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■九月一〇日 鹿鳴テニスセンター④綾女

■この物語を読み進めてくださっている方々に、感謝いたします。

「ブックマークに追加」や「ポイント」の★印を入れてくださった方々、いつも「いいね等のリアクション」を入れてくださっている方、本当にありがとうございます。

皆様がいてくださることで、書き進めることができています。

殊に、「ブックマークに追加」、「ポイント」の★印、「いいね等のリアクション」には、とても励まされます。

今後とも、ぜひ皆様のお力添えをいただけますよう、宜しくお願いいたします。

 オレ――菖蒲(しょうぶ)綾女(あやめ)は、鹿鳴テニスセンターを、昼夜を問わず、見張らせた。

 監視役は、合気道部員だ。

 合気道部員は、気配察知により、センターを囲む鋸壁の外から、中の様子を察知できる。


 もし、鹿鳴テニスセンターにいる『小径球技連合』が、武闘体育祭最終日の九月三〇日まで持ちこたえられるのなら、それでいい。

 だが、白金(しろがね)鍍金(めっき)第二皇子が、自ら負けフラグを立ててしまった以上、そうはなるまい。


 すると、九月一〇日、陽が落ちてから、動きがあった。

 『大径球技連合』が、鹿鳴テニスセンターに攻め入ったとの連絡だ。


 オレは、『格闘部連合』五百人を動かした。

 芍薬(しゃくやく)牡丹(ぼたん)様と、その配下の三〇人はお留守番だ。


 鹿鳴テニスセンターの北側にある大ゲイト前に立つ。

 うちらは、格闘家だ。

 姑息なまねはしない。

 敵と闘うときには、必ず正面から向かい合う。


 大ゲイトは、強固な鉄扉が閉じられている。

 左右に、背の高い外鋸壁の北面が延びている。


 大ゲイトの向こうがAコート、その右がセンターコートで、左がBコート。

 全部で二一のコートがあり、それぞれに内鋸壁があり、二重に護られている。


 監視していた合気道部員が、気配察知した現状を報告してくれる。

 戦闘開始時点で、守る『小径球技連合』側が六七〇名で、侵入した『大径球技連合』側が三〇〇名。

 ただし、両陣営とも、刻々とその数を減らしつつある。


 『大径球技連合』の目的は、鹿鳴テニスセンターを攻め落とすことではない。

 侵入して、武闘体育祭の賞品であり、優勝条件である儚内(はかない)薄荷(はっか)ちゃんを奪取することだ。


 『大径球技連合』は、左手の先、外鋸壁の北東角から侵入して、Bコートを占拠。

 薄荷(はっか)ちゃんが護られていたAコートへ、乱入。

 薄荷(はっか)ちゃんを、Bコートまで連れ出した。

 現在、そこで乱戦状態だという。


 「「「あっ!」」」

 気配察知を継続していた、合気道部員たちが悲鳴をあげた。

 「『大径球技連合』のヤツら、薄荷(はっか)ちゃんを生きたまま鹿鳴テニスセンターの外へ連れ出すことを断念したみたい」

 「薄荷(はっか)ちゃんの首を、切り落そうとしてるぞ!」

 「薄荷(はっか)ちゃんの首を切断して、ボールのようにパス回ししながら、外へ逃げるつもりだ」


 オレは、「どこ?」と訊ねる。

 合気道部員たちが、いっせいに、惨劇が起ころうとしている方向を指さす。


 オレは、合気道部員たちが、指し示す先が、交わる一点を見極める。

 左手の外鋸壁の中にある、Bコートの内鋸壁の中、だ。


 オレは、ここまで、『平服』のテニスウェアで、ここまで来ていた。

 それを、『体育服』の陸上ウェアにチェンジする。


 オレは、「グングニル」と声をあげて、利き腕に神槍を呼び寄せる。

 握り込むと、グングニルにオレの魔力が纏わり付き、バチバチと火花を発する。

 「グングニル」を、大きく振りかぶる。


 「マダムバタフライエフェクト!」

 それは、牡丹(ぼたん)様から伝授していただいた庭球(テニス)部秘伝の大技だ。

 サーブを打ったボールが消えて、相手コートのどこかに、唐突に出現するのだ。


 オレは、「グングニル」を投擲した。

 「グングニル」は、オレの手を離れた週間、雷撃を発して、この場から消えた。


 合気道部員たちが、口々に報告してくれる内容を取り纏めると、Bコート内の状況は、こんな感じだ。


 ☆


 オレが「グングニル」を投擲した同じ瞬間、Bコート内では、蹴球(サッカー)部の副キャプテンが、気絶している薄荷(はっか)の頭を、片手でボールのように握り込み、薄荷(はっか)の身体を、後方の仲間へパス……。

 ……と、みせかけて、傍らにいる蹴球(サッカー)部員にの生き残りの前に、薄荷(はっか)の首元を差し出していた。


 薄荷(はっか)の首元を差し出された蹴球(サッカー)部員はというと、シューズの踵から刃を出し、飛び前転かかと落としを、薄荷(はっか)の首筋へ向かって繰り出そうとしていた。

