■八月二六日~三一日 鹿鳴館學園への帰還
八月二六日、ボクら『服飾に呪われた魔法少女』五人は、豹裂館學園駅から、東へ向かう大陸横断鉄道に乗り込んだ。
『舞踏衣装魔法少女』の宝生明星様。
『文化部衣装魔法少女』のスイレンレンゲさん。
『運動部衣装魔法少女』の菖蒲綾女ちゃん。
『スクール水着魔女っ子』の金平糖菓ちゃん。
そして、『セーラー服魔法少女』の、ボク、儚内薄荷だ。
乗り込んだのは、通常列車の煩悩号を偽装しているが、装甲の分厚い、軍用の天罰号だ。
天罰号は、列車砲のような重量のある車両も牽引可能な新型機関車で、兵器扱いとなる。
兵器であるから、断りもなく他国へ乗り入れれば、侵略と見做されかねない。
だから、通常列車への偽装を行ったうえで、政治的な駆け引きも行って、トマソン法國に乗り入れている。
ボクら五人が利用するのは、VIP用客車だ。
一人一室のコンパートメントで、決して広くはないけど、折り畳み収納が工夫されていて、機能的な造りだ。
テーブル付きのソファーや、ふかふかのベッドだけでなく、専用のシャワーやトイレまで付いている。
食事は全てコンパートメントにサーブされるし、お菓子やドリンクまで追加オーダーし放題。
しかも、追加オーダー分を含めて、全額皇國軍負担だ。
翌二七日、エイチの塔の最寄り駅で、一日停車。
客車に見せかけた改造貨車五両に、それぞれ戦闘車両を一台づつ積み込む。
そして、新たに七人の人物が、天罰号のVIP用客車に乗り込んできた。
まず、『科學戦隊レオタン』の、ボク以外の正隊員、四人。
リーダー『爆炎レッド』の南蛮増長さん。
サブリーダー『氷結ブルー』の北狄で多聞さん。
『雷撃イエロー』の東夷持國さん。
『旋風グリーン』の西戎広目さん。
それから、皇國軍関係者が、三人だ。
一人目は、興業プロモーターの毀誉褒貶氏。
この人、軍人じゃないくせに、鹿鳴駐屯地内に、執務室を持ってるんだよね。
軍属扱いなんだって。
背丈はさほどないのに、でっぷり太った男性だ。
薄くなった頭頂部を、周囲の頭髪を持ち上げて隠している。
仕立ての良い背広姿だけど、不思議なほど似合っていない。
二人目は、造兵廠研究官の蛇行濁流少佐。
背は高いのに、ひょろりと痩せた男性だ。
もう何年も洗濯してなさそうな、黄ばんだヨレヨレの白衣姿。
血走った眼球を、いつも、キョロキョロとせわしく動かしている。
三人目は、白桃撓和大佐だ。
先代の『お色気ピンク』で、戦闘車両や、変形合体ロボットの開発者。
天から二物を与えられた、コケテッシュな美人さん。
豊満なGカップの巨乳を揺らし、形の良いお尻を振って歩く。
迷彩柄のボティコンのミニワンピの上に、皇國軍制服の上着を羽織っている。
撓和大佐は、學園の三年生でありながら、先日まで、皇國軍南方方面司令官を務めておられた。
そして、このたび、科學戦隊担当司令官を引き受けてくださった。
戦闘車両や、変形合体ロボットには、召喚者である撓和大佐が、『あの世界』から持ち込んだテクノロジーが満載されている。
撓和大佐でなければ、いまだ理解すらできていない機構だらけだ。
撓和大佐は、ろくに戦闘車両のメンテナンスもできない、科學戦隊の現状を、見るに見かねたそうだ。
ホントは、最敬礼して、撓和大佐とお呼びし、絶対服従しなきゃいけない相手だ。
だけど、ボクらは撓和さんと、お呼びしている。
ご本人から、「わたしたち、同じ學生同士だし、望んで皇國軍にいるわけでもないから、『さん』付けで呼んでね」と言われたからだ。
「言っておくけど、わたしの司令官就任は、本来独立した組織であるべき科學戦隊が、皇國軍の傘下となりつつあるということであり、まったくもって望ましいことではないの」
