
絡目も、ベッドの上で目を閉じたまま、拳斗への付纏を止める様子がない。
きっと、うらと同じ思いだ。
☆
龍神沼一帯は、差し迫った状況となっているだ。
湖から廃村へ向かって、とんでもない数の魔物たちが、わらわらと這い上がってくるだ。
水蛇、化蛇、螭、蛟竜……。
どの魔物も、何かに激怒しており、朱い瞳を輝かせ、咆吼している。
三色の蛟竜は、雷鳴のごとき人語を、響かせるだ。
「龍神様を陥れた、天津神の眷属を喰らえ」と、赤蛟竜。
「天津神の眷属が判別できぬなら、聖力を纏っているものを、片っ端から喰らえ」と、黒蛟竜。
「はむかってくるならば、聖力でなく、魔力を持つものであろうと、容赦はいらんぞ」と、青蛟竜。
薄荷は、疲労困憊の様子で、ふらついているだ。
そもそも、二十日を超える『パニエ貞操帯』に思考拘束がもたらした幼児退行から、いまだ完全に目覚めてはいないだ。
そんな状態のまま拳斗と命がけの闘いとなり、『勇者の剣リバ』に主と選ばれた。
理解が追い付いていないのに、『勇者の剣リバ』から、自分の中に、新たな力が流れ込んでくる。
置かれた状況と力を、理解できないまま、あふあふと、過呼吸ぎみになっている。
拳斗はというと、呆然と、己が両手を見ているだ。
さっきまで握りしめていた『召喚勇者の剣タチ』が失われ、無手となっている。
つい先程まで、その剣から供給され続けていた、傲慢なまでの聖力が掻き消えている。
その聖力が自身に齎していた高い戦闘力も、掻き消えている。
更には、『諂上欺下』の能力と、この世界で肉体関係を強要した女たちへの支配が失われている。
ただ、召喚勇者のロールだけは、魂にこびりついているだ。
これまで、拳斗としては、我儘放題できる特別な力は、いくらでも欲しいが、召喚勇者の役目なんて、邪魔でしょうがなかった。
だというのに、力は失われ、役目だけが残されている。
勇者として召喚されたが故のロールなのだから、それだけは、死ぬまで失われないだ。
生きたまま召喚勇者であることを放棄できる方法があるとしたら、召喚者でなくなる――つまり、元の世界へ戻る――ことだろう。
だけど、元の世界へ戻る方法があるとも思えない。
薄荷と拳斗が呆然としているなか、金平糖菓だけは、状況判断が早かっただ。
龍神様と、その眷属が、この場に出現する可能性があると、事前に知っていたとしか思えないほど、素早い対応だっただ。
『魔女見習い』の喇叭拉太に命じて、忘我状態の薄荷を抱えあげさせた。
『魔界四天王』の喇叭辣人には、『黙示禄の喇叭』を吹かせた。
自分が先頭に立ち、喇叭の音で、『親水連合』員たちを、沼とは反対側の、森へと誘導した。
『刀剣連合』は、パニック状態で、右往左往しているだ。
そもそも、指揮官の拳斗が呆然として動かないし、補佐官である藪睨謀は死亡してしまった。
混乱に陥るのは、自明のことだ。
そして、『刀剣連合』は、構成員のほとんどが『聖力使い』だ。
ろくな抵抗もできないまま、龍神の眷属たちの腹の中へ丸呑みにされていく。
蛟竜たちが、崖の上に、敵対ロールを持つ者を見つけた。
拳斗だ。
「おう、あそこで呆けておるのは、天津神が、己が世界から呼び寄せた僕である召喚勇者ではないか?」と、黒蛟竜。
「確かにな。力を喪失しておるのに、『召喚勇者』というロールだけが、魂にこびりついておる」と、青蛟竜。
「勇者ロールは、さぞ美味かろう?」と、赤蛟竜。
三色の蛟竜は、拳斗を包囲して、奪い合う。
青蛟竜の手を逃れた拳斗を、黒蛟竜と赤蛟竜が掴む。
拳斗の身体を握り込んだのは、黒蛟竜だ。
赤蛟竜の手には、拳斗右腕だけが、握られている。
「ウギャーーーッ!」という、拳斗の悲鳴が響き渡った。
身体から右腕が引き千切られていた。
赤蛟竜が、千切れた拳斗右腕を、摘まみ上げ、ゴクリと嚥下した。
青蛟竜が、黒蛟竜に声をかける。
「まてまて、勇者の味見はともかく、死なせてはならんぞ」
黒蛟竜が、青蛟竜に答える。
「おう、『召喚勇者』のロール持ちなら、使いようがあるからな」
黒蛟竜が、右腕が引き千切られた拳斗の肩口をペロリと舐め、溢れ出ていた血を啜る。
それは、舌先の酸で傷を焼いて、止血するための行為でもある。
拳斗が激痛に悶えながらも、叫ぶ。
「助けてくれ。俺っちは、教皇に召喚されて、脅されて、大君のお命じになるままに動いてるだけだ。こんなところで死にたくねぇ」
龍神沼が、ボコボコと泡立ち、重低音が響いた。
「ウゴゴゴゴッ、ウーーーーゴッ、ゴゴッ、ウゴーゴ……」
