■九月一日② 武闘体育祭の競技開始
■この物語を読み進めてくださっている方々に、感謝いたします。
これまで、この物語は、「皇立鹿鳴館學園と服飾の呪い」というタイトルのみで、書き進めて参りました。
この度、このタイトルに、サブタイトルを付記する試みを、思い立ちました。
新しいタイトルは、「皇立鹿鳴館學園と服飾の呪い 若しくは、ピンクのセーラー服しか着れないオトコノコの物語」となります。
作者として、今後も、読んでいただいている皆様を、確実に結末までお連れできるよう、取り組んで参ります。
引き続き、ご贔屓、ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。
今後も、作者の気まぐれで、タイトル等を弄る可能性もあろうかと思います。
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カストリ皇國軍の闇烏暗部参謀によって、今年の武闘体育祭の優勝賞品と、競技ルールが発表された。
鹿鳴アリーナに参集していた、鹿鳴館學園の生徒たちは、これに、歓声をあげ、沸き立った。
だって、あの、學園偶像のハカハカを、自分だけのものに、独占できるんだよ。
カストリ皇國民なら、性別、年齢を問わず、ハカハカに夢中だからね。
『セーラー服魔法少女』に、あんなこと、し放題なんだよ。
『科學戦隊お色気ピンク』に、こんなこと、やり放題なんだよ。
……多くの學生が、己が妄想に溺れている。
そんな中、俺――田老耶麻太――は、我が闘球部員八十余名と視線を交わし、互いの決意を確認し合う。
儚内薄荷ちゃんは、俺たちの『心の妹』だ。
多くの者たちが向けている邪な魔の手から、俺たちこそが『心の妹』を護るんだ。
俺たちは、昨日のうちから、今年の武闘体育祭の優勝賞品と競技ルールを知っていた。
昨日、『カードパーシヴァーさいこ』の一人である漣伝子さんが報せてくれたからだ。
伝子さんは、念話で、俺たちの脳内に、ひとつの映像を見せてきた。
それは、『カードパーシヴァーさいこ』のリーダーである極光智子さんが、予知した、最も発生確率の高い未来だそうだ。
暗部参謀が、「競技開始」を宣言するや、会場中の學生たちが、十字架上の薄荷ちゃんに向かって、押し寄せていく。
それは、あれよあれよという間に、魔力や、聖力の飛び交う乱闘へと発展する未来だ。
このままでは、学生たちによる、薄荷ちゃんの奪い合いとなる。
誰もが譲らず、薄荷ちゃんの身体を掴んで、離さないだろう。
薄荷ちゃんの身体が、引きちぎられ、四散するだろう。
誰もが、その肉片を我が物にして、持ち帰ろうとするだろう。
俺の脳裏に、このまま放置すれば至るであろう、暗澹たる惨状が思い浮かぶ。
薄荷ちゃんが、そんな最後を迎えて良いはずがない。
伝子さんが、念話で、語りかけてきた。
――うちら、『カードパーシヴァーさいこ』は、
薄荷様の父上に恩義があり、
薄荷様と、運命を共にしてるの。
――薄荷様ってさ、メチャクチャ可愛いけど、
ただの、アホの子なの。
オトコノコなのに、なぜだか、
物語から、ヒロインに選ばれてしまっただけ。
今では、偶像なんてものに祭り上げられて、
皇國中の人々から、欲望を向けられる対象となってしまったの。
――うちらは、何としても、
薄荷様を、お助けしたい。
だから、智子は、己が命を削って、
予知を繰り返し、
ひとつの可能性を見いだしたの。
――未来の分岐の先に、あんたら、闘球部を見つけ出した。
あんたらは、薄荷様のことを、
護るべき『心の妹』と考えているの。
あんたらは、薄荷様を手中にしても、
欲望の捌け口とはしない。
大切な『女子マネージャー』として、
命がけで護ってくれるわ
