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■八月一三日夜~一八日朝 エイチの塔 起

  ♠♠♠科學戦隊レオタン テレビシリーズ

  ♠♠♠第四話 エイチの塔 起


 ボクは、『科學戦隊レオタン お色気ピンク』の方の儚内(はかない)薄荷(はっか)だよ。

 つまり、『服飾に呪われた魔法少女 セーラー服魔法少女』の方の儚内(はかない)薄荷(はっか)じゃないってこと。

 ええっとね、『一人二役』って言うんだって。


 興業プロモーターの毀誉(きよ)褒貶(ほうへん)氏から、いきなり、こう言われた。

 「今回、『お色気ピンク』と『セーラー服魔法少女』は、物語上、完全別行動となりますです」


 意味が良く分からなかったから、訊き返した。

 つまり、実際は撮影日程を調整しているんだけど、物語の額面上では、同一日時に『お色気ピンク』と『セーラー服魔法少女』が、それぞれ存在していることになるんだって。

 何度も説明してもらって、やっとどうにか理解できたよ。


 褒貶(ほうへん)氏からは、「何をいまさら」って、呆れられた。

 「薄荷(はっか)さんのパンツをめぐって、物語が『変革』されたから、こうなったんですです。『科學戦隊レオタン』と『服飾に呪われた魔法少女』の物語が、同時進行し始めて以降、魔法少女も戦隊隊員も、みんな、至極当たり前に、『一人二役』やっているですです」


