表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の嘘  作者: pon
15/34

青天の霹靂

武士視点です

大島綾は、この頃ますます可愛さに磨きがかかっている。


それもそうだろう。

あと数ヶ月もすれば、長年付き合ってきた彼氏と結婚するのだから。

いわば、今が幸せの絶頂なんじゃないだろうか。




綾が入社してうちの部に配属になった時、俺は一瞬見とれてしまった。


ショートボブのふんわりした髪。

小さな顔に、大きな目とふっくらした唇。

まつ毛は何もしてないみたいなのに長くて、瞬きのたびにパタパタする。

小さな体に、細っこい腕と足。


正直に言えば、俺のストライクゾーンど真ん中で、一目惚れだった。


だから、綾の指導係に指名された時は、本当に嬉しかった。

一応公私は分けて考える質なので、特別に甘やかしたりはしなかったけど、どうしても、話し方やフォローが特別になってしまっていたのは自覚している。


なんとかして振り向かせたい、そう思っていた。


でも、部署内の歓迎会のとき、綾には彼氏がいることがわかった。

しかも、付き合いたてほやほや。

水を向けると嬉しそうに話してくれた。


なんでも、就活で顔を合わせるうちに仲良くなったらしい。


それを聞いて、俺はちょっと首を傾げた。

最近、似たような話を大学時代の後輩から聞いたからだ。



「彼氏の名前、何ていうの?」

「京極蓮くんです」



少しお酒も入って上機嫌な綾は素直に答えてくれた。


京極蓮。


珍しい苗字だから、間違いない。

俺の後輩だ。

別の会社が本命だったらしく、うちの内定を蹴って同業他社に入社したことは知っている。

お祝いがてら飲みに行ったとき、確かに蓮から話を聞いた。

就活で知り合った女の子と付き合い始めた、と。

見たこともないような甘い表情で、大切にしたいんです、と惚気ていた。


早速失恋確定してしまったけど、俺はそれでも綾のことを諦めきれなかった。

余計なちょっかいを出すつもりはなかったけど、蓮以外の男の中では一番近い位置にいたかった。

もしも、蓮と別れるようなことがあれば、すぐにでもさらいに行けるように。


だが、俺の思惑を嘲笑うように、二人は順調に愛を育んで、入社して五年目に、婚約した。


諦めざるを得なかったけど、好きな気持ちはそんなに簡単に消えてはくれなかった。


表面上では綾にお祝いの言葉をかけつつも、もう手の届かないところへ行ってしまうことを考えると、堪らなかった。



そんなある日、受付から内線がなった。



「京極様とおっしゃる方が、面会に来られていますが」



蓮が?



特になんの約束もしてなかったのに、何があったのか。

もしかして、俺の気持ちに気付いて牽制に来たのか?



受付のラウンジまで降りていくと、スーツ姿の蓮が待っていた。



「よう。ライバル会社を訪ねてくるなんて大した度胸じゃねぇか。どうかしたのか?」



蓮は硬い笑みを浮かべて、受付の子が出してくれたお茶を一口のんだ。



「単刀直入に聞きますが、武士先輩は、綾のことを好きですよね?」


「まぁ、部下としてかわいがってはいるが」



誤魔化したが、蓮はそれを許さなかった。



「誤魔化さないでください。綾の同期の由香ちゃんからも、先輩は明らかに綾を特別視してるって聞いてますし、俺が綾のことを話す時、先輩、怖い顔になってるの、自覚ないんですか?」



ぐっ、と言葉に詰まる。



「お願いですから、本当のことを言ってください。綾のことを好きなんですよね?」


「……好きだよ、一人の女性として。

でも、もうお前と結婚するんだし、諦めようと思ってる」


「もし、俺がいなければ結婚まで考えるほど、好きですか?」



その時の蓮の目は、怖いくらい真剣だった。



「現実にはお前と結婚するし、付き合ってるわけでもないから、結婚までするかどうかは答えられない」


「俺がいなかったら、いなくなったら、綾を大切にしてくれますか?」


「もし付き合うなら、絶対に大切にする。それだけは断言できる」



そこで初めて、蓮の表情が和らいだ。



「よかった。先輩になら、綾を任せることができます」


「どういう意味だ?お前、結婚やめるつもりか?」


「はい」



頭に血が上った。

俺は思わず立ち上がり、蓮の襟首を掴みあげた。



「どういうつもりだ。もう、式まで数ヶ月だろ?大島も楽しみにしてるんだぞ?」


「わかってます。でも、俺は綾とは結婚できないんです」


「だから、なんで」


「ガンなんです」



俺の言葉にかぶせるように言った蓮の言葉に、俺は言葉を失った。



「肺がんで、ステージ4。もう、全身に転移してます」


「な………嘘、だろ?」


「本当です。余命一年もありません。

俺と結婚しても、綾には苦労だけかけて、楽しい思い出も作れないまま、すぐに一人にさせてしまう。戸籍にも傷がつく。だから、俺は綾とは結婚できないんです」



きっと、悩みに悩んで、もう自分の中でハッキリと答えを出したんだろう。

蓮はそれくらい、落ち着いた表情をしていた。



「来月には仕事もやめて、入院することになります。これまでの検査入院の時は出張ってうそがとおりましたけど、今度の入院は、多分最後になるからもうごまかせません。綾に知られる前に、俺は綾に別れを告げるつもりです。だから、先輩にはその後の綾のことをお願いしたいんです」


「お前は、それでいいのか?」


「綾が幸せになれるなら、方法は問いません。今週の金曜日、駅前のカフェで仕事終わりに綾に別れ話をします。

先輩、綾のこと、お願いします。

綾には俺が浮気していたことを匂わせてください。その方が、早く諦めがつくと思うから。」



蓮は本当に、綾のことを愛しているんだ。

綾が幸せになれかるなら、そこに自分がいなくてもいいと思えるほど。


頭を下げる蓮を目の前に、俺は両手を握りしめた。



「わかった。大島は、俺がもらう。

責任を持って幸せにする」


「ありがとうございます」



最後まで笑顔で、蓮は会社を出ていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