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最後の嘘  作者: pon
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両親への挨拶

そして土曜日。

武士さんはパリッとしたスーツを着て、髪型を整えて私のマンションまで迎えに来た。

実家までは車で一時間、電車で二時間といった所だ。

車を止める場所がないといけないので、電車で行くことにした。

いつもより口数の少ない武士さん。



「緊張、してますか?」


「そりゃね。好きな子のご両親には気にいられたいし。ましてや結婚の許可を得にいくんだから、緊張するよ」



予定通り、駅前のケーキ屋でケーキを買って、徒歩十分くらいの道を歩く。


私が家の呼び鈴を押そうとすると、武士さんがその手を止めた。



「ちょっと待って、深呼吸するから」



そんな姿も可愛くて、私はちょっと笑った。



武士さんが3回くらい深呼吸したところで、呼び鈴を押すと、いつもよりオシャレをしたお母さんが出てきた。



「遠いところようこそいらっしゃいました。どうぞ、中へ」


「ありがとうございます。あ、これお土産です。お口に合うといいんですが」


「まぁ、ありがとう」



普段はめったに使われることのない客間に通される。


緊張している武士さんの横にすわっていると、私まで緊張してきた。



「ようこそ、水野さん。それからおかえり、綾」



お父さんが入ってきて、私達の正面に座る。



世間話から始まって、今日はお願いがあってお邪魔しました、という言葉と同時に、武士さんが座布団から降りる。



「娘さんと、結婚の了承をいただきたく、そのお願いに参りました」


「楽にしてくれ、水野くん。君は、その、娘に何があったか知っているんだよね?」


「はい。まだ、心に残っていることも存じています」


「本当にそれでもいいのかい?」


「僕は、娘さんが入社したときからずっと想いを寄せていて、失礼な話ながら、今回のことをチャンスだと思ってしまいました。かならず、幸せにします。いつか、いい思い出だったと笑えるように」


「そうか……わかった。娘をよろしく」


「ありがとうございます!」



それから、お父さんと武士さんはお酒を飲み始めて、お昼にはお寿司が出た。

私はお母さんの手伝いをしていた。



「良さそうな人で安心したわ。しあわせになりなさい」


「うん」



本当に、武士さんは私にはもったいないような人だ。

大切にしようと、思った。



◇◇



翌週末、武士さんのご実家にご挨拶に伺った。

武士さんはお父さん似で、武士さんが歳を重ねたらこうなるんだろうなって予想ができる感じだった。

お母さんは、のんびりした感じの人。



「俺が嫁にしたい人」



客間に通されるなり、武士さんがぶっこんで来た。

慌てて座布団から降りて、三つ指ついて挨拶する。



「大島綾と申します。武士さんとお付き合いさせていただいています」



そこまで言って、ふと思った。

お付き合いしてるけど、まだ私達はキスもしてない。

このままプラトニックなままで、挙式を迎えるんだろうか。



「式はいつにするんだ?」


「もう会場と日にちは押えてある。綾ちゃん、いつだっけ」


「4ヶ月後の、10月6日」


「相変わらず準備が早いなぁ」


「プロポーズのOK貰ったら、逃したくなくて一気にあれこれ決めたから」



本当は、こんな嘘つかせたくない。

でも、それでもこんな私を選んでくれたことを、後悔させたくないと思った。


挨拶は終始和やかに進んだ。




その日の晩、私は夢を見た。


蓮が、私の家に結婚の挨拶をしに来る夢。

現実にあったことと同じように、話が進んでいる。



「必ず、大切にしますから」


「うそつき!」



蓮の言葉に大声で言い返した自分の声で、目が覚めた。



嘘つき。

蓮の嘘つき。

大切にするって、幸せにするって言ったのに。

結婚もしないうちに別れるなんて。

ああ、でも。

結婚前でよかったのかもしれない。

離婚すると、戸籍に傷がついちゃうから。

そこだけは、蓮に感謝しないと。


カーテンの向こうはまだ真っ暗だ。


私は布団にくるまって、もう一度眠りについた。



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