■三月一日 赤紙
■ごあいさつと、「皇立鹿鳴館學園と服飾の呪い」のご案内
このページを開いていただきました皆様にご挨拶させていただくとともに、この「皇立鹿鳴館學園と服飾の呪い」という物語につきまして、ご案内させていただきます。
この物語は、時間軸に従って直線的に進行していきます。
そして、主人公の成長に合わせて、三つの季節に分かれています。
第一部 揺籃の季節
第二部 汪溢の季節
第三部 爛熟の季節
現在、第三部に突入したところです。
作者として、読んでいただいている皆様を、確実に結末までお連れしたいと、取り組んでいます。
この物語を、少しでも多くの方々に愉しんでいただけますことを、願っております。
ご贔屓、ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。
その日、ボクに、『赤紙』が郵送されてきた。
赤紙というのは、皇立鹿鳴館學園への入學命令書の通称だ。
鹿鳴館學園は、このカストリ皇國唯一の最高學府だ。
學園を無事卒業できれば、國の要職に迎え入れられる。
だけど、入學を命じられて、喜ぶ平民は、まず、いない。
學園は、王侯貴族であれば、九割が無事卒業できる。
ところが、ボクみたいな平民が、生きのびて卒業できる可能性は、一割に満たないんだ。
そのあたりのことを説明するには、先にカストリ皇國の教育制度について話さなきゃならない。
義務教育は、初等科の、小學校六年間だけ。
六歳で小學校に入學し、十二歳で卒業する。
ここで肝心なのは、小學校入學時にロール判定なるものを受けること。
平民だと、ほとんどの生徒は、『モブ』判定となる。
平民であるボクが通っていた白鼠小學校では、同學年百五十人中、『モブ』以外の判定を受けたのは三人だけだった。
これが、王侯貴族の通う白虎小學校では、ほとんどの生徒がロール持ちになるそうだ。
ボクは、白鼠小學校でロール持ちになった三人の中の一人だった。
そして、ボクのロールはというと――『魔法少女』だった。
――ええっとね、ボク、男の子だよ。
メチャクチャ恥ずかしかった。
イジられ、イジメられもした。
でも、まあ、六歳当時は、さして、男女差なんてなかったし……。
いや、当時の回想なんて後回しにして、いまは赤紙に至るまでの説明だ。
小學校を卒業すると、三年間の就労実習で社会経験を積む。
そして、十五歳になったら、次の四月で、一斉に成人となる。
車両の運転も、飲酒も、結婚もできる。
成人した者の多くの者は、そのまま働くことなる。
だけど、ロール所持者に限っては、そうはならない。
ロール所持者は、ほぼ間違いなく、就労実習期間中に、何らかの事件に巻き込まれるんだ。
巻き込まれる事件の性質や規模は、ロール所持者ごとに異なる。
ただ、必ず、その事件により、『トラウマイニシエーション』なるものを、心に刻み込まれる。
その精神的外傷を乗り越えられない者も多い。
乗り越えられなかったらどうなるのかは、考えたくない。
だって、ボクにとっても、トラウマイニシエーションは、未だ生々しく、ズキズキと激痛を齎し続けている生傷だからだ。
それでも、ボクは、与えられたトラウマイニシエーションを克服したと判断されたらしい。
だって、そう判断されたロール持ちにだけ、赤紙が届くからだ。
☆
赤紙といっても、紙一枚の葉書ではなく、封書で届く。
届いた封書の中には、皇立鹿鳴館學園入學命令書だけでなく、幾つかのものが同封されていた。
生徒徽章と、入學準備金の小切手と、大陸横断鉄道の指定席券だ。
生徒徽章は、今後の外出に際し、必ず衣服の襟に付けるよう指示されている。
生徒徽章は、皇立鹿鳴館學園の生徒であることを証明するものだ。
だが、他にもいくつかの機能があると、添付された説明書に記載されている。
皇立鹿鳴館學園の敷地や建物には、魔力と聖力の両方で、二重の領域結界が施されている。
この生徒徽章や、學園の発行した身分証を持たない者は、強い魔力や聖力を持っていようと、入退出を拒まれるそうだ。
また、生徒徽章は、學園内において、財布として機能する。
入學準備金とは別に、既に最初の一カ月分の、最低限の小遣い相当額が、チャージされている。
入学後は、一カ月生き延びるたびに、奨学金がチャージされるそうだ。
學園内の木炭バス網の利用や、学生寮の食堂は、無料。
學園内の施設における飲食や買い物については、学割が受けられる。
ボクは、その場でできる身分証明機能を試してみた。
身につけた状態で、生徒徽章に手を翳す。
すると、胸元に、個人情報が映し出される。
皇立鹿鳴館學園 魔法少女育成科 一年
儚内薄荷 男
ロール:魔法少女
あっ、まだ自己紹介も、してなかったね。
ボクの名前は、儚内薄荷って言うんだ。
父の儚内薄命は、徴兵されて戦死。
母の薄明は、製糸工場の女工だ。
母は懸命に働いて、ボクと、病床の妹である薄幸を育ててくれている。
十五歳になったボクの外見はというと、身長は一五〇㎝もない。
運動は苦手で、肩幅もなく、喉仏もない。
声変わりしたはずなのに、妙に甲高い声しか出せない。
短髪にして、男子らしい作業ズボンを履いてるのに、それでも女子に間違われる。
父の薄命は、一八〇㎝はあったし、肩幅もあり、男らしい低い声だった。
なのに、息子のボクが、こんな、なよっとした外見に育ってしまったのは、間違いなく、『魔法少女』なんていう、ロールのせいだと思う。
☆
一日の労働を終え、工場から帰宅してきた母に、赤紙が届いたことを伝える。
そして、赤紙に同封されていた、入學準備金の小切手を手渡した。
小切手には、それなりの金額が記載されている。
だが、この四月にやっと成人する一人前の労働力を、家族から奪うのだと考えると、心許ない金額だ。
ボクの場合、苦労をかけてきた母と、病床の妹を残して、出頭せねばならない。
生きて帰れる可能性も低いのだから、なおさらだ。
『ボクみたいな平民が、生きのびて無事卒業できる可能性は、一割に満たない』って、大雑把に言ったけど、もうちょっと正確な説明が必要だよね。
まず、入學した平民の一割は、學園を無事卒業し、エリートとして、國の要職に迎え入れられる。
だけど、残る九割は、卒業できない。
卒業できなかった者のうち一割は、ロールを剥奪されて『モブ落ち』し、強制送還される。
『モブ落ち』は不名誉なこととされ、まともな職に就くこともできなくなる。
そして、卒業できなかった者のうち九割は、學園内で名誉の死を遂げる。
トラウマイニシエーションを受けたロール持ちであるボクに、今日、赤紙が届くことは、予め分かっていた。
分かっていたことではあるんだけど、それでも、母は、報せを聞いて涙ぐんでいた。
――母さん、親不孝な息子で、ゴメンナサイ。
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■三月二日 服飾の呪い
ボクのもとへ、皇立鹿鳴館學園から制服が届いた。
え〜っ、この制服って……!