■八月二五日 トマソン法國での後始末
■この物語を読み進めてくださっている方々に、感謝いたします。
最初にご案内させていただきましたように、この物語は、時間軸に従って直線的に進行していきます。
そして、主人公の成長に合わせて、三つの季節に分かれています。
第一部 揺籃の季節
第二部 汪溢の季節
第三部 爛熟の季節
本章をもちまして第二部が完結し、次章より第三部が始まります。
作者として、読んでいただいている皆様を、確実に結末までお連れしたいと、取り組んでいます。
今後とも、ご贔屓、ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。
また、「ブックマーク」に追加や、「ポイント」の★印や、「いいね等のリアクション」で、皆様のお力添えをいただけますよう、併せてお願いいたします。
僕は、宝生明星。
『舞踏衣装魔法少女』さ。
今日は、トマソン法國で起こったあれこれの精算日だ。
マスコミをシャットアウトして、関係者が集まっている。
『服飾に呪われた魔法少女』側の出席は、僕の他に三人。
○『文化部衣装魔法少女』のスイレンレンゲさん。
○『運動部衣装魔法少女』の菖蒲綾女ちゃん。
○『スクール水着魔女っ子』の金平糖菓ちゃん。
『セーラー服魔法少女』の儚内薄荷ちゃんについては、引き続き、タマラ・カバラ・エルドラド第四王女の『玩具』という役どころで、軟禁生活を続けてもらっている。
不穏分子を釣り上げるためのエサ役だよ。
これまで、四回の襲撃があったから、結構、成果はあがっているね。
さすがに、一昨日のコンサート後に、襲撃してきたバカは、いまのところいないけど……まあ、念のため、今日も続けてもらっている。
カストリ皇國側からの、他の出席者は、次の通り。
○第二皇女の白金王水様。
○皇女様の侍女である転貂手鞠さん。
薄荷ちゃんの幼なじみだそうだ。
○皇女様の小姓である儚内薄幸さん。
薄幸さんは男装女子。
内密に教えてもらったけど、女装男子である薄荷ちゃんの妹なのだそうだ。
トマソン法國側の出席者は、お一人だけだ。
○第四王女のタマラ・カバラ・エルドラド様。
☆
実は、八月二〇日にトマソン法國に着いて以来、毎日のように、僕と、王水皇女様と、タマラ王女様の三人で、密談を重ねてきた。
その成果が、一昨日のコンサートという次第だ。
學園偶像『カースウィチ』のコンサートは、この國の貴族女性たちに、熱狂的に受け入れられた。
想定以上の大成功だった。
コンサートの最後に、『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』の別売り見開きページの特別販売会を行った。
薄荷ちゃんと握手してから、別売り見開きページに『○○さんへ♥薄荷』と、その場でサインしてもらって、金貨一枚だ。
実は、このとき販売した別売りページには、王水皇女様の手で、予め特殊な魔術が付与されている。
『邪悪な取引』と呼ばれる、皇女様の力だ。
薄荷ちゃんが『○○さんへ』が書き込んだ時点で、その人物は、王水皇女様に逆らえなくなる。
☆
薄荷ちゃんは、最初にこの別売りページを視たとき、羞恥心のあまり、自身の魔力をぶつけて、粉々にしてしまおうとした。
……ので、みんなで止めた。
薄荷ちゃんによれば、別売りページに描かれた自身の裸体が、マンガでありながら、あまりに自分にクリソツだという。
顔……だけでなく、下半身の造形まで……がだ。
詳細は描写しないが、本人の弁によれば、「こんな貧相なの、ボクのだけなの。だから。見たことがなきゃ、こんなにリアルに描けるはずないの。ボク、誰にも見せたことないはずなのに!」とのことだ。
「この絵、発禁だから、ここまで回収にきたはずだよね。なのに、なんで、ボク自身の手で、こんなものを売らなきゃならないの」と、涙目になっていた。
