■八月一〇日 ツンデレの血脈 結……になってない蛇足
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第七話 ツンデレの血脈 結になってない蛇足
オレ、喇叭拉太っていうんだ。
ロールは『海賊』っていう、誇り高い海の漢……。
……ごめん、ウソついた。
元々は『海賊』だったんだけど、このあいだ、『魔女見習い』なんて、コッパズカシイものに変えられちまったんだ。
いろいろあったんだよ、いろいろ。
いろいろあって、いまでは、新『水泳部』の副キャプテンなんてものも、やらせてもらってる。
そして、今回、新『水泳部』キャプテンの金平糖菓姫様に付添って、北のツンデレ地帯へとやって来ている。
もうひとり、辣人っていう、オレの一歳年上のアニキも一緒だ。
アニキって、元は『乱波』っていう怪盗義賊系のロール持ちだった。
これも、また、いろいろあって、いまでは、魔族四天王のひとりの『黙示禄の喇叭吹き』なんていう、やっかいなロールに変えられちまってる。
正義漢だったアニキが、こともあろうに魔族だぜ。
一緒にここまで来る道すがら、オレとアニキは、自分たちの身に起こった『いろいろ』を語り合い、互いのロールの変化を嘆き合った。
オレは、ロールが変化してからずっと、糖菓姫様に付き従って、お護りしている。
今回、アニキまで引き連れてきたのは、糖菓姫様が、科學戦隊に、アニキを紹介したいと言い出したからだ。
科學戦隊は、蝗害を阻止し、この世界の危機を救うべく、このツンデレ地帯へ来ている。
そして、『黙示禄の喇叭吹き』としてのアニキの力が、蝗害を阻止し、この世界の危機を救うための強力な一手となるからだ。
姫様の提案が受け入れられ、アニキの協力により、蝗害は終息に向かいつつある。
でも、オレとしては、『それでいいの?』と、姫様に問いたい。
『不当に貶められた義賊を救いたい』のは、姫様だけでなく、オレの意思でもある。
姫様が、義賊ロールから魔族ロールへ変えられてしまった、オレのアニキのことを何とかしたいと思ってくれているのも、素直に嬉しい。
だけど、姫様、いつの間にか『不当に貶められた義賊や魔族を救いたい』って言い始めてるよね。
『黙示禄の喇叭吹き』ってね、『魔界四天王』の一人で、魔王の直属の配下なんだぜ。
魔王って人類の敵だよな。
まあ、オレなんかが、考えても仕方ない。
オレ、魔法少女が、理屈ではなく、感情に従って行動するもんだってことは、思い知らされてるし……。
で、アニキを科學戦隊に預けたあとの、姫様についてだけど――。
八月七日、糖菓姫様たち『服飾に呪われた魔法少女』五人は、ヒイラギリンドウ少将ってヤツのタクラミを阻止すべく、ウヲッカ帝國側の屯田兵団駐屯地ってところに、乗り込んだ。
學園偶像『カースウィチ』の慰問コンサートって触れ込みで、屯田兵団駐屯地へ乗り込み、見事、リンドウ少将を討ち取った。
オレは、コンサートスタッフのふりして屯田兵団駐屯地へ付いて行ったんだけど、『服飾に呪われた魔法少女』五人はメチャクチャな強さだった。
カストリ皇國の『服飾に呪われた魔法少女』五人が、ウヲッカ帝國側の屯田兵団駐屯地に乗り込むことについては、あらかじめ両國の同意を得ている。
だけど、両國の関係を荒立てないよう、事が終わり次第、速やかに、カストリ皇國側へ、国境門を戻るよう指示されてもいた。
『服飾に呪われた魔法少女』五人としては、この撤退指示に従わざるを得ない。
だが、屯田兵団駐屯地において、まだひとつ、解決されていない問題が残っていた。
☆
『服飾に呪われた魔法少女』五人の中に、オレの親友の儚内薄荷ってヤツが居る。
コイツ、男なんだけど、暫く逢わない間に、『セーラー服魔法少女』なんてものになって、セーラー服しか着れない身体になってやがった。
オレはオレで、懲罰として、詰襟の男子学生服の下に、女子の制服スカートを身につけなきゃいけなくなってしまった。