苦虫を噛みつぶしたような顔で、そう仰っていた。
ホント、頭が、あがらないんだけど……ただ、ボクのこと、やたらとボディタッチしてくるのは、勘弁して欲しい。
大佐で、かつ司令官の肩書きを持つ人から「お色気修行の一環よ」って言われたら、三等兵のボクには拒否なんてできない。
頭を撫でられるのはともかく、ミ二スカートのなかに、手を突っこんでくるんですけど……。
☆
天罰号は、東へ向かっている。
八月三一日には、皇都トリスを通過し、鹿鳴館學園駅に着く。
『服飾に呪われた魔法少女』と、『科學戦隊レオタン隊員』は、そこで下車して、九月一日から始まる鹿鳴館學園の後期授業に復帰する。
天罰号は、そのまま、皇國軍関係者三人と、戦闘車両五台を乗せて、科學戦隊基地駅へ向かう。
八月二七日から二九日の三日間は、各搭乗隊員立ち会いで、撓和さんによる、戦闘車両の状態チェックが行われた。
撓和さんは、激オコ状態だ。
どの戦闘車両も、限界を超えて酷使されていて、目も当てられない状態だそうだ。
「メカフェチへの冒瀆よ」って、口をヘの字に曲げていた。
戦闘車両は、最低限のメンテナンスすら、ろくにできていない状態でこの夏巡業中、酷使され続けたからね。
東の海で海水を浴び、南の温泉に浸かり、北の大地で蟲まみれになり、あげく西の砂漠で砂まみれとなった。
もはや、動作の度に、キコキコという異音がするし、いつ壊れてもおかしくないらしい。
科學戦隊基地に運んでドックにいれ、オーバーホールするしかないそうだ。
それに、現科學戦隊隊員に合わせた、チューニングも必須だという。
どうして、そんな基本的なことすらやっていないのか、と叱られた。
ボクが搭乗するP戦闘車両については、デチューンするしかないとのことだ。
大量破壊兵器の大半を取り外し、変形合体時の操作をシンプル化するそうだ。
八月三十日、皇國軍関係者三人によって、『服飾に呪われた魔法少女』と『科學戦隊レオタン隊員』が集められた。
いつもの会議と同じく、褒貶氏が、進行役だ。
「お疲れ様ですです。皇國軍宣伝部隊としての、夏巡業は、明日で終了ですです」
濁流少佐なんて、「一人も欠けることなく終えられて、良かった」と、ハンケチで目元を拭っている。
皇國軍では、巡業中に、ぼくらの中から、数人の死傷者が出るものと予測していたらしい。
場を和ませようと思って、「明日で、やっと退役だ。お役ごめんだね」と喜んでみせたら、撓和さんから、「皇國軍が、あなたたちを手放すわけないでしょ」と怒られた。
官職を持ったまま、予備役になるだけだそうだ。
あくまで、軍人として、學園に通うのだ。
もし、来年の夏まで學園で生き延びていたら、また夏巡業にかり出される可能性が、高いそうだ。
この夏の功績が認められ、ボク以外の八人は、階級が『少尉』から『中尉』に上がった。
ただ、ボクだけは、『三等兵』のままだ。
無理だと分っているけど、「ボクも、せめて、二等兵にしてくださいよ」と言ってみた。
皇國軍関係者三人が、気まずそうに、顔を見合わせた。
発言者を譲り合ったあげく、撓和さんが、決意したように口を開いた。
「この車両内なら、防諜は万全なの。薄荷ちゃんに話しておくなら今しかないし、話しをするのは、この世界の人間ではない、わたしが適任でしょう。整理して、順番に話すから、聞いてね」
☆
皇國軍が、物語のメインキャラクターと思しき人間を徴兵する場合、貴族であろうと平民であろうと、仕官待遇とするのが慣例なの。
だけど、薄荷ちゃんには、それが適用されなかった。
薄荷ちゃんの位が、三等兵となったのは、徴兵検査の結果が癸種『廃棄』だったから。
癸種『廃棄』の者は、廃棄物として扱われ、人間扱いしてはならない。
