■八月二三日① 豹裂館學園女子中等部 転
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第八話 豹裂館學園女子中等部 転
わたしは、シーラ・シク・ラメンといいます。
ラメン子爵家の第三令嬢です。
幼い頃より、ラミア・アミ・アラミス第一公女の、ご学友を務めております。
ラミア公女様のご学友は、もう一人、リリー・アマ・リリスという者がおります。
リリス男爵家の第二令嬢です。
ラミア公女様が、なにかを計画されれば、わたしと、リリーが走り回ることになります。
今日は、三回目の『読書会』の日です。
本当は、カストリ皇國から持ち込まれた『薄い本』の販売会なのですが、そう呼んでしまっては差し障りがあるため、関係者各位には『読書会』として、ご案内させていただいています。
三年前、カストリ皇國の白金王水第二皇女様が、このトマソン法國の豹裂館學園女子中等部に留学して来られました。
ラミア公女様は、王水皇女様が持ち込まれた『薄い本』の数々に魅了され、その熱烈な愛好者となってしまわれました。
以来、毎年この時季に、法都パンタロン王宮内の広間にて、『読書会』なる催しが、開催されることとなったのです。
読書会の開催が、なにゆえ、この時期なのかと申しますと、二つ事情があります。
一つは、毎年八月一日にカストリ皇國で開催される『薄い本頒布会』で頒布された本を、検閲に引っかかることなくトマソン法國に持ち込むと、このタイミングとなること。
もう一つは、學園が授業休止期間となる八月中であれば、趣味を同じくする者たちが、いっせいに参集できることです。
参加者は全員、貴族家の女性で、三百名ほどです。
皆様、読書会には、仮面を着けて、やって来られます。
仮面をつけていようと、外見で、ほぼ、どなたか特定できるのですが、あくまで匿名での参加という体裁を取るためです。
『読書会』で取り扱っている本は、カストリ皇國でこそ流通が認められていますが、ここ、トマソン法國では道徳的に許容されないものだからです。
現状、『薄い本』は、貴族の間でだけ、所有が黙認されています。
ただ、そうであっても、その所有が公になれば、何らかの制裁は免れ得ないでしょう。
『読書会』は、『出品見分』と、『落札会』の二部構成で進行します。
わたしは、総合司会ですので、ずっと大忙しです。
『出品見分』は、午前中、お茶会形式で行われます。
出品される全ての本が、一冊づつ用意されていて、これを回覧、見分するのです。
中身を見分はできても、読むことはできない程度の、絶妙な時間配分で、テーブルごとに置かれた本を、受け渡ししていきます。
参加者の方々には、あらかじめ、入口で、出品リストをお渡ししてあります。
参加者の方々は、自身の『出品見分』結果に基づき、出品リストに、自身の参加者番号と、欲しい本の落札希望金額を記入して、提出します。
提出された出品リストを、参加者の会食中に、リリーを中心とする事務方が集計。
そして、会食後、再びお茶会形式での『落札会』となります。
まず、主催者である、お二方のご挨拶です。
最初のご挨拶は、ラミア公女様なのですが、仮面をつけておられて、お名前の紹介もありません。
ただ、この場にいる全員が、それが誰だか、分ってらっしゃいます。
次に、王水皇女様のご挨拶。
この会場内で、王水皇女様と、その側近だけが、仮面を着けておられません。
カストリ皇國の國籍を持つ者は、この『読書会』で扱う本を所持していても、逮捕されることがないからです。
お二方に、会場に参集した、趣味を同じくするご婦人方から、感謝の気持ちが籠った、熱い拍手が送られました。
そして、出品リストに従って、高い金額を書き込まれた方から順番に、落札者の参加者番号だけが発表されていきます。
あるタイトルの最後の一冊に、同額を記入された方が複数いらしたとしたら、その場で抽選です。
ちょっとだけ面白いのは、『出品見分』に使用した見本の一冊だけは、購入を希望していながら購入出来なかった方々の中から抽選で、落札希望価格に関係なく、購入者が決定されます。
この決定の瞬間が、結構盛り上がります。
本日の『落札会』も、いよいよ最終タイトル。
参加者の方々の、静かな期待と緊張が伝わってきます。
「それでは、第三回『読書会』のトリ、目玉タイトルの『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』です。本作品につきましては、先にご案内の通り、カストリ皇國においてすら禁書となり、四百五十冊が焚書処分されました。従いまして、この世界に現存するのは、本日の落札される五十冊のみという稀覯本です。皆様の落札希望価格もうなぎ登りで、これまでにない、とんでもない高額となっておりますが……当然、ここでその金額を申し上げることはいたしません。」
わたしは、司会者として、一段と大きく、声を張り上げます。
「落札者の、参加者番号を読み上げ――」
その時です。
固く閉ざされていたはずの、広間の大扉が、ガタンと開け放たれます。
ガタイの良い男たちが、なだれこんで来ました。
全員が、トマソン法國の近衛であることを示す、鎧を身につけています。
そして、近衛の先頭に立っているのは、バンカー・バカラ・エルドラド第一王子ではありませんか!
バンカー王子は、司法長官として地方出張中で、法都パンタロン王宮へのお帰りは明日の筈です。
読書会開催の情報を得て、予定を早めて、帰還されたとしか考えられません。
「全員、その場を動くな! 逃亡しようとすれば、斬る!」
「道義に反する卑猥な本が取り引きされているとの情報があった。この場にいるトマソン法國人全員を拘束し、追って処罰を行う」
ラミア公女様が、立ち上がって、バンカー王子に喰ってかかられます。
「なんて横暴な! この場にいらっしゃる方の多くは、王子であるあなたと、その婚約者のあたくしを支持して下さっているのよ! あたくしが、婚約者である、あなたよりも、カストリ皇國の鍍金皇子の見目を、好ましいと思っていることが、そんなに気に入りませんの?」
バンカー王子は、呆れ声です。
「愚かな! 嫉妬などではない。これまでの『薄い本』であれば、まだ黙認できた。だが、今年のものは、実在する異性装者が、モデルだと言うではないか! ここ、トマソン法國の法では、異性装の者だけでなく、それを知りながら容認した者まで極刑なのだぞ! 異性装者が登場する本を所持していただけで極刑にまではしないが、お咎めなしとはいかん!」
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■八月二三日② 豹裂館學園女子中等部 結
ボク、儚内薄荷。
いま、トマソン法國の法都パンタロン。
なんかね、ここに、ボクの妹の薄幸が居るみたい。
しかも、薄幸ったら、トマソン法國を揺るがす大事件に関わってるみたい。
ちょっと、物語中のボクには、何一つ知らされてないんですけど!
どうなってるの!