 つまり、カポエイラのアウー・シバータだ。


 そこへ、「グングニル」が出現した。


 アウー・シバータを決めようとしていた者の、腰を突き抜ける。

 更に、蹴球(サッカー)部の副キャプテンの胸に刺さる。


 薄荷(はっか)ちゃんの身体は、蹴球(サッカー)部の副キャプテンの手を離れ、宙に投げ出された。

 傍らに迫っていた大柄な野球(ベースボール)部員が、薄荷(はっか)ちゃんの身体をダイビングキャッチした。

 「お、お、お、お、おらの腕の中に、薄荷(はっか)ちゃんがいるだ! おらの、宝物だ! もう誰にも渡さないだ!」

 そう叫びながら、暴れ回っている。


 ☆


 オレは、合気道部員たちの報告を聞きながら、次の動作に入った。


 オレは、「グングニル」と声をあげて、再び、神槍を呼び寄せる。

 握り込むと、グングニルにオレの魔力が纏わり付き、バチバチと火花を発する。

 またしても、「グングニル」を、大きく振りかぶる。


 「超ウルトラグレートデリシャスロンギヌス!」

 良かった、長い技名を、ちゃんと忘れずに覚えていた。

 こっちは、鍍金(めっき)皇子から伝授していただいた庭球(テニス)部秘伝の大技だ。


 雷撃を纏ったグングニルが、大ゲイトの強固な鉄扉に、突き刺さる。

 『超』がつくほど、ウルトラに、グレートで、デリシャスなスマッシュだ。

 テニス技としての特徴は、ボールがコートにめり込で、バウンドしないこと。

 オレが放ったグングニルは、鉄扉にのめり込む。

 それこそ、ひとつの座標に、ふたつの物質が、同時に存在してしまいそうな勢いだ。


 大爆発が起こった。

 ゲイトの鉄扉だけでなく、外鋸壁が、広範囲に渡って瓦解し、粉塵が飛散する。


 オレの左右に居た、二ツ山(ツインピークス)親方と、女戦士(アマゾネス)族長が、『格闘部連合』五百名に、命じる。

 「「闘え! 壊れた壁の先が、敵のいるリングだ!」」

 全員が、「おう!」と叫びながら、攻め入っていく。


 薄荷(はっか)ちゃんの敵味方を見極めることは、難しい。

 鹿鳴テニスセンター内には、薄荷(はっか)ちゃんに対して、様々な思惑を持つ者がいて、もはや、敵味方の判別がつかない状態なのだ。


 大枠であれば、『小径球技連合』が薄荷(はっか)ちゃんの味方で、『大径球技連合』が敵ということになる。

 だが、敵に与する裏切り者がいて、もはや乱戦状態となっているようだ。


 ユニフォームだけで、薄荷(はっか)ちゃんの敵味方を判別しようなどと思ってはいけない。

 それに、『小径球技連合』から見ても、オレたちは、薄荷(はっか)ちゃんを奪おうとする敵にしか見えない。


 だから、オレは、鹿鳴テニスセンターを平定しようなどという、バカなことは考えていない。

 『格闘部連合』員には、「四の五の考えず、向かって来る者は、全て打ち倒せ」と伝えてある。

 目指すは、薄荷(はっか)ちゃんの奪還のみだ。

 それさえ達成されたら、鹿鳴テニスセンターがどうなっていようと、速やかに離脱する。


 『格闘部連合』は、格闘バカしかいない。

 向かって来る敵を倒し、姫を助け出して脱出する。

 とても分りやすい。


 「オレたちは格闘家だ!」

 「こちとら、日々、命がけで闘ってんだ!」

 「ボール遊びに興じている惰弱な奴らに、負けるわきゃねぇ!」

 互いに、鼓舞しながら、Bコート目指して、突き進む。


 普通の運動部員でも、學園の生徒である以上、闘うための技を身につけている。

 とはいえ、それでも人を殺すとなれば、僅かな躊躇いが生じる。


 だが、オレたち格闘家は違う。

 そもそも、格闘は、スポーツではなく、命のやりとりだからだ。


 ☆


 オレ自ら先陣を切って、Bコートに殴り込んだ。


 そこでは、同じ野球(ベースボール)部のユニフォームを着た二人が、対峙していた。

 どちらも体格が良いが、ひときわデカイ大男の方が薄荷(はっか)ちゃんを抱き抱えている。

 薄荷(はっか)ちゃんは、意識を失った状態で丸くなって、その大男に抱きかかえられている。


 この二人は、オレでも知っている。

 だって、二人とも、學生でありながら、プロ野球御社(おやしろ)チームの人気選手だ。


 大男の名は、査問(さもん)丹間(タンマ)

 怪盗義賊育成科二年生の平民でありながら、今年、御社(おやしろ)チームに抜擢された。

 しかも、四番打者(バッター)で、ポジションは一塁手(ファースト)だ。

 抜きん出た体格と魔力を持つが、鈍足なのが残念なところ。


 対するは、早見(はやみ)小津磨(オズマ)

