結婚式の準備
タキシードは蓮に合わせて用意したから、改めて武士さんに似合うタキシードを選ぶために、私達は翌週レンタルドレス屋に足を運んだ。
「メインは綾のドレスだから、俺は何でもいいんだけど、綾の選んだドレス、見たいし」
そう言って、ニコニコの笑顔でショップに向かう武士さん。
今日はこのあと、挙式の打ち合わせも入っている。
武士さんは結構仕事が忙しいから、休みの日くらい寝ていたいんじゃないかと思うけど、全然気にせずついてきてくれた。
蓮と武士さんはほとんど体型が変わらなくて、武士さんの方から少し背が高いくらい。
それでも、私のドレスに合うタキシードを選んでくれた。
それから私のドレス姿を何枚も写真に収めていた。
挙式の打ち合わせでも、すごく積極的で、予算内で、それでいて私の希望に沿うように、担当の人と相談している。
もはや私はかやの外といっていいくらいだ。
当日提供する食事も、1回試食しただけで、何が必要で何がいらないかを的確に決めていた。
さすが、仕事のできる男は違う。
私が一人でアレコレ悩みながら決めていたのが嘘のように、トントン拍子に決まっていく。
それでも、私の希望からはブレない。
「なんだか、武士さん結婚式に慣れてるみたい」
打ち合わせが終わった帰り道、私がそう言うと、武士さんはカラカラと笑った。
「一緒に悩みながら決めるつもりだったけど、既婚者の友達に、不要なものはどんどん切り捨てていかないと予算オーバーになるって脅されたからな」
武士さんは今33歳。
年齢的に結婚してる友達も多い。
たぶん、打ち合わせに行く前に相談したんだと思う。
手回しがいいな、と思う。
「でも、昨日も残業で疲れてるでしょう?家に帰って休んだほうがいいんじゃない?」
私はと言えば、ようやく武士さんに対して敬語を使わないで話せるようになった。
元指導係の武士さんに対して、敬語をやめるのはなかなか至難の業だった。
「じゃあ、うちくる?」
「武士さんの、家?」
「そう。まだ一度も来たことないでしょ?」
「い、行く!」
式の準備と違ってなかなか私達の関係は進展していない。
家に行けば、武士さんのテリトリーに入れば、何か変わるかもしれない。
私は武士さんの運転する車で、そのまま武士さんの家にお邪魔することになった。
「散らかってるけど、どうぞ」
武士さんはそう言って、玄関のドアを開けてくれた。
ありふれた、1Kの部屋。
言うほど散らかってなくて、せいぜい、脱いだ部屋着がベッドの上に放り出されてるくらい。
「キレイにしてるんですね」
振り向くと、武士さんは私の真後ろに立っていた。
そのまま、私をそっと抱きしめる。
「もしかしたら今日、部屋に呼べるかなって期待して、掃除しておいたから」
武士さんの熱い視線に絡めとられるように、私たちは唇を重ねた。
武士さんとの、初めてのキス。
なんの違和感もなかった。
私はそのままベッドまで運ばれて、優しく愛された。
「もう少しで、名実ともに綾は俺のものになるんだな」
しみじみ言われて、結婚式まであと4ヶ月なんだと実感する。
「蓮に振られたときは、こんな日が来るなんて、思ってもいなかったです」
「そうだろうね」
クスッと笑って、武士さんは立ち上がると、クローゼットから小さな袋に入った物を取り出した。
「開けてみて」
袋の中を覗いて、それだけでそれが何なのか分かった。
ドキドキしながら、四角い箱に入ったビロードの箱を取り出す。
ビロードの箱に入っていたのは、思ったとおり指輪。
「婚約指輪、あげてなかったから」
いつの間に買いに行ったんだろう。
武士さんは中から指輪を取り出すと、そっと私の薬指にはめた。
「うん、ピッタリ」
どうやって私のサイズを知ったのか、指輪は私の薬指にピッタリと収まった。
ゴツすぎない指輪で、仕事にもしていけそうだ。
「ありがとう、嬉しい」
「喜んでくれてよかった」
チュッと薬指にキスを落とす。
「今度は二人で、結婚指輪見に行こう」
「はい」
頷いた私にキスをして、武士さんはまた私の身体を押し倒した。