……と、智子が言ってるの。
――だから、うちが、ここに来た。
どうか、薄荷様を護って欲しいの。
闘球部が、薄荷様を護り、
『女子マネージャー』として獲得する意思があるなら、
うちら、『カードパーシヴァーさいこ』は、
協力する用意があるの。
俺たちは、互いの意思を確認し合った。
そもそも、學園に入學した者が、三年間生き残れる可能性は、ごく僅かなのだ。
ならば、俺らは、薄荷ちゃんのために、生きて、死のうと結論が出た。
☆
限られた時間の中で、できる限りの準備をした。
そして、俺たちは、昨夜のうちから、鹿鳴アリーナの入場口に並んだ。
揃いの横縞ユニフォームに身を包み、ハカで、気合いを入れる。
入場ゲイトが開くと同時に、アリーナに駆け込み、全員で最前列の席に陣取った。
暗部参謀が、優勝賞品と競技ルールの説明を終える直前、俺たちは、揃いのヘッドキャップを取り出して被る。
席から腰を浮かせて、前傾姿勢となる。
暗部参謀が、「競技開始」を宣言する。
俺たちは、全力で、舞台へと駆け寄る。
舞台には、一メートル半ほどの高さがある。
その舞台に、頭をつけて、フォワード八人が、スクラムを組む。
そのスクラムの背を踏んで、バックスの七人が、舞台上へと躍り出る。
先頭を駆けるのはスクラムハーフ。
副キャプテンの一路鱸だ。
鱸は、十字架上の薄荷ちゃんに取り付き、その腰に手を回す。
続いて、駆けつけたのは、スタンドオフの俺。
つまり、キャプテンの田老耶麻太だ。
俺は、抱えてきた大きなメタルカッターで、薄荷ちゃんを十字架に縛り付けていた有刺鉄線を、次々と切り落とす。
薄荷ちゃんの身体が、拘束から解放され、鱸の肩へ崩れ落ちて来る。
鱸は、そんな薄荷ちゃんの身体を、胎児の姿勢に丸める。
そして、舞台下のフォワードへ向かってパスした。
ここまで、ほんの数秒だ。
まだ、俺たち以外、舞台に上がって来ていない。
俺の傍、演壇にいる暗部参謀も、この素早い展開に驚いている。
正念場はこれからだ。
舞台下には、既に、他の運動部が、押し寄せて来ている。
闘球部の正選手外の六十五人は、退路を確保しようと動いている。
目指すは、舞台下、右脇の非常口だ。
次々と、薄荷ちゃんの身体をパスしながら、非常口を目指す。
舞台上のバックス七人は、舞台下で身体を張っている部員達を助けるべく、群がってくる奴らへ向かって、火炎瓶や発煙筒を投げる。
煙に噎せ返る者、飛び散ったガソリンに焼かれる者が出て、奴らの追撃が鈍る。
これで逃げ切れるかと思ったら、鹿鳴アリーナ内に、非常ベルが鳴り響き、スプリンクラーが作動した。
細かな水飛沫が散布され、火炎瓶由来の炎が消えていく。
だが、発煙筒の煙は残り、スプリンクラーの水飛沫が充満し、場内の視界が悪くなる。
闘球部員を追う生徒には。短刀などの武器を握っている奴も多い。
部活間の抗争が激しくなってきているから、この場に隠し持っていたのだ。
当然の備えではある。
対する、我が闘球部は、無手での肉弾戦が身上だ。
身体強化に回した、魔力や聖力頼りだ。
しかも、薄荷ちゃんを抱えている者については、両手が塞がっている。
肩や頭から、体当たりしつつ、後続の部員に薄荷ちゃんを投げ渡す。
横合いから、組織的な動きで、迫る者たちがいる。
あれは、排球部だ。
全員が、ヌンチャクを手にしている。
闘球部員の頭部をバレーボールに見做し、アタックする要領で、ヌンチャクを振り降ろしてくる。
数人の闘球部員が、頭を割られて、崩れ落ちる。
一年生の闘球部員たちが、一瞬、怯む。
くそっ、パス回しが止まって、追いつかれた。
排球部のアタッカーが、「クケケケケッ」と奇声をあげながら、ヌンチャクを振り回して、暴れている。
彼奴だけは、許さない!