騎士爵家長男で、怪盗義賊育成科三年生の聖力持ち。

 投手(ピッチャー)として、去年デビューし、最多勝利投手となった。

顔もスタイルも良く、どこへ行くにも、女性ファンを引き連れている。


 それにしても、対称的な二人だ。

 ちょっと意外なのは、丹間(タンマ)の方が天才型で、小津磨(オズマ)の方が努力型なところか。

 それにしても、野球(ベースボール)部員同士で、命がけの闘いとなっているのが意外だ。


 小津磨(オズマ)の武器は、背中に背負った七枚の金属ブーメランだ。

 複数のブーメランを、次々と投擲し、次々と受け止めてみせる。

 丹間(タンマ)の懐には、薄荷(はっか)ちゃんがいるのに、迷うことなくブーメランを投げている。

 薄荷(はっか)ちゃんに当っても構わないと考えているのが、歴然だ。


 丹間(タンマ)の武器は、ゴテゴテと鋲が並んだ、凶悪な金棒だ。

 片手で、薄荷(はっか)ちゃんを抱いたままだというのに、もう片方の手だけで金棒を握り、小津磨(オズマ)の放つブーメランを、次々打ち返しているぜ。


 ブーメランは、地面に叩き落とされると、消え去る。

そして小津磨(オズマ)の聖力により、自動でその背中の収納位置に再出現する。

これにより、小津磨(オズマ)は、聖力が続く限り尽きることなく、ブーメランを放ち続けることができるようだぜ。


 二人の力量が突出しているため、周囲の者たちは、その闘いに介入できずにいる。


 激しい攻防の間に、二人は、辺り憚ることなく、大声で怒鳴り合っている。


 「薄荷(はっか)ちゃんに、ブーメランが当ったらどうするだよ!」


 「俺が欲しいのは薄荷(はっか)の首だけだ!」


 「こんなカワイイもの、壊しちゃダメだ!」


 「カワイイからこそ、自分の手で壊したいんだろうが!」


 「おらだって、薄荷(はっか)ちゃんを独占したいだ!」

 丹間(タンマ)が、怒りを込めて、ブーメランを弾き返す。

そのブーメランが、小津磨(オズマ)の顔面を襲う。


 「だったら、俺たちで、どっかに連れ込んで、回そうぜ!」

 小津磨(オズマ)は、背中から、新たなブーメランを取り出す。

 その折れ曲がった箇所で、顔面に飛んできたブーメランを受け流し、更なる回転を与えて、丹間(タンマ)にUターンさせる。


 「そんなことしちゃダメだ!」

 丹間(タンマ)は、Uターンしてきたブーメランは、ちゃんと叩き落とした。


 「薄荷(はっか)ちゃんは、みんなの偶像(アイドル)だ!」

 ところが、続いて放たれたブーメランが、丹間(タンマ)腕の中の薄荷(はっか)ちゃんを直撃――。

 しそうになったので、丹間(タンマ)は、抱え込むようにして護る。


 小津磨(オズマ)は、Uターンさせたブーメランに続いて、Uターンに用いたブーメランも投げていたのだ。

