表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/123

■三月一日 赤紙

■ごあいさつと、「皇立鹿鳴館學園と服飾の呪い」のご案内


このページを開いていただきました皆様にご挨拶させていただくとともに、この「皇立鹿鳴館學園と服飾の呪い」という物語につきまして、ご案内させていただきます。


この物語は、時間軸に従って直線的に進行していきます。

そして、主人公の成長に合わせて、三つの季節に分かれています。


第一部 揺籃の季節

第二部 汪溢の季節

第三部 爛熟の季節


現在、第三部に突入したところです。

作者として、読んでいただいている皆様を、確実に結末までお連れしたいと、取り組んでいます。


この物語を、少しでも多くの方々に愉しんでいただけますことを、願っております。

ご贔屓、ご愛読のほど、よろしくお願いいたします。

 その日、ボクに、『赤紙』が郵送されてきた。

 赤紙というのは、皇立鹿鳴館學園への入學命令書の通称だ。


 鹿鳴館學園は、このカストリ皇國唯一の最高學府だ。

 學園を無事卒業できれば、國の要職に迎え入れられる。


 だけど、入學を命じられて、喜ぶ平民は、まず、いない。

 學園は、王侯貴族であれば、九割が無事卒業できる。

 ところが、ボクみたいな平民が、生きのびて卒業できる可能性は、一割に満たないんだ。


 そのあたりのことを説明するには、先にカストリ皇國の教育制度について話さなきゃならない。


 義務教育は、初等科の、小學校六年間だけ。

 六歳で小學校に入學し、十二歳で卒業する。


 ここで肝心なのは、小學校入學時にロール判定なるものを受けること。

 平民だと、ほとんどの生徒は、『モブ』判定となる。

 平民であるボクが通っていた白鼠小學校では、同學年百五十人中、『モブ』以外の判定を受けたのは三人だけだった。

 これが、王侯貴族の通う白虎小學校では、ほとんどの生徒がロール持ちになるそうだ。


 ボクは、白鼠小學校でロール持ちになった三人の中の一人だった。

 そして、ボクのロールはというと――『魔法少女』だった。


 ――ええっとね、ボク、男の子だよ。


 メチャクチャ恥ずかしかった。

 イジられ、イジメられもした。


 でも、まあ、六歳当時は、さして、男女差なんてなかったし……。

 いや、当時の回想なんて後回しにして、いまは赤紙に至るまでの説明だ。


 小學校を卒業すると、三年間の就労実習で社会経験を積む。

 そして、十五歳になったら、次の四月で、一斉に成人となる。

 車両の運転も、飲酒も、結婚もできる。


 成人した者の多くの者は、そのまま働くことなる。

 だけど、ロール所持者に限っては、そうはならない。

 ロール所持者は、ほぼ間違いなく、就労実習期間中に、何らかの事件に巻き込まれるんだ。


 巻き込まれる事件の性質や規模は、ロール所持者ごとに異なる。

 ただ、必ず、その事件により、『トラウマイニシエーション』なるものを、心に刻み込まれる。


 その精神的外傷を乗り越えられない者も多い。

 乗り越えられなかったらどうなるのかは、考えたくない。


 だって、ボクにとっても、トラウマイニシエーションは、未だ生々しく、ズキズキと激痛を齎し続けている生傷だからだ。


 それでも、ボクは、与えられたトラウマイニシエーションを克服したと判断されたらしい。

 だって、そう判断されたロール持ちにだけ、赤紙が届くからだ。


 ☆


 赤紙といっても、紙一枚の葉書ではなく、封書で届く。

 届いた封書の中には、皇立鹿鳴館學園入學命令書だけでなく、幾つかのものが同封されていた。

 生徒徽章と、入學準備金の小切手と、大陸横断鉄道の指定席券だ。


 生徒徽章は、今後の外出に際し、必ず衣服の襟に付けるよう指示されている。


 生徒徽章は、皇立鹿鳴館學園の生徒であることを証明するものだ。

 だが、他にもいくつかの機能があると、添付された説明書に記載されている。


 皇立鹿鳴館學園の敷地や建物には、魔力と聖力の両方で、二重の領域結界が施されている。

 この生徒徽章や、學園の発行した身分証を持たない者は、強い魔力や聖力を持っていようと、入退出を拒まれるそうだ。


 また、生徒徽章は、學園内において、財布として機能する。

 入學準備金とは別に、既に最初の一カ月分の、最低限の小遣い相当額が、チャージされている。

 入学後は、一カ月生き延びるたびに、奨学金がチャージされるそうだ。


 學園内の木炭バス網の利用や、学生寮の食堂は、無料。

 學園内の施設における飲食や買い物については、学割が受けられる。


 ボクは、その場でできる身分証明機能を試してみた。

 身につけた状態で、生徒徽章に手を翳す。

 すると、胸元に、個人情報が映し出される。


  皇立鹿鳴館學園 魔法少女育成科 一年

  儚内(はかない)薄荷(はっか) 男

  ロール:魔法少女


 あっ、まだ自己紹介も、してなかったね。


 ボクの名前は、儚内(はかない)薄荷(はっか)って言うんだ。


 父の儚内(はかない)薄命(はくめい)は、徴兵されて戦死。

 母の薄明(はくめ)は、製糸工場の女工だ。

 母は懸命に働いて、ボクと、病床の妹である薄幸(はっこう)を育ててくれている。


 十五歳になったボクの外見はというと、身長は一五〇㎝もない。

 運動は苦手で、肩幅もなく、喉仏もない。

 声変わりしたはずなのに、妙に甲高い声しか出せない。

 短髪にして、男子らしい作業ズボンを履いてるのに、それでも女子に間違われる。


 父の薄命(はくめい)は、一八〇㎝はあったし、肩幅もあり、男らしい低い声だった。

 なのに、息子のボクが、こんな、なよっとした外見に育ってしまったのは、間違いなく、『魔法少女』なんていう、ロールのせいだと思う。


 ☆


 一日の労働を終え、工場から帰宅してきた母に、赤紙が届いたことを伝える。

 そして、赤紙に同封されていた、入學準備金の小切手を手渡した。


 小切手には、それなりの金額が記載されている。

 だが、この四月にやっと成人する一人前の労働力を、家族から奪うのだと考えると、心許ない金額だ。

 ボクの場合、苦労をかけてきた母と、病床の妹を残して、出頭せねばならない。

 生きて帰れる可能性も低いのだから、なおさらだ。


 『ボクみたいな平民が、生きのびて無事卒業できる可能性は、一割に満たない』って、大雑把に言ったけど、もうちょっと正確な説明が必要だよね。


 まず、入學した平民の一割は、學園を無事卒業し、エリートとして、國の要職に迎え入れられる。

 だけど、残る九割は、卒業できない。


 卒業できなかった者のうち一割は、ロールを剥奪されて『モブ落ち』し、強制送還される。

 『モブ落ち』は不名誉なこととされ、まともな職に就くこともできなくなる。

 そして、卒業できなかった者のうち九割は、學園内で名誉の死を遂げる。


 トラウマイニシエーションを受けたロール持ちであるボクに、今日、赤紙が届くことは、予め分かっていた。

 分かっていたことではあるんだけど、それでも、母は、報せを聞いて涙ぐんでいた。


 ――母さん、親不孝な息子で、ゴメンナサイ。

~~~ 薄荷(はっか)ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~

■三月二日 服飾の呪い

ボクのもとへ、皇立鹿鳴館學園から制服が届いた。

え〜っ、この制服って……!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