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■八月二〇日 豹裂館學園女子中等部 起

  ♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ

  ♥♥♥第八話 豹裂館學園女子中等部 起


 うら、ルッコラ・クレソンというだ。

 トマソン法國リリス男爵領の農園で働く小作農の六女。

 色々あって、豹裂館學園女子中等部の侍女をしているだ。

 まあ、借金のカタに買われたようなもんだよ。


 衣食住が保証され、躾という名の、教育も与えられるだ。

 そこだけ見れば、ましな職場と思えるかもしれん。


 だども、學園の侍女は、消耗品扱いだ。

 お嬢様方のご不興を買ったり、汚れ仕事をやらされたりして、簡単に始末されるだ。


 昨日、女子中等部三年生のローラ・アセロラ・バルバド子爵令嬢に、呼び出されただ。

 うらと一緒に、侍女仲間のパセリ・セルロースも、呼び出されていただ。

 パセリは、同じリリス男爵領の農園出身なので、後輩だけど面識があるだ。


 うらと、パセリは、『身体見分』を受けただ。

 裸に剥かれて、体表だけでなく、体腔にまで、検査具を入れられる。

 王侯貴族間で繰り広げられている勢力争いの駒となっていないことの確認だ。

 そのうえで、新たな侍女服を支給されただ。


 驚いただ。

 ローラ様お付きの侍女服ではなく、タマラ王女様お付きの侍女服だ。

 つまり、うらとパセリは、女子中等部二年生のタマラ・カバラ・エルドラド第四王女様のものになったということだ。


 ちなみに、タマラ王女様お付きの侍女服は、かなり突飛なものに、最近変更されただ。

 蛍光ピンクのミニスカセーラー服だ。

 ルーズソックスとかいう、へんてこな靴下つき。

 この衣装って、タマラ王女様が大好きなカストリ皇國のテレビ番組の衣装を模したものらしいだ。


 テレビの受像機って、大変高価なもんだ。

 トマソン法國内には、まだ、カストリ皇國から輸入された数十台ほどしかないだ。

 購入も貴族籍があるものに限定されているだ。

 いったい、どんな機械で、どんな番組が見れるだべ。


 ローラ様の元へうかがい、説明を受けただ。

 「タマラ王女様の玩具が、明日届くの。ルッコラとパセリには、その管理係を務めてもらうわ。とても高値の玩具なの。カストリ皇國の皇女に、金銭以上のものを積んで、それでも貸与されただけで、返却しなきゃいけないほどのもの。手に入れたがっているお方も多いし、手に入らないなら壊してしまいたいと思うお方もいる。分るわね」


 うらと、パセリは、震えあがっただ。

 その玩具にキズでもついたら、うらと、パセリは、それだけで家族ごと処分されるだ。


 そもそも、玩具そのものが、いわくつきっぽい

 たぶん、玩具について、いま受けた説明以上の何かを、知ってしまうだけでも処分されるだ。


 ☆


 今日、うらと、パセリは、ローラ様に付き従って、大陸横断鉄道の豹裂館學園駅へやってきただ。

 通常の客車と異なる、豪奢なVIP用客車が連結されていて、そこから、五人の少女が降りてきた。


 内四人は、豹裂館學園の生徒だけが着用できるローブを羽織っていただ。

 黒豹を意識した、赤黒いビロード生地のローブだ。

 豹裂館學園には、決まった制服などはない代わりに、このローブの着用が義務づけられているだ。


 ローブの下に見え隠れする四人の服装は、かなり奇抜なものだっただ。

 それぞれ、空色のミニ袴巫女服、真紅のコスプレメイド服、若葉色のテニスウェア、そして、紺色の旧スクール水着だ。


 真紅のコスプレメイド服の少女は碧眼金髪のウヲッカ帝國出身者っぽい顔立ちで、他の三人は黒眼黒髪のカストリ皇國出身者っぽいと、思っただ。


 四人とも女子中等部の生徒徽章をつけているだ。

 だけんど、中等部の生徒に見えるのは、旧スクール水着の子だけだ。

 他の三人は、どう見ても十五歳以上の、成人學園生にしか見えない。

 四人揃って、美しいだけでなく、目映いばかりの只者ではないオーラを放っているだ。


 ローラ様は、四人と丁寧な挨拶を交わす。

 「ご案内いたします」と、待たせていた来賓用の馬車に、四人を乗せて行ってしまっただ。


 残されたのは、うらと、パセリと、VIP用客車から降り立った、五人目の少女だ。

 実のところ、ひと目見ただけで、この子が『タマラ王女様の玩具』なんだって分っただ。

 ローブを着てないというだけじゃなく、この子の着せられている服が、うらや、パセリと同じ、蛍光ピンクのミニスカセーラー服だったから――。


 この子の服を、うらたちに合わせて、タマラ王女様お付きの侍女のなかに紛れ込ませるつもりだ。

 それとも、逆?