 時間差攻撃による二投目のブーメランは、薄荷(はっか)ちゃんを抱え込んだ丹間(タンマ)の二の腕を切り裂いた。


 腕の筋肉を切られ、丹間(タンマ)薄荷(はっか)ちゃんを、取り落とし――。

 かけて、もう片方の手に握っていた金棒を捨て、身を挺して、薄荷(はっか)ちゃんを抱え込んだ。


 丹間(タンマ)は、我が身を挺して、薄荷(はっか)ちゃんを護ろうとしている。

 小津磨(オズマ)が次の一撃を繰り出せば、丹間(タンマ)の命はそれまでだ。


 「タンマ、ちょっとタンマ!」と、オレが、割って入った。


 二人は、オレたちがこの場に来ていることに、やっと気がついた。

 しかも、自分らは、いつの間にか『格闘部連合』に囲まれている。

 Bコート内で、やり合っていたはずの『小径球技連合』と『大径球技連合』の者たちは、オレたちに殺されるか逃げ出すかしている。


 丹間(タンマ)が、オレを見て、目を丸くしている。

 あれは、『カースウィチ』ファン、つまり、『服飾に呪われた魔法少女』ファンの反応だぜ。

 もし、戦闘中でなければ、薄荷(はっか)ちゃんだけでなく、オレにまで駆け寄ってきて、サインを懇願してきそうなヤツの目だ。


 小津磨(オズマ)も、オレが『服飾に呪われた魔法少女』だって、気づいている。

 「草野球じゃねえんだぞ。命の取り合いにタンマもマッタも……」

 自分の方が人気が上だと、虚勢を張って、マウントを取りたいのだろうが、勢いがない。

 そのセリフは、尻すぼみになっていく。


 オレは、そんな小津磨(オズマ)を無視して、丹間(タンマ)に声をかける。

 「オマエ、その腕、ほら、薄荷(はっか)ちゃんが……」


 薄荷(はっか)ちゃんが、丹間(タンマ)の腕の中で、気を失っているのは間違いない。

 なのに、薄荷(はっか)ちゃんは、気を失ったまま必死の形相で丹間(タンマ)にしがみついている。


 薄荷(はっか)ちゃんの小さな掌が、丹間(タンマ)の二の腕を、確りと握りしめている。

 薄荷(はっか)ちゃんの掌から、淡いピンクの光球が、いくつも溢れだしている。

 みるみるうちに、切断されたはずの筋肉が繋がり、傷そのものが消えていく。


 薄荷(はっか)ちゃんが、意識を失ったまま、丹間(タンマ)の傷を『否定』しているのだ。

 薄荷(はっか)ちゃんは、『パニエ貞操帯』で拘束され、魔力行使はできなくなっている。

 戦闘力なんて皆無なのに、治癒力だけは高まっているみたいだ。


 薄荷(はっか)ちゃんの唇が、微かに動いた。

 「オニイチャン」と、動いた気がする。


 なんにしても、男嫌いの薄荷(はっか)ちゃんが、大男の丹間(タンマ)にしがみついているのは驚きだ。


 オレは、丹間(タンマ)に話しかける。

 「オマエ、デカイな~。相撲部に入んない? 女子相撲部じゃないぞ。男子がやってる、相撲部の方だ。そうすりゃ、『格闘部連合』員として薄荷(はっか)ちゃんの傍に居れるぞ」


