とりあえずお付き合い始めました
少しずつ俺を知ってくれればいいから、式場のキャンセルだけはストップさせて。もし、俺と結婚する気になれなかったら、キャンセル料は俺が払うから。
そういった水野さんの言葉に甘えるように、私は蓮にLINEを送った。
キャンセルはしないで、と。
蓮の気持ちが変わるかもしれないという期待もあった。
LINEはブロックされてるかな、と思ったけど、すぐに既読がついて、『わかった』と一言だけ返事が来た。
そのことだけでも、私は救われた気がした。
蓮と私は、就活のときに出会った。
お互いに目指している業界が同じだったらしく、何度もいろんな会社で顔を合わせるうち、いつしか言葉をかわして、連絡先を交換するようになった。
結果として、入社した企業は別れてしまったけど、お互いに内定が取れたお祝いに二人で飲みに行くことになって、そこで蓮に告白された。
蓮はいつでも穏やかで優しくて、大好きだった。
そろそろ結婚しようと言い出したのも、蓮からだった。
でも、互いの両親に挨拶に行って、少しずつ準備を進めていく間に、蓮の出張が増えた。
今思うと、出張というのは口実で、もう一人の彼女と会っていたのかもしれない。
蓮が嘘なんてつけるわけ無い。
疑いたくない気持ちは大きかったけど、結果として私は振られて、蓮が女の子と仲良く歩いていたと水野さんは言っている。
たとえ水野さんの話が嘘でも、私が婚約破棄されたことには間違いない。
蓮と話した金曜の夜、私は水野さんに誘われるままバーで飲んで、タクシーを呼んでひとり暮らしの家に帰った。
土日で、浮腫んでいるだろう顔を治さなくては、と半身浴とリンパマッサージをして、パックもした。
◇◇
金曜の夜。
水野さんは、婚約破棄についても上長に知らせなくていい、と言っていた。
自分と結婚するんだから、と。
思えば、随分自信に満ちた言動だ。
私はまだ、水野さんのプロポーズにOKを出しだわけでもないのに。
土曜日。
水野さんからLINEが来た。
デートのお誘いだ。
特に断る理由もなかったから、私はOKした。
どこに行くのかは聞いていなかったから、動きやすいパンツスタイルにした。
連れて来られたのは、某夢の国。
一度はいってみたいと思いつつ、未だ行ったことのなかった場所だ。
水野さんにひっぱられるように、様々なアトラクションに乗って、キャラクター達と写真を撮った。
夜にはパレードも見た。
もうそれだけで、私は満足だった。
でも、これから帰るんだろうと思っていたら、水野さんは夢の国に併設しているホテルにチェックインした。
まだ、告白されて1日しかたっていないのに、一緒にお泊りは流石に……
そんな私の気持ちを読んだかのように、
「部屋は一部屋だけど、ベッドルームは2つついてるから、心配しなくても大丈夫」
と笑った。
2部屋も寝室があるなんて、きっと高い部屋なんだろう。
「宿泊費、半額出させてください」
流石に申し訳なくてそう言ったが、水野さんはそんな私にデコピンした。
「初めてのデートくらい、カッコつけさせてよ」
そう言われてしまえば、これ以上我を通すのも失礼に当たる。
「わかりました。ありがとうございます」
部屋はファンシーで、さすが夢の国、と変なところで感心してしまった。
私たちは順番にお風呂を使って、明日に備えて早く寝た。
寝る時、ちょっと緊張したけど、水野さんの方からなんの物音もしなかったので、安心して眠りについた。