彼奴は、里雨ちゃんの仇だ。
☆
いきなり、里雨ちゃんって言っても、誰だか分らないよな。
里雨ちゃんは、我が闘球部に一人だけいた、女子マネージャーの子だ。
俺や鱸と同期で、魔法少女育成科三年生だった。
ロールが『保健係』だったせいて、魔法少女としてのメインキャラクター入りは早めに断念し、闘球部の女子マネージャーに専念してくれていた。
「うち、もし、魔法少女としての力があったら、きっと『科學の鉄槌』の物語にまき込まれて、早々に死んでたって思う」
そう言って、淋しげに笑っていた。
ほんとうは、子供の頃から、魔法少女のメインキャラとなることを夢見ていたのだろう。
今年の夏合宿の際、そんな里雨ちゃんを、この排球部のアタッカーと、もう一人、蹴球部のウィングが、奪い合い、そのあげく、殺された。
☆
俺を含むバックス七人は、舞台上を走る。
七人は、次々と薄荷ちゃんを抱える部員を、襲おうと武器を振り回している奴らへ向かって、ダイブする。
排球部員たちを、頭上から襲い、蹴り跳ばし、捻り潰す。
俺がダイブした先は、排球部のアタッカーだ。
手にしていたメタルカッターを、アタッカーの頭部に、何度も叩きつけた。
――里雨ちゃん、仇の一人は殺ったぜ。
血まみれのメタルカッターを投げ捨てて、見回すと、乱戦状態となっていた。
排球部に加えて、雑多な部活の武器持ちたちに囲まれている。
彼奴ら、事前の連携などないのに、闘球部の横縞ユニフォームだけ襲いかかっている。
薄荷ちゃんを抱えた闘球部員の背中に、排球部のヌンチャクがヒットし、仰け反った。
その手から、身体を丸めた薄荷ちゃんが、落ちる。
鱸が、スライディングして、床すれすれで、薄荷ちゃんを受け止める。
だが、そこへ、腰だめに短刀を構えた奴が、突っ込んで来ていた。
あれでは、薄荷ちゃんに突き刺さる。
鱸が、身体を捻って、敢えて自分の腹部で短刀を受け止め、薄荷ちゃんを投擲する。
鱸の強い魔力あってこその、ロングパスだ。
ロングパスの届く先へ向かって、大柄な闘球部員が、走っている。
脱出予定の非常口は、眼前だ。
あの大柄な闘球部員、夏合宿後に入部してきた新人だ。
鷹嘴って名だったか。
的確な判断だ。
あれなら、フォワードに抜擢できる。
ただし、困ったことに、非常口で待ち構えている奴らがいる。
籠球部だ。
籠球部員たちは、焙烙火矢を手にしている。
球状の陶器に、火薬を仕込んだ武器だ。
導火線に火をつけて投擲する、旧式の手榴弾みたいなものだ。
籠球部の奴らは、その投擲が、しごく巧い。
鷹嘴が、薄荷ちゃんをチャッチするところへ合わせて、いくつもの焙烙火矢がシュートされた。
鷹嘴は、掴んだ薄荷ちゃんの身体を引き寄せ、自身の身体で包み込む。
焙烙火矢が爆発し、鷹嘴の身体に、炎が纏わり付き、砕けた陶片が突き刺さる。
籠球部の奴らは、俺たちを阻むように非常口前を固めている。
そして、まだまだ、いくつもの焙烙火矢を手にしている。
突破は困難だ。
俺は、ヘッドキャップに挟み込んでおいた、二枚のカードを取りだした。
☆
その二枚のカードは、昨日、『カードパーシヴァーさいこ』の伝子さんから渡されたものだ。
シンプルな図形が書き込まれただけの、白いカードだ。
――この二枚のカードが、うちらの協力の証。
十字マークは、発火。
丸形マークは、念動。
――このカードは、五枚で、うちらの仲間ひとりの命に相当するの。
だから、二枚しかあげれない。
大切に使って……。
『カード五枚が命ひとつ』と言われても、意味が分らない。
だけど、伝子さんたちが、命がけで薄荷ちゃんを護ろうとしていることだけは、痛いほど伝わってきた。
☆
俺は、発火のカードを、非常口へ向かって投げた。
カードは、横回転しながら飛んでいって、非常口に貼り付いた。
非常口が、爆散した。
破砕された扉が、非常口の前で待ち構えていた籠球部員たちを、薙ぎ倒す。
更に、非常口の向こうから、炎が吹き込んできた。
その炎が、籠球部員たちが手にしていた焙烙火矢を爆散させる。
炎が収まった瞬間、鷹嘴が跳ね起きる。
非常口へ向かって走りはじめる。
その背中は、焼け爛れ、いくつもの陶片が刺さっている。
鷹嘴は、確と薄荷ちゃんの身体を抱え込んでいる。
だが、薄荷ちゃんの状態を確認している余裕はない。
鱸が、他の部員を先導しながら、鷹嘴に続く。
俺たち籠球部員だけが、発火のカードの効果を知っており、予めカード使用時の対応を決めていたから、即応できた。
俺は、殿を務める。
そして、非常口を抜けたところで、念動のカードを背後に投げた。
ガタンと、非常口の扉が閉じた。
そして、開かなくなった。
その非常口だけではない。
鹿鳴アリーナの全ての扉が開かなくなった。
それは、一時間ほど、鹿鳴アリーナを包み込む障壁を、創り出す。
俺たちは、その間に、ホームグラウンドの鹿鳴ラグビー場へと逃げ込んだ。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■九月一日③ 鹿鳴ラグビー場①耶麻太
闘球部のオニイチャンたち、ありがとう。
オニイチャンたちが命がけで助けてくれなかったら、ボク、武闘体育祭の開始直後に死んじゃってたよね。
ボク、感謝の気持ちを込めて、ご奉仕するね♥