そして、二等兵までは、人間の階級だから、薄荷ちゃんの位は、その下の三等兵にせざるを得なかった。
つまり、ロボット三等兵なんかと同じ扱いってことね。
この夏巡業の論功行賞に際し、褒貶氏と、濁流少佐は、薄荷ちゃんの功績を最も高く評価し、仕官待遇とすることを強く求めたの。
だけど、その求めは、考慮すらされなかった。
それどころか、褒貶氏と、濁流少佐は、叱責を受けたそうよ。
「どうして、癸種『廃棄』の者を、この巡業内で、廃棄に至らしめなかったのか」と。
そもそも、薄荷ちゃんの徴兵検査結果が、癸種『廃棄』であることがおかしいの。
薄荷ちゃんの肉体は、確かに発育不全よ。
だけど、薄荷ちゃんは、それを補って余りある、膨大な魔力を有している。
本来なら、それだけで、甲種『合格』してなきゃおかしいの。
この國の上の方の立場にある誰かが、意図的に命じたのでもなきゃ、癸種『廃棄』なんてあり得ないわ。
褒貶氏と、濁流少佐と、わたしが、このタイミングで、こんな話しをするのは、薄荷ちゃんと、その仲間に警戒を促したいからなの。
☆
先に、この場にいる全員の、安全確保にかかわる話しをするわ。
夏巡業で撮影された、『服飾に呪われた魔法少女』と『科學戦隊レオタン』の各四話は、既に放送済よ。
どちらのシリーズのヒロインもヒーローも、カストリ皇國中の人々に、熱狂的に受け入れられているわ。
『カースウィチ』も『レンジャラス』も、スーパー偶像となっているわ。
だから、この場にいる九人については、警護なして、皇國軍や科學戦隊の基地外、もしくは學園の敷地外に出ることを禁じるわ。
現状、魔法少女ヒロインと科學戦隊ヒーローが、八月中に鹿鳴館學園へ帰還すると考えたファンたちが、全国から學園駅前に集結しつつあるの。
明後日は、あなたたちを安全に駅から學園へと移動させるため、軍用車両と兵団を出動させる予定よ。
學園内についても、もはや安全ではなくなってきているの。
學園の生徒たちは、物語の大切さを理解しており、メインキャラクターだというだけで、あなたたちに、むやみに干渉してくることは少ない。
だけど、毎年、學園は、後期授業が始まるこの時期に、雰囲気が一変するの。
學園の生徒総数は約二万名で、それが一年で半減し、翌年四月に一万名の新一年生が補充される。
これは、もう、理解してるよね。
つまり、四月の前期授業が始まり、八月の授業休止期間を経た現段階で、すでに、結構な数の生徒が、亡くなっている。
死を身近に体験した生徒たちは、己の生き残りをかけた生存競争を始めている。
これから始まる後期の授業こそが、本格的な、闘いの場になると分っているからよ。
後期授業は、イベントづくめ。
九月が武闘体育祭、十月が文化祭、十一月が聖魔奉納祭、十二月が神逢祭となっている。
毎年の死亡者の多くは、その闘争に敗れた者たちよ。
生徒たちは、部活を中心に既に結束し、生存をかけた闘いに備えているところなの。
だから、あなたたちも、學園内では徒党を組んで活動するよう、お勧めするわ。
☆
以上を踏まえて、いよいよ、薄荷ちゃんの危険性についての話しね。
まず、薄荷ちゃんが、癸種『廃棄』なのは、この國の上の方にいる誰かさんの意図によるもの、だとしましょう。
薄荷ちゃんは、その誰かさんを、更に怒らせちゃったみたいなの。
何が、いけなかったのかと言うと、七月三〇日の、前期末舞踏会ね。
薄荷ちゃんは、世継ぎすら産めない名誉女子の貧民でありながら、カストリ皇國の皇子三人を弄んだ。
わたしたち三人が得ている感触として、薄荷ちゃんに対しては、近いうちに何らかの実力行使があると思う。
☆
そんな話しのあと、夏巡業の打ち上げとなった。
バイキング形式の豪華な夕食と、お酒が振る舞われた。