 うらたちの服を、この子に合わせた……だとしたら、この子って……いや、いや、いや、それ以上は、口にするだけで、消されてしまいそうだ。


 ちなみに、この子も、黒眼黒髪で、カストリ皇國出身者っぽい。


 うらと、パセリは、トマソン法國に多い、赤目赤髪だ。


 うらと、パセリは、カストリ皇國語で、自己紹介しただ。

 うらと、パセリが、この玩具の管理係に選ばれたのは、出身地のリリス男爵領が、カストリ皇國に隣接していて、カタコトながら、その言葉が話せるからだ。


 玩具に名前を尋ねたら、「ハッカ」とだけ答えてきただ。

 たぶん、玩具になった段階で、名字は奪われただ。


 ハッカを平民用の馬車に乗せて移動しただ。


 馬車内で、うらと、パセリは、ハッカを観察する。

 メチャクチャ、カワイイ。

 下手に触れたら、あっけなく壊れてしまいそうな儚さだ。

 なにをどうやったら、こんなガラス細工みたいな子ができるんだろう。

 壊れやすい高価な玩具だってことが、ひしひしと実感できる。


 あと、ミニスカセーラー服まで、とんでもなかった。

 最初に見たときは、うらやパセリが着せられているのと同じ、タマラ王女様お付きの侍女服と同じだと思っただ。

 けんど、よく見たら、生地は、極上のシルクだし、細やかな手作りフリルに加え、縫い付けられたビーズは、ガラス玉とかではなく玉石だ。

 間違いなく、ハッカのがオリジナルで、うらやパセリが着せられているのは、そのレプリカだ。


 タマラ王女様が、ハッカを手に入れるために、『カストリ皇國の皇女』に渡した、『金銭以上のもの』って何だべ?

 気になるけど、それを知ってしまったら、やっぱり、その時点で、きっと、うらとパセリの命はなくなる。


 『カストリ皇國の皇女』については、カストリ皇國第二皇女の白金(しろがね)王水(おうみ)様で間違いないと分るだ。

 豹裂館學園女子中等部に留学されておられ、現在三年生でいらっしゃる。


 ポコペン大陸にある四カ國の中で、中等部があるのは、トマソン法國だけだ。

 中等部は、普通であれば、就労実習に従事している年齢だ。

 その就労実習期間中に、トラウマイニシエーションを経た者だけが、その國の學園に進学する。


 ここトマソン法國でだけ、就労実習年齢の王侯貴族だけを集めて、中等部に入れるだ。

 そして、その中等部に通うことが、王侯貴族のトラウマイニシエーションと見做される。


 中等部があるのがトマソン法國だけなので、他の三カ國の王侯貴族が、何らかの理由で國元に置いておけない子息や令嬢を、ここに送り込んでくることも、ままある。

 王水(おうみ)皇女も、そんなおひとりらしいだ。


 ☆


 ハッカが、タマラ王女様の玩具になるのは、明日からだ。


 ローラ様から、次の指示を受けてただ。

 「今夜のうちに、玩具を風呂に入れて磨きあげること」

 「入浴前に、玩具の『身体見分』を行うこと」

 「玩具の、衣服脱着、『身体見分』、及び、入浴時の磨き上げは、余人を交えず、必ずルッコラとパセリの二人だけで行うこと」 


 うらと、パセリは、ハッカ用に用意された部屋に、猫足バスタブを運び入れてもらっただ。

 部屋を入念に施錠してから、命じられた作業に取りかかった。


 ハッカに、『身体見分』を行うと告げたら、ひどく動揺されただ。

 それでも、強く言い聞かされてここへ来たらしく、逃げ出したりはしない。

 ただ、涙目になって、「ゴメンナサイ」と謝られた。

 侍女として仕事をしているだけの、うらやパセリに、なにを謝っているのやら。


 服を脱がしてみて、謝られた理由が分っただ。

 ハッカの身体は、うらやパセリと――性別が異なっていた。


 外見が完璧美少女であったことから、確かに驚いただ。

 だけど、問題は、そこじゃない。


 侍女になる際、男性の入浴のお世話をすることも起こり得ると教育されただ。

 さらに、それ以上のことを求められることもあるが、受け入れなさいと教育された。

 だから、問題は、そこでもない。


 なにが問題なのか、順を追って、ちゃんと、説明するだ。

 カストリ皇國では、異性装が認められている。

 だが、他の三カ國はそうではない。

 特に、ここ、トマソン法國では、異性装は、未だ極刑だ。

 異性装の者を、知りながら見逃しただけでも、処罰される。

 ここは、そんな國の、純血が重んじられる貴族の少女だけが通う學園だ。


 理解してもらえただか?