「ここで、この絵を売らないと、トマソン法國が内乱状態になっちゃうんだよ。薄荷ちゃんが恥ずかしい思いをガマンしないと、たくさんの罪もない人々が死んじゃうんだよ」と、僕が言ったら、黙り込んだ。
更に、「一人、金貨一枚で売るんだけど、この売上金は、丸々薄荷ちゃんのものにしていいんだってさ。金貨が五百枚もあれば、故郷のご家族に、楽させてあげれるね」と言ったら、「やるよ、やればいいんでしょ。トマソン法國の人々を助けるためだから、ガマンする」と、しぶしぶ了解してくれた。
まず、バンカー・バカラ・エルドラド第一王子に、最初の一人として、これを無理やり購入していただいた。
二番目のラミア・アミ・アラミス公女と、続く三百名の貴族女性方々には、大喜びで購入していただいた。
それから、この場を収め、今後の安全を確保するため、強制購入させられた者が、二組いる。
強制一組目は、バンカー王子が引き連れてきた近衛兵たち。
薄荷ちゃんは、むくつけき男たちに囲まれ、トラウマを刺激されたみたい。
恐怖に震えながら、握手したりサインしたりしていた。
自分の裸の絵を、自分の手で、男たちに売るのだから、裸に剥かれた自分が、男たちに買われていくような怖さがあったに違いない。
強制二組目は、タマラ王女の侍女たち。
全員が薄荷ちゃんと同じピンクのセーラー服姿だ。
誰が誰やら、何が何やら分らなくなるような、『もしかして、この場にいる全員が、オトコノコ?』と誤認しそうな、カオス感があった。
☆
薄荷ちゃんは、妹の薄幸さんと、幼なじみの手鞠さんが、この日、この大広間に来ていることに気が付いていない。
読書会中は、薄荷ちゃんを含む『服飾に呪われた魔法少女』五人は、誰にも見られないよう奥の楽屋に隠れていた。
読書会の最後に、薄幸さんが活躍する、大立ち回りがあったのだけど、薄荷ちゃんは、見ていない。
薄荷ちゃんが登場する、コンサートから、別売り見開きページ特別販売会+サイン会までについては、薄幸さんと手鞠さんは、隠れて見守っていた。
薄幸さんと手鞠さんが、薄荷ちゃんと、顔を合わせないことについては、何やら訳ありらしい。
王水皇女様が、「まだ、その時ではない」と言っていた。
顔を合わせようとはしないくせに、薄幸さんも手鞠さんも、薄荷ちゃんのことが、大好きなのだそうだ。
二人の言い方では、「薄荷ちゃんのことをイジメて良いのは、自分たち二人だけ」なのだそうだ。
二人は、カーテンの後に隠れて、『カースウィチ』のコンサートを、喰い入るように見つめていた。
そして、コンサートが終わるやいなや、会場となった広間から姿を消した。
ちなみに、二人とも、『邪悪な取引』されていない別売りページを、一枚づつ確保済だそうだ。
☆
以下、『服飾に呪われた魔法少女』と、王水皇女様と、タマラ王女様の間で交わされた取り引き内容を列記する。
○まずは、トマソン法國の今後についてだ。
バンカー第一王子と貴族家の女性三百人に対する、王水皇女様による『邪悪な取引』が発動した。
各貴族家の実質的な支配者は女性であることから、トマソン法國は、実質、王水皇女様の支配下に入ったと言って良い。
だけど、王水皇女様は、一切表に出るつもりがない。
バンカー第一王子とタマラ第四王女が、表舞台を引き受ける。
敵に回りそうな王位継承権所持者については、薄荷ちゃんをエサにした釣りの結果、ほぼ弱みを握ることに成功したそうだ。
タマラ王女が成人するまでの約半年は、現國王による支配体制が維持される。
ところが、来春、その現國王が、突然の病で崩御される予定だ。
その後は、タマラ王女が女王に即位し、バンカー王子が宰相で、その妻となるラミア公女が文官長となって、國を支えていくらしい。