出会う度に、互いの恰好を見て、大笑いしあってるぜ。
薄荷の方はさ、カワイイ女の子にしか見えないから、まだ良いよ。
オレなんかさ、このゴツイ身体だから、どこからどう見ても、笑い者だぜ。
で、その薄荷を主人公にした発禁本が、作られたそうなんだ。
『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』っていうタイトルのマンガ本。
『薄い本頒布会』で成上満子男爵夫人が売人を使って売りさばこうとしていたのを宝生明星様が取り押さえた。
本は、没収、されたらしい。
だけど、そのマンガの最終シーン、見開き二ページが問題だった。
薄荷以外魔法少女四人が、海水パンツ一枚で横並びになって、目を見開いている。
そして、声を揃えて、驚きの声をあげている。
「「「「え~っ、薄荷ちゃんってオトコノコだったんだ~!」」」」
この「最終シーンの見開き二ページを捲ると、黒ベタにされた見開き二ページがあって、そこに次の記載がある。
『このページは別売りです。ご覧になりたい方は、下記住所まで、金貨一枚を郵送してください』その送金先が、ここ、ツンデレ国境門にあるウヲッカ帝國の屯田兵団駐屯地だ。
別売りページの絵が、この屯田兵団駐屯地に大量に隠されているってことだよな。
その別売りページの絵って、薄荷がオトコノコだってことが一目瞭然で分かる、エロエロなものってことだよな。
当然、『服飾に呪われた魔法少女』としては、これを放置できない。
だけど、どこに居ても目立つ姿の五人が、他者にはゼッタイ見られたくない、そんなキケンなブツを探し回ることもできない。
そこで、オレの出番ってわけだ。
オレのロールは、今でこそ『魔女見習い』なんてものになっちまったけど、元は『海賊』だ。
隠れ潜んでのお宝探しは、得意なんだ。
オレは、慰問コンサートから今日――八月一〇日――までの三日間、屯田兵団駐屯地へ隠れ潜んで、別売りページの在処を探っていた。
これまでのところ、残念なことに、別売りページは見つけきれていない。
屯田兵団駐屯地は、それなりの広さがある。
だけど、このオレが、隠れ潜みながらとはいえ、三日間くまなく探し回って見つけきれないとなれば、よほど意外なところに隠してあるんだと思う。
それに、金貨一枚分の価値がある絵が、大量にあるんだぞ。
誰かが回収に来ないはずがない。
オレが見張っていたら、今日になって、明らかに怪しい奴がやってきた。
ウヲッカ帝國側から、カストリ皇國側に向かう、一台の馬車。
乗っているのは、御者席にいる女一人。
フードを目深に被っているので、顔は確認できない。
だが、元『海賊』であるオレの目には、その女が高い隠密系のスキル持ちだと分かった。
オレは、検問待ちの間に、その馬車の荷台に潜り込んだ。
木箱が幾つか積まれていたが、どれも空だ。
空荷で国境を越えること自体が、普通ではない。
女は、警備兵に、「カストリ皇國皇族の私物を運ぶ御用馬車よ」と説明している。
書類を提示したことにより、荷台のチェックなし、通関税なしで通過するようだ。
オレは、荷物のチェックがないことを、これ幸いと木箱に潜り込んで、一緒に国境門を通過することにした。
馬車は、カストリ皇國側を暫く進み、これといった特徴のない民家の前で停まった。
木箱から抜けだして、馬車と幌の隙間から様子を覗う。
女が馬車を降りて、出迎えに出てきた男と向かい合う。
その男が、オレの知っているヤツだったので驚いた。
有瀬留版。
『怪盗』のロールを持つ、鹿鳴館學園の新聞部長だ。
オレは、『薄い本頒布会』のステージイベントで、コイツと知り合った。
コイツが、ここにいるってことは、あの『薄い本頒布会』で売りさばかれるはずだった発禁本に関係してのことと考えて間違いない。
ビンゴだ。
留版との挨拶のため、女がフードを取った。
唖然とした。
こっちも、知った顔……。
だけど、こんなところで、出逢うはずのないヤツだった。
転貂手鞠だ!