 丹間(タンマ)は、オレより頭がニブそうだが、ちゃんとオレの誘いを理解できたらしい。

 「おら、『格闘部連合』に加わるだ。だから、こんど、薄荷(はっか)ちゃんと、綾女(あやめ)ちゃんのサイン欲しいだ」

 などと、いきなり、ねだってくる。


 オレの横にいた女戦士(アマゾネス)族長が、呆れ声で、丹間(タンマ)を叱る。

 「バカ、オマエ、馴れ馴れしいぞ。綾女(あやめ)様のことは、大将とお呼びしろ。ちゃんと敬え」


 そこに居た者たちが、思わず笑みを浮かべ、場が和んだ――その瞬間、小津磨(オズマ)が動いた。

 横っ飛びになりながら、ブーメランを、オレに向かって投げた。


 オレは「グングニル」と呟いて、神槍を呼び寄せる。


 小津磨(オズマ)の投げたブーメランは、一旦浮き上がってから、三つに分裂した。

 いや、分裂したのではない。

 ブーメランは、金属製の薄さを利用して、三枚重ねで投擲されていたのだ。


 各ブーメランは、一旦浮き上がってから、小津磨(オズマ)の聖力により、それぞれに動きが変化する。

 利き腕と反対の方向に曲がりながら落ちるカーブ。

 投手の利き腕方向に曲がるシュート。

 そして、縦に落ちてくるフォーク。


 オレは、フォークを、グングニルの柄で弾く。

 グングニルを取り回し、シュートを穂先で、カーブを石突で叩く。


 直感で、トンボを切って、その場を離れる……と、何かがそこを飛び抜けていった。

 案の定、最初に弾いたフォークのブーメランが、オレの背面を直撃するところだったのだ。


 そこまでで、ブーメランは地に落ちて消え、小津磨(オズマ)の背中に戻る。

 小津磨(オズマ)の聖力では、それ以上、飛ばし続けることはできないようだ。


 小津磨(オズマ)の狙いは別にあった。

 オレが、ブーメラン三つを叩き落としている間に、動いていた。

 四つめブーメランを、手に握って振り翳しつつ、丹間(タンマ)に駆け寄る。


 小津磨(オズマ)の狙いは、さきほどと同様、丹間(タンマ)の腕の中にある薄荷(はっか)ちゃんの首を切り落とし、それを持ち逃げすることだったのだ。


 くそっ、ブーメランに対応していたオレの位置からでは、それに間に合わない。


 丹間(タンマ)が動いた。

 さきほど取り落とした、自身の金棒を、つま先で引っかけて、跳ね上げる。

 それを、薄荷(はっか)ちゃんに治癒してもらった腕で掴んで、小津磨(オズマ)の顔面めがけて振り抜いた。

 小津磨(オズマ)ご自慢の、偏差値の高い顔面が、ぐしゃりと潰れる。

 小津磨(オズマ)は、そのまま、絶命した。


 ☆


 オレは、この場を、引きあげることにした。

 『大径球技連合』は、あらかた、やっつけた。

 『小径球技連合』については、AコートとBコートは壊滅。

 CからTのコートから駆けつけてきた者たちは、オレたちが侵攻してきた時点で、元のコートへ逃げ戻った。


 丹間(タンマ)は、目覚める様子のない薄荷(はっか)ちゃんを片手に抱え、もう片方の手に金棒を握って、オレの後に続く。


 Bコートを出たところで、今頃になってやっと、センターコートから鍍金(めっき)皇子がやってきた。