○次に、王水皇女様の今後についてだ。
王水皇女様と薄幸さんは、現在中學三年生だが、近日、豹裂館學園の一年生に、飛び級する。
そして、手鞠さんを含む三人で、豹裂館學園から鹿鳴館學園へ転校してくるそうだ。
どうみても、なにか、やらかすつもりだ。
ろくなことには、ならないと思う。
○そして、最後に、僕ら、『服飾に呪われた魔法少女』は、なにがしたくて、トマソン法國までやってきたのかだ。
実は、薄荷ちゃんには、ろくに説明もせず、敢えて勘違いさせたまま、ここまで連れてきた。
薄荷ちゃんは、自分が登場する『薄い本』、特に『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』と、その別売り見開きページを回収しに来たんだと思い込んでいた。
「目的のために、タマラ王女の『玩具』役を装ってね」と言ったら、率先して、やってくれた。
僕らのホントの目的は、本の回収などではない。
薄荷ちゃんをネタにしたエッチな絵なんて、とうの昔に、カストリ皇國中に溢れている。
いまさら、多少回収しても、どうにもならない状況だ。
では、本当の目的はなんだってことになるけど、それは、僕の見た夢に起因する。
僕の夢の中に、ご先祖様である宝生鈿女様が、出て来られたんだ。
ほら、九十九年前にあった最初の大物語『天の岩戸』で、國津神の命を受け、唄と踊りを奉納し、天津神を『この世界』に降臨させた、あの方だよ。
僕と鈿女様は、『天の岩戸』の前で、神楽を舞った。
あれは、本当に素敵な体験だった。
踊りながら、鈿女様が、僕に命じられた。
「トマソン法國に赴き、その宝物庫から、『蟲の皇』に由来する神器を、二つ譲り受けよ」と。
トマソン法國は、古代文明の都だった場所だ。
沢山の古い文物が出土し、法國の輸出品となっている。
出土品の多くは、魔力や聖力さえあれば、誰でも扱える。
ところが、魔具や聖具と呼ばれるものとなると、使用できる者が限られてくる。
そして、神器については、特定の人物しか扱えなくなる。
獲得を命じられた『蟲の皇』の神器のひとつは、『天使の翅のランドセル』。
小學生か使うような真っ赤なランドセルだ。
これを、次期『かんなぎ』であるレンゲさんが背負うと、ランドセルの中に収納されていた、巨大な蝶の翅が、バサリと広がる。
ベニハレギチョウという蝶の翅で、紅に黒い模様の入った、気色悪いまでに鮮やかなものだ。
翅を羽ばたいて、飛び立つと、レンゲさんは、自身が視線を向ける先に、連続『転移』し続けることができるようになる。
『蟲の皇』神器のもうひとつは、『天の翅衣霰』。
こちらは、僕のための神器だ。
何千枚ものウスバカゲロウの翅を織り込んだ、妖しい翅衣だ。
鈿女様の血を引く、僕が纏えば、宙に浮き上がれる。
僕は、既にチアダンスで宙を舞えるけど、『天の翅衣霰』があれば、舞わなくとも空中に静止できる。
そして、肝心なのは、翅衣から、『氷の女帝』に由来する霰を降らすことができること。
この霰によって、人々に幻影幻聴を振り撒き、限定的ながら、その精神すら操れるようになる。
僕らは、トマソン法國における今回の政変に与することで、目的としていた二つの『蟲の皇』神器を獲得できた。
まあ、トマソン法國の宝物といっても、僕らにしか扱えない代物だけどね。
この『天使の翅のランドセル』と『天の翅衣霰』があれば、召喚勇者のパーティーや、騎士団とも、正面から渡り合えると思う。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■八月二六日 カストリ皇國地下迷宮
ボク、儚内薄荷。
なんかね、ボクの知らないところで、物語が急展開しているみたいなの。
ボク、いよいよ、これまでみたい。
母さん、薄幸、先立つボクを許して……。