オレが、出身地の白鼠小學校に入學した年、百五十人ほどいた新入生の中で、ロール持ちと判定されたのは、三人だけだった。
一人は、『海賊』ロールの、オレ。
もう一人は、『魔法少女』ロールの、薄荷。
残る一人が、この手鞠で、『くノ一』のロールだ。
手鞠については、白鼠小學校卒業後、親の仕事の都合で、家族ごと、西のトマソン法國へ転居したと聞いている。
そんなヤツが、なんでこんなところに居るんだ?
手鞠が、留版に訊ねている。
「ここにあるのは、『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』のマンガ本五十冊と、『別売りページ』五百枚で間違いないよね?」
「ああ、しかしながら、『薄い本頒布会』で販売予定だった『服飾に呪われた魔法少女の男水着チャレンジ』四百五十冊は没収され、焼却されてしまったでござる。ゆえに、もはや『別売りページ』の注文が入ることはないのでござる。売り手の成上男爵夫人は逮捕され、買い手のリンドウ少将は死んだでござる。拙者らは、危ないブツを抱えて、途方に暮れていたのでござる。買い取り提案はありがたいが、こんなものを、どうするつもりでござるか?」
「あたい、そんな質問に答えるような、愚か者じゃないわ。持っているだけで危ない代物を、買い取ってやろうというんだから、黙って、ありがたく、取り引きに応じなさいよ」
手鞠が、留版に向かって、布袋を投げる。
中身は、ごく僅かな金貨のようだ。
当然、留版が当初目論んでいたような、大金ではない。
留版は、悔しげに唇を噛みしめつつも、その金貨を懐に収めた。
民家に向かって合図する。
配下らしい男が二人、紙束を載せた台車を押して、民家から出てきた。
その場にいる全員の視線が台車に集まる瞬間、オレは馬車を脱出して、物陰に隠れた。
手鞠は、荷物を積み込んだ馬車を駆り、国境門へと引き返しはじめた。
ウヲッカ帝國側へ取って返すつもりだろう。
オレは、馬車ごと、荷物を奪取すべきか考えた。
手鞠は、オレの顔を知っているし、かなりの手練れだ。
小學生時代、手鞠は、折り紙の手裏剣を愛用していた。
あの手裏剣は、紙製でありながら、狙いは的確で、込めた魔力により、金属を切り裂くことができていた。
当時であの強さだったのだから、現在の戦闘力の高さなど、計り知れない。
それに、オレは、前述したように、スカートを履いている。
スカート姿の男なんて、オレと薄荷しかいない。
留版にチラリとでも見られたら、オレは新聞部をはじめとする報道系の部活の者たち、つまり怪盗・義賊系のロール持ちたちから、追いかけ回されることになる。
これも、ヤバそうだ。
とりあえずは、荷物に手を出さず、糖菓姫様へ報告しに戻ることにした。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■八月一三日夜~八月一八日朝 エイチの塔 起
『科學戦隊レオタン』は、『エイチの塔』へ向かって出発だ。
『エイチの塔』は、カストリ皇國とトマソン法國に跨がるゴミ砂漠の中にある。
ツンデレ地帯から、皇都トリス経由で、最寄り駅まで特別列車で六日。
その後、戦闘車両移動で、丸一日かかる。
事件は、その列車の中で起こった。
誰? 誰が、こんなこと!