 戦闘用ラケットを手にした庭球(テニス)部員たちを、引き連れている。


 鍍金(めっき)皇子は、緊張していた面持ちを、和らげる。

 「おう、『大径球技連合』に続いて、もう一組攻め入ってきたと報告されたが、菖蒲(しょうぶ)子爵家の綾女(あやめ)ではないか」

 菖蒲(しょうぶ)子爵家の者は、代々王族を護ってきた。

 それに、オレは、庭球(テニス)部の後輩だ。

 鍍金(めっき)皇子は、オレが、自分を助けにきたと安堵したのだろう。


 丹間(タンマ)が抱っこしている薄荷(はっか)ちゃんを指して、オレに言う。

 「俺様の側室を、取り戻してくれたみたいだな。礼を言う」


 オレは、改まった口調で答える。

 「皇子、そうではありません。オレは、『格闘部連合』の大将として、武闘体育祭の優勝賞品である薄荷(はっか)ちゃんを奪取しに来たんです」


 「薄荷(はっか)は、自分の方から、自分を俺様のものにしてくれと懇願してきたんだ。綾女(あやめ)は、『服飾に呪われた魔法少女』仲間である薄荷(はっか)の望む幸せを、尊重してあげるべきではないか」


 「皇子、先日、皇子の婚約者であられる芍薬(しゃくやく)牡丹(ぼたん)様が、『格闘部連合』本拠地である鹿鳴國技館に押しかけてこられました。そのまま、いまも、居座っておられます。だから、牡丹(ぼたん)様から、事の経緯を聞き及んでいます」

 「薄荷(はっか)ちゃんは、皇子の側室にして欲しいなんて言ってませんよね。薄荷(はっか)ちゃんは、男の人なんて好きになれないけど、自分の身を差し出すので、闘球(ラグビー)部のオニイチャンたちを保護して欲しいと、申し出ただけですよね」

 「しかしながら、このていたらくは、なんですか? いまごろおっとり刀で駆けつけてきたって、保護下に置いたはずの闘球(ラグビー)部は壊滅し、薄荷(はっか)ちゃんは、オレが来なきゃ、死んでましたよ」

 「武闘体育祭は、身分の上下を問わない、鹿鳴館學園のイベントです。だから、奪い合うべき『お宝』である薄荷(はっか)ちゃんは、『格闘部連合』が持ち帰ります。皇子に異存がおありなら、この場で、武闘体育祭における賞品奪還戦を、やってもいいですよ」


 オレは、夏の間に、とんでもなく強くなっている。

 そして、ちょっとだけ、ものが考えられるようになっている。


 鍍金(めっき)皇子は、「ぐぬぬ」と唸りながらも反論できず、仕掛けても来なかった。

 オレたち『格闘部連合』は、誰にも邪魔されることなく堂々と、鹿鳴テニスセンターをあとにした。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■九月一二日 鹿鳴國技館②丹間

鹿鳴テニスセンターで救出された、薄荷(はっか)ちゃん。

いまは、気を失ったまま、鹿鳴国技館の土俵上に寝かされているだ。

そんな、薄荷(はっか)ちゃんのスカートの中に手を伸ばす不審人物!

薄荷(はっか)ちゃん、危機一髪!

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