青蛟竜と、黒蛟竜と、赤蛟竜が、龍神沼へ向かって畏まる。
そして、「仰せのままに」と、声を揃えた。
黒蛟竜が、拳斗に向き直る。
「白龍様が、『滅びるにあたり、天津神の神殿や王宮を破壊し、騙し取られた皇都トリスのある場所を、まるごと元の沼地に戻してから、逝きたい』と仰せだ。天津神に召喚されし勇者であるおぬしが、我らを、天津神の神殿や王宮まで招き入れるなら、おぬしを、おぬしが召喚される前にいた、天岩戸の向こうの世界に帰してやろう」
「帰れるのか? 俺にとっちゃ、こっちの世界の人間の命なんざ、夢物語の登場人物なみの重さしかねぇ。力を失って女も好きに抱けねぇから、勇者なんて役目は邪魔なだけだ。皇國へ龍神様ご一行をお連れするぐらいで、生きて、元の世界に帰してもらえるんなら、願ったり叶ったりだぜ」
☆
絡目が付纏で視せてくれた、拳斗の有様は、うらたちを幻滅させただ。
特に、黒蛟竜への回答は、これまで勇者に付き従って、生き、死んでいったパーティーメンバー全員への裏切りだ。
そして、皇都トリスに住まう何百万人もの人々を、なんだと思っているのか。
賢者沈香と聖女伽羅ですら、血相を変えているだ。
聖女伽羅が、ヒステリックな声をあげただ。
「お姉さま、ヤバイですわ。そもそも丹間取った行動からして、拳斗に起因するものであり、その拳斗が、龍神の眷属に寝返ったのです。となれば、拳斗を勇者召喚した神殿が責任を問われます。このままでは、『お父様』の天壇白檀教皇だけでなく、賢者も、聖女も、勇者パーティーも、無事では済みませんわ」
うらたち、不良在庫組は、『勇者パーティーも、無事では済みませんわ』と聞いて顔を見合わせた。
うらたちだって、ヤバイ。
だけんど、うらたちは、とうに、拳斗の精神支配から解放されているだ。
どこにだって、逃げ出せるだ。
うらたちは、この場――鹿鳴武道館――から、逃げ出そうと、ベッド上から腰を浮かせた。
絡目も付纏を止めて、意識を自分の身体に戻し、ベッド上で上半身を起こしている。
賢者沈香が、うちらより早く、立ち上がる。
手にしていた黒檀の杖を、ブンと振って、こう唱えた。
「拳斗より、権能を喪失せし『諂上欺下』を、ロール簒奪。これまでに拳斗が『欺下』に置いた者たちごと、吾のものとする」
そのとたん、うちらは、身動きできなくなった。
うらは、自分の魂が、再び、鎖でがんじがらめにされていくのを感じただ。
肩に、ズンと重いものが、しかかってくる。
精神が、暗雲に閉ざされていく。
いつの間にか、自分が目を瞑っていたことに気がついただ。
はっとして、目を見開く。
そこに、賢者沈香様の、素敵なご尊顔があっただ。
沈香様は、二年前に卒業し、現在は學園の教師となられている。
うらとは、三歳ぐらいしか違わない
なのに、沈香様は、大人の魅力に溢れてらっしゃるだ。
羽織っている黒いローブは、裾が踝に届くほど長い。
その下から覗いている黒い貫頭着は、ノースリーブのミニ丈。
黒い長手袋とニーソックスに、背丈より長い黒檀の杖。
足元はなぜか、ゴツイ安全靴だ。
その凜々しい御姿に、きゅんとなる。
あの胸に、抱かれて眠りたいだ。
世の中には、勇者パーティー入りを望む女子が多いと聞くけど、みんな分っていないだ。
うらにとっては、賢者様こそ至高であり、そのお側にお仕えする女官こそ、うらの憧れだ。
沈香様のためなら、死ねる。
気がつくと、うらは、沈香様の前に額づき、おみ足の甲に、口づけていただ。
うら、だけじゃない。
紫苑も、絡目も、愛瑠も、放も、車厘も、そうしていただ。
沈香様が、聖女伽羅様に向かって、片眉を上げる。
「伽羅よ、迂闊なことを言うでない。『この世界』において、勇者なんぞ、時折復活する魔王に対抗すべく、神殿が召喚するコマに過ぎん。出来が悪ければ、いくらでも召喚し直せる。『この世界』を支えてきたのは、あくまでも天津神の神殿である。そして、賢者や聖女、これに仕える女官こそが、天津神の手足なのじゃ」
沈香様は、うらたち女官とともに、速やかに、皇都トリスにある天津神の神殿に向かうことを決断されただ。
『刀剣連合』五百名については、放置……というか、鹿鳴武道館にて、お留守番だ。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■九月二三日⑤ 龍神沼⑤メアリー
いよいよ、龍神沼での出来事が、決着する。
ボクは、ここまでみたい……。
『服飾に呪われた魔法少女』のみんな、『科學戦隊レオタン』みんな、あとのことは、宜しくね。