 ――そんな、世界中のできごとの、なにもかもを、

   ボクのパンツのせいにされても……。


 ……それで、今回どうして、二役のボクが完全別行動なのかというと、物語の舞台が違うんだって。

 ポコペン大陸の西側にあるトマソン法國が舞台なのは一緒。

 『科學戦隊レオタン』の方は、カストリ皇國とトマソン法國に跨がるゴミ砂漠の中にある、『エイチの塔』へ向かう。

 そして、『服飾に呪われた魔法少女』の方は、トマソン法國の法都パンタロンの先にある、『豹裂館學園』へ向かうんだ。


 『科學戦隊レオタン』も『服飾に呪われた魔法少女』も鉄道を使うんだけど、ここからもう別行動なんだって。


 『科學戦隊レオタン』の移動は、八月一一日~一九日の八日間。

  ○ツンデレ地帯 → 皇都トリス 

   ・戦闘車両(ビークル)移動と車両積み込み 一日

   ・大陸縦断鉄道 三日

  ○皇都トリス → エイチの塔

   ・大陸横断鉄道 三日

   ・戦闘車両(ビークル)移動 一日


 『服飾に呪われた魔法少女』の移動は、八月一一日~二〇日の九日間。

  ○ツンデレ地帯 → 皇都トリス 

   ・軍用車両 二日

   ・大陸縦断鉄道 三日

  ○皇都トリス → 豹裂館學園中等部

   ・大陸横断鉄道 四日


 『科學戦隊レオタン』が利用する列車も、『服飾に呪われた魔法少女』が利用する列車も、例のラッピング列車でこそないものの、特別仕様だ。


 どちらも、機関車一両、炭水車一両、そして客車八両で、通常の列車を偽装している。

 しかしながら、装甲の厚い特別車両で、機関車は煩悩号ではなく、軍用の天罰号だ。


 天罰号は、列車砲のような重量のある車両も牽引可能な新型機関車で、兵器扱いとなる。

 従って、本来、他国へ乗り入れることは認められていない。

 ただ、外観は煩悩号と類似していることから、偽装を行ったうえで、政治的な駆け引きも行い、トマソン法國に乗り入れるそうだ。


 特に、『科學戦隊レオタン』が利用する列車については、客車のうち五両を改造し、それぞれ戦闘車両(ビークル)を一台づつ積み込めるようになっている。


 でもって、ここが肝心なんだけど、『科學戦隊レオタン』が利用する列車にも、『服飾に呪われた魔法少女』が利用する列車にも、VIP用客車が一両連結されている。


 ボク、ね、鉄道の客車って、四人がけの対面ボックス席しかないって思い込んでいた。

 初めて知ったけど、必要に応じてVIP用客車が連結されることがあるんだって。

 一人一室のコンパートメントで、決して広くはないけど、折り畳み収納が工夫されていて、機能的だ。

 テーブル付きのソファーや、ふかふかのベッドだけでなく、シャワーまで付いている。


 食事は全てコンパートメントにサーブされるし、お菓子やドリンクまで追加オーダーし放題。

 しかも、追加オーダー分を含めて、全額皇国軍負担だ。


 ボクら『科學戦隊レオタン』と『服飾に呪われた魔法少女』の、皇國軍への貢献実績が評価されるとともに、警護上の危険性を排除するための、VIP待遇だよ。

 つまり、ボクらって、ベリーインポータントなピーポーの仲間入りしちゃった、らしい。


 更に、感心したのは、大陸縦断鉄道から、大陸横断鉄道へ移る際、車両をひとつづつターンテーブルと呼ばれる転轍機に乗せて、鉄路を乗り換えるんだって。

 つまり、ボクたちは車両に搭乗したままで、下車することなく、ひとつの鉄路から、別の鉄路へ移っちゃうんだよ。

 このスゴさが分るのって、オトコノコだけかな。


 総括すると、『科學戦隊レオタン お色気ピンク』のボクは、高級ホテルみたいなVIP用客車内で、五泊六日の優雅な旅を過ごせるんだ。

 ボク、ほら、貧民出身だから、もう、夢みたいだよ。


□八月一三日~一四日 一泊目


 『旋風グリーン』さんが、ボクのコンパートメントに押しかけてきた。

 「ゲームやろうよ」って誘われた。


 テーブルの天板を反転させると、ゲーム板が出現した。

 『神力ゲーム』っていう、定番ゲームなんだって。


 聖力と魔力を持つ者が、その力をコマに込めて、勝敗を競う。

 コマは、小さな円盤状で、両面が、白と黒になっている。

 白が聖力面で、黒が魔力面。

 互いの聖力と魔力を込めて、コマを置き、並べて、ひっくり返す。

 うまく形を作ると、相手のコマを奪うことができる。

 どちらかが、予め定めた数のコマを獲得したところで、勝敗が決定する。


 これが、メチャメチャ面白くて、夢中になってしまった。

 ボクの魔力の方が、グリーンさんの聖力より強い。

 この魔力でゴリ押しして、有利に進めていたはずなのに、気がつくと負けている。

 戦略面が、ダメダメってことだ。


 悔しいから、何度も、何度も挑んだ。

 夜は更け、車窓が明るくなってきても、止められなかった。


 気がついたら、ベッドの上だった。

 ゲーム板のあるソファーから、ベッドに移動した記憶が無い。


 あれっ、ボク、『平服』のセパレーツセーラー服だったはず。

 なのに、いまは、ピンク鼠の着ぐるみパジャマだ。

 上着のフードに、ねずみさんのミミがついてて、カボチャパンツの後ろには、シッポがついてる。

とってもカワイイので、ボクのお気に入り。

 いつも、素肌に、これだけを着けて、寝ている。


 ボクは三種の『呪われた服飾』――つまり、『平服』『体育服』『道衣』間であれば、魔力を使って、一瞬でチェンジできる。

 そして、ここが肝心なんだけど、ボクが着ぐるみパジャマを身につけるには、『呪われた服飾』を脱いでから、自身、もしくは誰かの手で着替えるしか……。


 車窓を見ると、もはや昼過ぎ、午後三時くらいかな。

 コンパートメント内はボク一人だけど、グリーンさんを見送った記憶がない。


 記憶を辿ると、ゲーム中に突っ伏して、寝落ちしてしまった気がする。

 自分で着替えた記憶もないし、自分でベッドに移動した記憶もない。

 だとしたら……。


 ボクの脳裏に、恥ずかしい想像が駆け巡る。

 想像は、ふしだらな妄想にまで至る。


 いや、いや、グリーンさんは、そんなことする人じゃないって、ちゃんと分かってる。

 なんなら、グリーンさんのコンパートメントまで、ボクが眠ったあとのことを確認しに行けばいい、んだけど……。

 ダメ、とてもじゃないけど、顔を合わせられない。


□八月一四日~一五日 二泊目


 VIP用客車には、乗客用の談話室まである。

 そこで、食事を取ることだってできる。


 でも、ボクは、ずっと自分のコンパートメントに閉じ籠もっていた。

 夕食を自室で取っていたら、『爆炎レッド』さんがやってきた。

 様子がおかしいボクのことを、リーダーとして心配してくれたらしい。


 「なんか、オカシナことばかり、考えちゃって……」

 考えなしに、そんなことを口走ってしまった。


 「オカシナことって?」


 バカな妄想を口にすることなんてできないから、必死で取り繕おうとした。

 「いや、ほら、ええっと……そ、そう、皆さんは貴族で、國軍でも士官待遇だけど、ボクって貧民ので、徴兵検査なんて癸種『廃棄』で、國軍でも三等兵扱いで、だから、きっと母や妹の元に生きて帰れることはないだろうなって……」


