どんどん君を好きになる side蓮
待ち合わせ当日、俺は柄にもなく浮かれていて、約束の時間より30分も早く待ち合わせ場所についてしまった。
これまで付き合った彼女には、待ち合わせにいつも遅刻する、と怒られて、最終的には振られていたのに。
「ごめんなさい、待ちました?」
約束の15分前。
綾がやって来た。
「いや、俺もさっき来たところ」
しれっと嘘をつきながら、綾の服装をチェックする。
これまでは就活スーツしか見たことがなかったから、すごく新鮮だった。
シフォンブラウスに、フレアスカート。
髪の毛は器用にサイドだけ編み込まれている。
それに、甘い香り。
「京極さん、どうしました?」
「ん、いい香りだなって」
「あ。匂いきつかったですか?」
「ううん。いい香り」
綾はポポっと頬を染めた。
「普通の居酒屋でもいい?」
大学生の懐事情じゃ、オシャレなお店に連れて行ってあげたくても難しい。
「全然問題ないです。むしろ、普通の居酒屋の方が緊張しないで飲めるし」
その言葉に、綾は結構飲むんだな、と思った。
近場のチェーン展開してる居酒屋に入り、運良く空いていた個室に案内される。
とりあえずはビールだよね、と笑いあって、生2つ注文する。
「大島さん、嫌いなものは?」
「粘っこいのは苦手ですけど、後は大丈夫です」
突き出しを食べながら、二人でメニューとにらめっこする。
結局、定番の唐揚げとポテト、シーザーサラダと揚げだし豆腐をまず頼むことにした。
「居酒屋の唐揚げって、たいてい美味しいですよね」
「だね。温度とか油の量が違うのかな」
「京極さんは、」
「ストップ」
急にストップをかけられて、綾はキョトンとしている。
「俺たち同い年だし、苗字にさん付けはやめようよ。あと、敬語も」
「あ、そうですね。じゃあ、えっと、蓮くん?」
彼女に名前を呼ばれた瞬間、胸がドキンと跳ねた。
サーブされたものを食べながら、就活の苦労話とかをお互いに話す。
「そう言えば綾ちゃんは、結局どこの企業にしたの?」
綾が答えた企業は、俺の先輩が務めているところだった。
「いい会社らしいよ。よかったね」
「うん。蓮くんは?」
俺がいくつか取れた内定のうち、選んだ企業は、業界でもそこそこ知られている会社だ。
「あそこの内定取れたの?すごいね」
「ラッキーだったよ」
「そんなことないよ。実力でしょ?」
綾の衒いない褒め言葉に、少し頬が熱を持つ。
いくつか料理をおかわりしつつ、大学の話や、就活の失敗談なんかも話すうちに、いい具合に酔いが回ってきた。
綾は、というとそんなにまだ酒を飲んでないのに、目がトロンとして頬も赤い。
その顔に、胸がドキドキしてくる。
「綾ちゃん、もしかして酒弱い?」
「なんでわかるの?エスパー?」
ケラケラわらいながら綾が言う。
「もうこうして、蓮くんと会ったりLINEしたりできなくなるんだね」
妙にしんみりと綾が言った。
俺と会えなくなることを、綾も残念がってくれてるんだろうか。
「よければ……また会おうよ」
「それは……友達として?」
綾の眼は相変わらずトロンとしていたが、その奥には強い光が宿っていた。
「今日は、綾ちゃんも酔ってるから、返事は保留。記憶なくしてなかったことにされるのも嫌だし」
これじゃ、ほとんど告白と同じだ。
「じゃあまた、会ってくれる?」
「今度は昼間に会おうか。もう講義ほとんどないだろ?」
「そうだね。卒業研究だけ」
「じゃあ、今度の土曜日に、水族館に行きがてら会わない?」
「水族館!」
急に綾のテンションが上がった。
「好きなの?水族館」
「大好き!」
「じゃ、土曜日は水族館で決まりだな」
嬉しそうに枝豆を食べる綾を見ながら思う。
今日はともかく、土曜日はデートになるって、わかってるのかな。
呑気な綾さんのことだ。
気付いてないかもしれない。
でも俺は、土曜日に告白することを心のなかで決めた。