みんなで、苦労と成果を語りあった。
東のフェロモン諸島。
南のジャングル風呂地帯。
北のツンデレ地帯。
そして、西のゴミ砂漠。
いろんなことがありすぎて、たった三カ月間のできごととは思えない。
最後は、全員で、しんみりしてしまった。
「それにしても、ギリギリ、九月一日の後期始業式に間に合って良かったぜ」
綾女ちゃんが、話題を、これからのことに切り替えた。
場を盛り上げようと、思ったのだろう。
「えっ、勉強嫌いの綾女ちゃんが、後期の始業を気にしてるなんて、槍でも降るんじゃない……」
「オレが、授業のことなんか気にするわけないぜ。後期始業式で、今年の武闘体育祭の競技内容が発表されるんだ。今年はさ、女子相撲部と、女子プロレス部が共闘して、武闘体育祭の優勝を目指そうってことになってんだよ」
ボクは、綾女ちゃんの力説を、「へぇ~」っと受け流しながら、肉串を手に取る。
「ボク、運動は苦手なんだ。白鼠小學校の運動会でも、ビリッケツばかりだったし……。夏巡業で疲労困憊しちゃったから、ボク、間違いなく、一週間は寝込んじゃうな。だから、始業式は欠席するよ」
綾女ちゃんは、ボクの握っている肉串に、横からカブリつく。
「それ、鹿鳴館學園の生徒として、どうなの。學園の生徒はみんな、卒業後の未来を掴み取るため、武闘体育祭を楽しみにしてるんだぜ」
明星様が、呆れた声を出す。
「武闘体育祭については、生徒の多くは、楽しみどころか戦々恐々だよ。結局は、部活同士の殺し合いだからね。僕は、当面、『801』や、そのOG会、さらには、『薄い本頒布会』で発生した問題の収拾で、手一杯だ。僕も、始業式には出れないな」
どうやら、綾女ちゃん以外は全員、始業式になんて、出ていられない様子だ。
レンゲさんは、ツンデレ地帯における蝗害の後始末と、大幅減産となった麦の取り扱いについて、あれこれ動かなければならないそうだ。
糖菓ちゃんは、『新水泳部』を、部活の枠を超えた、義賊のための政治組織とすべく活動予定だ。
『科學戦隊レオタン』メンバーたちも、大変だそうだ。
戦闘車両を、科學戦隊基地に運んでオーバーホールするのは必須だ。
だが、事はそんなことでは、治まらないらしい。
撓和大佐の指揮の下、科學戦隊組織の改革と、再教育が行われることになったそうだ。
確かに、戦闘車両や、変形合体ロボットには、召喚者である撓和さんが、『あの世界』から持ち込んだテクノロジーが満載されている。
だけど、撓和さんがいなくては、ちゃんとしたメンテナンスすらできないなどということがあって良いはずがない。
撓和さんは、地獄の再教育だと、息巻いていた。
ボクについては、『お色気ピンク』を引き受けはしたけど、科學戦隊組織には所属していないので、これを免除してもらえるそうだ。
☆
会議と、打ち上げが終わり、列車内の各自のコンパートメントへと戻る。
コンパートメント内で一人になると、ゾクッっと身震いがした。
ボクは、鹿鳴館學園への入學に際し、殺されることを覚悟し、そのうえで日々行動してきたつもりだ。
學園で、多くの人と知り合い、『服飾に呪われた魔法少女』仲間たちも、『科學戦隊レオタン』隊員たちも、そして皇國軍の三人も、ボクを護ると言ってくれる。
だけど、それでも、小心者のボクは、近日、自分に対し、何らかの実力行使が行われる可能性が高いと聞くと、やっぱり恐い。
ボクが、何より恐怖するのは、いたぶられ、辱められることだ。
そんなことなら、ひと思いに殺して欲しい、って思う。
のろのろと、『平服』のセパレーツセーラー服を脱いで、シャワーを浴びる。
『呪われた服飾』には、着用者の身体を含めた自浄機能がある。