 ――いや、いや、いや、なんで、

   こんなこと口走っちゃったの。

   スミマセン、レッドさん。


 ほら、レッドさん、困った表情になっちゃった。

 そして、慰めるように――予想外のことを言い出した。

 「こんなときは、運動だ。身体を動かして、汗と一緒に、ネガティブな考えを吹っ飛ばすんだ」


 ベッドを折り畳むと、その下に、ランニングマシンが現われた。

 乗客の運動不足を解消するための設備だそうだ。

 二人が併走できる、立派なやつだ。


 「ボク、癸種『廃棄』ですよ。運動なんてダメダメで――」と、コンパートメント内を逃げ惑った。

 それを、むんずと掴まえられて、否応なく走らされる。


 レッドさんも一緒に走ってくれるのは良いけれど、ガンガン、スピードをあげてくる。

 ちょっと後に下がって、ボクのランニングフォームを直してくる。


 ボク……レッドさんみたいな、立派な体格の男性に追いかけられるのって、ダメなんだよ。

 トラウマを刺激されて、恐怖を感じちゃう。

 もし、學園入學前だったら、絶叫して、卒倒してたと思う。


 どうにか、耐えながら走って……逃げてたけど、喋るどころか、呼吸ができない。

 どんどん、頭の中が真っ白になっていって……。


 気がついたら、ベッドの上だった。

 ベッドは折り畳んだはずで、元に戻した記憶が無い。


 『平服』のセパレーツセーラー服で走ってたはずなのに……いまは、ピンク鼠の着ぐるみパジャマだ。

 着替えた記憶なんて、ない。


 車窓を見ると、もはや昼過ぎ、午後三時くらいかな。

 コンパートメント内はボク一人だけど、レッドさんを見送った記憶がない。


 ボクの脳裏に、恥ずかしい想像が駆け巡る。

 想像は、ふしだらな妄想にまで至る。


 いや、いや、レッドさんは、そんなことする人じゃないって、ちゃんと分かってる。

 なんなら、レッドさんのコンパートメントまで、ボクが眠ったあとのことを確認しに行けばいい、んだけど……。

 急に激しい運動をしたことによる筋肉痛で、起き上がれない。


□八月一五日 三泊目


 VIP用客車には、乗客用の談話室まである。

 そこで、食事を取ることだってできる。


 でも、ボクは、激しい筋肉痛で、ずっと自分のコンパートメントに閉じ籠もっていた。

 ベッドのうえで、唸っていたら、『雷撃イエロー』さんがやってきた。

 様子がおかしいボクのことを、心配してくれたらしい。


 「ランニングマシンの使い過ぎで、脚だけじゃなくて、全身が筋肉痛なんです。それどころか、ここかしこの筋肉が攣るんです。逃げ場のない痛みに、悶え苦しむばかりで、もうどうしたら良いか分らなくて……」


