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■三月三〇日① 大陸横断鉄道 煩悩号 三日目

 翌朝、座席で、毛布に包まっていたボク――儚内(はかない)薄荷(はっか)――は、巡回してきた車掌さんに肩のあたりを叩かれた。

 借りものの毛布を返して、きちんと着席する。


 眼前に座っていた學園男子制服姿の二人が、目をまるくして、毛布から抜け出てきたボクを凝視している。

 二人揃って、背丈が高く、肩幅もあり、胸板も厚い。

 どちらも、相当に鍛え上げられた肉体を、所持しているようだ。


 昨日は、声を聞いただけで、この瞬間が初見なんだけど、どちらが『爆炎レッド』で、どちらが『雷撃イエロー』なのか一目瞭然だ。


 筋肉ダルマが『爆炎レッド』。

 自然体だと身体が座席に収まらないものだから、ずっと肩を窄めている。

 太股は、どうにか肘掛けの間に収まっているけど、あれでは、立ち上がるときに、腰から引き抜かないといけないだろう。


 スラリとして神経質そうなのが『雷撃イエロー』。

 全身の筋肉が、電流を纏っていそうで、ピクピク震えている。

 眉間のあたりから、火花が飛んできそうだ。


 それにしても、向かいの二人の視線が痛い。

 ボクは、『ずっと熟睡してましたよ~。何も聞いてませんよ~』の態を装う。


 二人は、ボクのセーラー服を喰い入るように見つめて、「ピンクだ……」と囁き交わしている。

 ピンクのミニスカセーラー服は、『思春期の男子』には刺激的だ。

 同じ『思春期の男子』であるボクには、それが、よく分かる。


 きっと、二人は、ボクの服装に目を奪われて、ボクが鹿鳴館學園魔法少女育成科の入學予定者である可能性にまでは思い至らないだろう。

 ボクは、素知らぬ顔で、押し通す。


 下車予定の鹿鳴館學園駅は、間近だ。

 手前の駅で、朝食に、最後の駅弁を購入して、食べる。


 おにぎり二個の具材は、明太子と、高菜漬けだった。

 せっかくの好物なのに、ずっと見られているので、落ち着かない。

 ボクが、左手で、おにぎりを掴んだのを見て、二人は「サウスポーだ……」と囁き交わしている。


 二人揃って、ボクに何か話しかけたいのだが、確信が持てずに迷っている様子だ。


 鹿鳴館學園駅で下車した。

 もちろん、向かいの二人も、ここで下車だ。


 ボクは、二人から距離を取りたくて、足早に歩き始める。


 後ろを歩く『雷撃イエロー』が、「ああーっ!」と、素っ頓狂な奇声を発した。

 振り返ると、『雷撃イエロー』が、『爆炎レッド』に向って、駅の売店に並んだ『カストリ新聞』を指し示している。


 そこには、ボクの白黒写真がデカデカと掲載されていた。

 それは、セーラー服を着用しての初外出時に、玄関前で、煽るような角度で撮られた一枚だ。

 翻ったスカートの中から、あのとき履いていた男児用の半ズボンが覗いている。


 『セーラー服魔法少女の校則違反を激写』という、見出し。

 記事の冒頭部分は、こうだ。


  鹿鳴館學園の新一年生で

  『服飾の呪い』を受けていることが判明している

  儚内(はかない)薄荷(はっか)さん(十五歳)が、

  學園指定のアンスコを履かずに外出……云々……。


 『カストリ新聞』を発行しているカストリ雑誌社には、言ってやりたいことが山ほどある。

 明らかな人権侵害だし、ボクは、あの日、そのアンスコを買うために出かけたんだ。


 だけど、憤慨している場合じゃない。


 『爆炎レッド』と『雷撃イエロー』が、ボクへ走り寄ってくる。

 學園の生徒であることが判明したからには、ボクが物語の登場人物であることは間違いない。

 ならば、物語に係わる行動でさえあれば、一切、遠慮の必要がない。

 きっとボクを拉致して連れ帰り、『お色気ピンク』になることを強要する気だ。

 ボクは、慌てて駆けだした。


 ボク、これでも、男子だよ。

 なのに『お色気』だなんて、絶対イヤだ。


 ボクは、背も低いし、ガリガリで、体力もない。

 だけど、これまでの悲惨な経験から、逃げ足だけは速いんだ。


 とにかく、逃げなきゃ。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■三月三〇日② 皇立鹿鳴館學園の學生寮

やっとのことで、皇立鹿鳴館學園の寮にたどり着いた。

一息つけるかと思ったら、今度は、ボクの部屋割が、トンデモナイことになってるんですけど!

だから、ボク、こんなカッコウでも、オトコノコなんですってば!

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