だけど、それでも、シャワーを浴びれば、精神的な疲労を洗い流してくれる気がする。
ボクは、いつも、素肌にピンク鼠の着ぐるみパジャマを身につけて寝ている。
上着のフードに、ねずみさんのミミがついてて、カボチャパンツの後ろには、シッポがついてる。
とってもカワイイので、ボクのお気に入りだ。
ただ、今夜は、ボク専用の特殊兵装であるPAN2式を履いたうえで、着ぐるみパジャマを身につけることにした。
自浄機能のない着ぐるみパジャマの下に、PAN2式を着用することは、そのお尻のところに宿ってらっしゃる白鼠様に申し訳なくて、普段はやらない。
だけど、今夜だけは、白鼠様に護って欲しかった。
更に、ロッカーに収納しておいた、『転生勇者の剣ネコ』を引っ張りだしてきて、これを鞘ごと抱いて眠ることにした。
照明を落として、ベッドに入る。
これなら万全で眠れると思ったのに、ぜんぜん寝付けない。
それでも、うつらうつらしかけた、翌八月三一日の明け方、列車が停車したのが分った。
たぶん、皇都トリス駅だ。
ここで、一時間停車して、魔石炭や、水や、食料を補充してから、鹿鳴館學園駅へ向かうと聞いている。
何人もの人々が、列車に乗り降りする音が聞こえる。
唐突に、聖力が六つ、ベッドの周りに顕現した。
たぶん、レンゲさんの『転移』と類似した能力が行使されたんだと思う。
ボクは、咄嗟に、『転生勇者の剣ネコ』を抜こうとした。
だけど、重量のある長物なので、鞘につっかえて、半分ぐらいしか抜けない。
一人に、両手を掴まれ、別の一人に、剣を取り上げられてしまった。
他の三人が、ボクにのしかかってきた。
猿ぐつわを噛まされ、強力な聖力で、あっけなく取り押さえられた。
少し離れた場所から、ドスの利いた低い声がした。
「『呪われた服飾』は、本人の意思で顕現するから放置で良い。『呪われた服飾』の範疇ではない『転生勇者の剣ネコ』と、PAN2式を、剥奪せよ」
ボク、この声の主を知ってる?
一人が、部屋の照明を灯す。
声の主の顔が見えた。
闇烏暗部皇國軍参謀だ。
照明がつけられたのは、PAN2式を捜すためだ。
手の空いている数人が、ロッカーを開け、ボクの荷物を漁りはじめた。
暗部参謀以外の、コンパートメントに転移してきた全員が、厳つい男性で、揃いの制服を着ている。
ボクは、この制服も知っている。
カストリ皇國軍憲兵隊の制服だ。
ボクは、複数の男性に襲われるという状況にトラウマを刺激され震えあがる。
一人が、ハッと気づいて、ボクの着ぐるみパジャマの前ボタンを外し、中に手を突っこんできた。
「こいつ、PAN2式を装備してます!」
ボクは、そのスキに、開けられたボタンから、自分の下半身へ手を伸ばす。
PAN2式のお尻にある、白鼠様の絵姿に触ろうとしたんだ。
「阻止しろ! 白鼠様を召喚させるな!」
暗部参謀が、声量を抑えつつも、鋭く命じる。
憲兵五人は、寄ってたかって、ボクの両手をバンザイさせ、着ぐるみパジャマをズタズタに引き破る。
ボクの腰と両脚を固定し、PAN2式を、こんどは丁寧に引き抜いた。
ボクの精神は、複数の男性に襲われ、素っ裸にされるという状況に、耐えられない。
それは、ボクのトラウマに刻まれた、悪夢そのものだ。
ボクは、あふっと喉を詰まらせ、白目を剥き、そのまま意識を、手放した。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■九月一日① 武闘体育祭の賞品と競技ルール
九月一日は、鹿鳴館學園の後期始業式だ。
學園の生徒は、本館に隣接している大講堂、鹿鳴アリーナに集められる。
後期始業式は、何事もなく進行したものの、続く、武闘体育祭の詳細発表は、異例づくめの、とんでもないものだった。