 イエローさんが、自分聖力で、電気マッサージをしようと申し出てくれた。

 イエローさんは、低周波や高周波の電気を流しての、マッサージが得意だそうだ。


 ボクは、「お願いします。助けてください」と懇願した。


 イエローさんは、肌身離さず身につけているクロスボティバッグから、鋼鉄球を数個、掴み出した。

 「これを、肌のあちこちに、触れさせる必要があるんだけど……」


 背に腹はかえられない。

 ボクは、着用している『平服』のセパレーツセーラー服を、『お色気水着』に着替える決断をした。


 イエローさんに、一旦コンパートメントから出てもらって、どうにかこうにか自力で着替える。

 これが三種の『呪われた服飾』――つまり、『平服』『体育服』『道衣』――間であれば、ボクは、魔力を使って一瞬でチェンジできる。

 だけど、『お色気水着』についても、着ぐるみパジャマと同様に、まず『平服』から裸体にチェンジしてから、自身の手で着替えるしかないんだ。


 『お色気水着』は、極小のレース布地を紐で繋いだ、ピンクのビキニだ。

 ボクの身体は、『お色気水着』の力で、Gカップ女体化するけど、四の五の言っている余裕はない。


 コンパートメントの外で待ってもらっていたイエローさんを、再び引き入れる。

 イエローさんは、顔を赤らめながらも、鋼鉄球を使っての治療マッサージを開始した。

 鋼鉄球から鋼鉄球へ、様々な周波の電気が、リズミカルに流れていく。

 全身の痙攣が治まり、凝り固まった筋肉が解れ、天にも昇る心地だ。


 爽快な気持ちで、目覚めた。

 ただ、『お色気水着』で女体化していたはずなのに、いつの間にか男の身体に戻っている。


 着替えた記憶なんてまるでない。

 なのに、いつの間にか、ピンク鼠の着ぐるみパジャマ姿になっていた。

 当然、女体化も解けている。


 車窓を見ると、もはや昼過ぎ、午後三時くらいかな。

 コンパートメント内はボク一人だけど、イエローさんを見送った記憶がない。


 ボクの脳裏に、恥ずかしい想像が駆け巡る。

 だって、『お色気水着』って、ちょっと脱がされかけただけで、勝手に女体化が解けちゃうんだよ。

 想像は、ふしだらな妄想にまで至る。


 いや、いや、イエローさんは、そんなことする人じゃないって、ちゃんと分かってる。

 なんなら、イエローさんのコンパートメントまで、ボクが眠ったあとのことを確認しに行けばいい、んだけど……。

 全身に心地良い虚脱感があって、起き上がれない。


□八月一六日 四泊目


 VIP用客車には、乗客用の談話室まである。

 そこで、食事を取ることだってできる。


 というのに、ボクは、乗車して以来、一度もコンパートメントを出ていない。

 『氷結ブルー』さんが、さすがに心配だと、ボクの様子を見に来てくれた。

 『氷結ブルー』さんって、サブリーダーだけど、科學戦隊レオタンの中で、いちばん頼りになるひとだと思う。

 ここ数日の、ボクが抱いている不安感を、相談してみたい気がする。

 科學戦隊の中で、こんなこと相談できるのは、この人だけだと思う。


 だけど、こんなバカげたこと、どう話していいか分らない。

 ボクが相談したいことって、仲間の人間性を疑うようなことだよね。

 正直に話したら、軽蔑されそうだし、仲間を疑うのかと、怒られてもおかしくない。


 黙って、上目遣いで見上げていたら、「よし、呑もう」と言われた。

 そうだよね、成人男子同士、黙って飲み交わすのも悪くない。


 『氷結ブルー』さんが、ボクの肩を優しく抱きかかえるようにして誘導する。

 二人並んで、車窓に座った。


 『氷結ブルー』さんは、麦畑が広がる『ツンデレ地帯』の出身だ。

 カストリ皇國とウヲッカ帝國のそれぞれに、様々な種類の麦酒があって、『氷結ブルー』さんは、それを熟知しているようだ。


 ルームサービスで、次々と、様々なビールを持って来させる。

 ピルスナー、エール、ベルジャンホワイト、スタウト、ヴァイツェン、シュバルツ……。

 それを、ブルーさんの力で、キンキンに冷やして注いでくれる。

 それぞれ、味わいはもちろんのこと、色も、香りも違う。

 試すように、少しづつ呑んでいたはずなのに、視界が朦朧としてきた。

 あれっ、天井が回ってる。


 気がついたら、ベッドの上だった。

 窓辺から、ベッドに移動した記憶が無い。


 ボク、『平服』のセパレーツセーラー服だったはずなのに、いまは、ピンク鼠の着ぐるみパジャマだ。

車窓を見ると、もはや昼過ぎ、午後三時くらいかな。

 コンパートメント内はボク一人だけど、ブルーさんを見送った記憶がない。


 記憶を辿ると、ブルーさんにしなだれかかるようにして、眠ってしまったような気がする。

 自分で着替えた記憶もないし、自分でベッドに移動した記憶もない。

 だとしたら……。


 ボクの脳裏に、恥ずかしい想像が駆け巡る。

 想像は、ふしだらな妄想にまで至る。


 いや、いや、ブルーさんは、そんなことする人じゃないって、ちゃんと分かってる。

 なんなら、ブルーさんのコンパートメントまで、ボクが眠ったあとのことを確認しに行けばいい、んだけど……。


 ボクは、頭を抱えた。

 もしかしたら、科學戦隊レオタンの四人全員と……。

 いや、いや、いや、ボク、ナニ考えてんの!