 そこが、大問題だ。


 うらと、パセリは、ここで騒げば、殺される。

 ここで騒がなくとも、他にバレたら殺される。

 ここで騒がずバレなかったとしても、玩具貸し出し期間が終了したら、たぶん後腐れ無いよう処分される。


 うらと、パセリは、動揺を隠して、作業を進めただ。

 『身体見分』……詳細は伏せるけど、ひどく手間取った。

 裸で震えてるハッカをお姫様抱っこして、やっとのこと、猫足バスタブに入れた。


 パセリと二人して、フーッと息を吐いただ。

 ドッと、疲れ果てていた。


 うらとパセリの気が抜けたタイミングを見計らったように、男が八人、室内に押し入ってきただ。

 入念に施錠していたはずの部屋の扉を、難なく開けて入ってきただ。

 八人とも下男のような服装だが、明らかに柄の良くない輩だ。


 男たちは、懐から、ナイフやヌンチャクを取りだす。

 長物は持ち込めなかったようだ。


 豹裂館學園女子中等部の學舎は、王宮に準じる建物だ。

 区画壁、検問、結界によって厳重に護られてるだ。

 内部からの手引きがなければ、ここまで来れないだ。


 この瞬間を狙ったのだろうけど、ハッカは、素っ裸で、猫足バスタブの中だ。

 どういうことかと言うと、男たちだけでなく、他の侍女たちであったとしても、ハッカの裸を見られただけで、うらとパセリは命がなくなる。

 うらとパセリが生き長らえるには、声をあげて他の侍女を呼ぶことなく、二人だけで男たちを始末するしかないだ。


 「部屋を間違えたと、すぐに退散するなら、うらたちは、騒ぎ立てないだよ」

 うらが、男たち達に声をかけて、注意を集める。


 そのスキに、パセリが部屋の壁面に飾られていた偃月刀二本を抜き取る。

 一本を、うらに投げよこす。


 「悪いな、俺ら、その浴槽にいる玩具を壊さないことにゃ、帰るに帰れないんだ」

 先頭の男が、残念そうな声を出す。


 先頭の男が合図し、男八人が、手筈通り一斉に動く。

 前の四人が、ナイフを腰だめに構えて、うらとパセリの懐に、二人づつ跳び込んでくる。

 残る四人が、ヌンチャクを振りかぶりつつ、二人づつ左右に分かれて、うらとパセリの横を回り込んでハッカへ迫る。


 うらとパセリは、護るべきはハッカであり、自分らは消耗品だと心得ているだ。

 偃月刀を大ぶりして、横に回り込もうとしていたやつらを薙ぎ払う。

 そして、ナイフの切っ先を、敢えて我が身で受けた。


 ナイフの刺さった肩や腹部に力を込めて、抜けなくする。

 懐に飛び込んだやつらの頭部を、偃月刀の柄で、強打する。


 「ムリ! 女の子が、身を挺してオトコノコを護るなんて、ダメだから!」という、女児みたいな甲高い絶叫。

 ハッカの声だ。


 絶叫とともに、とんでもないことが起きただ。

 八人の男たちが、部屋の壁面に、跳ね飛ばされた。

 それどころか、ひとりづづ、グシャ、グシャっと、押し潰されていく。


 壁面で潰れているのは、七人だけだ。

 ひとりだけ、飛ばされていった先が、開きっぱなしの扉の向こうだった。

 様子が見えないけど、飛ばされた先に壁がなかったため、押しつぶされてはいないようだ。


 ハッカが、裸のままバスタブを飛び出してきただ。

 ハッカの黒眼黒髪が、ピンクに発光している。


 ハッカが、飛散した男たちの血に塗れながら、うらの肩と腹に残されたナイフを握る。

 引き抜こうとするが、血で滑って、抜けない。

 ハッカは、見た目通りの、非力さだ。


 ハッカが「こんなケガ、認めないから、ダメだから!」叫ぶ。

 すると、短剣が、うらの身体からスポンと押し出されて。

 あろうことか、短剣と同時に、傷口も、痛みも、消えているだ。


 ハッカは、パセリの方へ向き直って、うらのときと、同じ処置をする。


 廊下の向こうから、「くせ者です!」「狼藉者です!」と叫び交わす、他の侍女たちの声。

 たぶん、生き残った男が、なりふり構わず逃走しているだ。


 侍女たちのうち、何人かが、この部屋へ向かって、駆け寄ってくるようだ。


 ハッカが「あひっ、裸、見られちゃう」と、バスタブの中へ逃げ戻る。

 うらと、パセリは、咄嗟に、バスタオルを掴んで、ハッカに駆け寄っただ。


 うら、勘違いしていただ。

 外見だけ見て、ハッカのこと、ガラス細工みたいな、取扱注意の、か弱い玩具だって思い込んでいただ。

 とんでもない!

 この子、取扱注意は取扱注意でも、爆発物の方だ。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■八月二一日 豹裂館學園女子中等部 承

清らかな乙女が集う、トマソン法國豹裂館學園女子中等部。

そこに、爛熟した退廃(デカダンス)的な文化が華開いているカストリ皇國から、ご禁制の品が大量に持ち込まれた。

トマソン法國を揺るがす、大事件が起ころうとしていた。


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