蓮の手帳 〜最愛の綾へ〜
この手帳が綾の手に渡ることを願って。
綾がこの手帳を手にする頃、俺はもうこの世にいないだろう。
冷たい態度を取ってごめん。
ひどい言葉をたくさん投げつけてごめん。
許されるとは思ってないけど、俺の最後の嘘だから、多目に見てもらえると救われる。
余命宣告されて、俺ではもう綾を幸せにできないから、強引な手段で武士先輩に綾を託したんだ。
綾に出会って、俺は本当に幸せだった。
人生最高の日々だった。
こうして、死を目前に控えた今、心から言える。
綾は俺が唯一愛した女性で、二人の時間は宝物だったと。
綾とはもう会えないけれど、あの日々を思い出すだけで、俺はこれからの短い時間を幸せに生きていける。
秘密にしてもらってたけど、武士さんは俺の大学時代の先輩で、綾のウェディングドレスの写真や、お腹の子のエコー写真をいつもお土産に持ってきてくれた。
俺との結婚式じゃないし、俺の子供でもないけど、綾が幸せに暮らしているのがわかって、嬉しい。
本当は、綾の子供が生まれるまで生きていたいけど、それは無理そうだ。
でもきっと、綾の子供なら可愛いだろうし、綾ならいいお母さんになれるって信じてる。
綾には、誰より幸せになってほしい。
俺が幸せにできなかった分、武士さんに幸せにしてもらってほしい。
綾、愛してる。
心の底から、苦しいくらいに。
もしも今綾に会えたら、本当のことを話して抱きしめて、最後を看取ってほしいなんて、そんなワガママを言ってしまいそうだ。
綾をあんなに傷つけて、もう綾は他の人と幸せに暮らしているっていうのに。
ずっと、綾のことばかり考えてる。
綾は俺にとって眩い光みたいな存在だった。
今もそうだよ。
優しくて泣き虫で、そんな綾のことが大好きだった。
おばあちゃんになるまで幸せにしてあげたかった。
でも、俺の選択は間違ってなかったって、今でも思ってる。
今の俺では、もう綾を幸せにしてやれないし、武士さんならきっと綾を大切にしてくれるから。
武士さんにもらったガムランボールが音を立てるたびに、綾と繋がってる気がして、とても嬉しい。
今は、こんな些細なことでも嬉しい。
もっと、綾との時間を大切にすればよかった。
失って気づくものが多すぎた。
本当は、本音を言えば、もっと生きたい。
綾とずっと一緒に生きていきたい。
なんで俺が、死ななきゃならないんだって、今でも思ってる。
綾の声が聞きたい。
綾の温もりが恋しい。
抱きしめて、全部嘘だよって、言えればいいのに。
こんなにも、綾のことが愛しい。
結婚のこともそうだけど、沢山、いろんな約束したよな。
全部全部、果たせなくてごめん。
大切にするって約束守れなくてごめん。
会いたいよ。
綾に会いたい。
俺から別れを告げておいて何を勝手なって、怒られるかもしれないけど、どうしようもなく、君に会いたい。
でもその願いは叶わないって分かってるから、今願うことはひとつだけ。
綾のこれからの人生が、幸せに溢れますように。
肩に降る雪さえも花びらに変えるほど、幸せでありますように。
これから先、ずっと、綾が幸せでありますように。
どうか、幸せに。
誰よりも幸せに。
最期の一瞬まで綾を愛してると誓う。
君の幸せを願う。
そしていつか、君とまた会えることを願う。
愛してる。
永遠の愛を、君に。