□八月一七日~一八日 五泊目


 八月一三日に列車に乗って以降、今日=十七日まで、一度もこのコンパートメントを出ていない。

 明日=一八日には下車して、また戦闘車両(ビークル)に乗り込むことになる。

 たぶん、VIP用客車の談話室に一度も行くことなく、他の科學戦隊レオタン隊員の部屋を訪問することなく、旅を終えそうな気がする。


 だって、科學戦隊レオタンの誰かと顔を合わせる勇気が出ない。

 日中、悶々としながら、閉じ籠もっていた。


 寝る前に、何度も、コンパートメントの扉が内側からロックされていることと、ドアチェーンがかかってていることを確認した。


 着ていた『平服』から、魔力を使って裸にチェンジする。

 セパレーツセーラー服と、スポーツブラと、ボク専用の特殊兵装である(パーフェクト)(アーマー)(ネイキッド)2式が、一瞬で消えた。

 『呪われた服飾』には、服飾と、その着用者の身体を清潔保つ機能がある。

 だから、いつもと同じように、そのまま素肌に、ピンク鼠の着ぐるみパジャマだけを身につける。

 そして、寝た。


 とんでもない夢をみた。

 ボクは、変形合体ロボのレオタアドになって、『蟲の皇』と対峙していた。

 場所は、アムール河の河川敷。


 『蟲の皇』は、ボクを、土手の斜面に、押し倒した。

 『蟲の皇』は、ボクの頭の傍に、『壁ドン』してきた。

 『蟲の皇』の口腔から、べちょべちょの粘液が溢れでている。


 ボクは、「ウギャーーーーーーーーッ!」と悲鳴をあげる。

 手脚をバタバタさせて逃れようとしたが、叶わなかった。


 『蟲の皇』が、その口腔を、ボクの顔面に、押しつけてきた。

 『蟲の皇』の口腔から、ボクの口腔へ――たくさんの蟲が飛び込んできた。

 ボクは、うごめく、それを、ゴクリ、ゴクリと嚥下するしかない。


 もがき苦しみ、手脚をバタバタさせ――ベッドから転がり落ち――目が覚めた。

 『蟲の皇』の姿を探し求める……が、コンパートメント内には、誰もいない。


 たくさんの蟲を嚥下させられたという、生々しい感覚がある。

 腹部に、モゾモゾとした気色悪さがある。


 いや、それだけじゃなくて、自分の身体に、違和感がある。

 自分の全身をまさぐってみて、違和感の正体に『あっ』と気がついた。


 胸がたわわなGカップとなっていて、股間にあるべきものがない。

 つまり、女体化している。


 着ぐるみパジャマの中に、手を突っこんで、確認する。

 やっぱり、そうだ。

 いつの間にか、着ぐるみパジャマの下に、『お色気水着』を着用している。


 寝ぼけた状態のボクが、自分で、着ぐるみパジャマを一旦脱いで、『お色気水着』を着て、その上から、もう一度着ぐるみパジャマを着たってこと……?

 あり得ないよね。


 試しに、この状態から『平服』に瞬間チェンジできないかやってみた。

 当然、できない。


 次に、着ぐるみパジャマを脱いで、『お色気水着』だけを着た状態で、『平服』にチェンジできないかやってみた。

 できてしまった。


 ただし、『平服』であるセパレーツセーラー服のボクは、女体化したままだ。

 確認すると、『平服』の下は、スポーツブラと(パーフェクト)(アーマー)(ネイキッド)2式ではなく、『お色気水着』だ。


 続いて『体育服』と『道衣』を試した。

 いずれも、チェンジ可能だが、女体化したままだ。

 つまり、服の下は、スポーツブラと(パーフェクト)(アーマー)(ネイキッド)2式ではなく、『お色気水着』だ。

 ついでに言うと、どの衣装のお尻にも、白鼠様の御姿は顕現していない。


 ハッと気がついて、『呪われた衣装』から、裸へのチェンジを試みた。

 できなかった。

 裸になりたかったのに、『呪われた衣装』だけが消えて、『お色気水着』は着たままだ。


 『お色気水着』を、自身の手で、脱ごうと試みた。

 これも、できなかった。

 これまでなら、簡単に脱げたし、脱ごうと水着に手をかけた瞬間、女体化が解けていた。

 なのに、いまは、肌と水着の間に、指も、爪も、他のなにかも、入れることができない。


 それに、『お色気水着』を脱ごうとすると、下腹部が重くなる。

 なんというか、無理やり脱ごうとしたら、下血しそうな感じ……。

 更には、そのまま死んでしまいそうなほどの痛みが起こる。


 下腹部に、気色の悪い何かがある。

 なんと言うか、自分の身体が、自分だけのものでなくなったような……。


 ボクは、もう、どうして良いか分らなくなって、床の上に座り込んだまま、泣き出してしまった。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■八月一八日 エイチの塔 承

章題が『エイチの塔』だけに、なんだか、とってもエイチなことに……。

ボクに、エイチなことしたのって、誰なの?

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