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最後の嘘  作者: pon
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疑惑の関係

結局、仕事は退職することにした。

つわりがだんだんひどくなっていったのもあるけど、武士さんの強い意向によるものだ。



1日家にいると、暇だからか、今まで気にならなかったことが気になり始める。


たとえば、武士さんの帰りが相変わらず遅いこととか。

帰宅した武士さんのワイシャツから香る、仄かな消毒液の匂いとか。


たぶん、毎日お見舞いに行ってるんだと思う。


そんなに仲のいい友達なの?


男友達って、そんなに頻繁にお見舞いに行ったりするものなの?



モヤモヤが抑えきれなくなった私は、週末に由香とランチしに行って、このモヤモヤについて話した。



「うーん。確かに、いくら仲が良くても毎日お見舞いには行かないよね」


「でしょう?それに、私がそのことに触れると動揺するんだよね」


「嫁の妊娠中に浮気ってのはよく聞くけど、入院患者相手に浮気はないだろうし……あ、でも」



ふと思いついたように、由香が言葉を切った。



「相手が入院患者とは限らないよね」


「どういうこと?」


「看護師とか、医者かもしれないじゃん」



その発想は無かった。



「まぁでも、相手も仕事中だろうし、この線は薄いか」


「結局、モヤモヤだけ残るんだよね」


「まぁまぁ、もうあと数日で結婚式でしょ?しかも、入籍を急いだのは水野主任なわけだし、浮気ではないと思うよ。

綾はゆったりした気持ちで、式を挙げればいいよ。お腹の子にもよくないし」


「そ……だね」



確かに、母親の私がこんなに不安がってたら、お腹の子にも良くない。


まだまだ安定期まで日があるし、ゆったりした気持ちでいなきゃ。



「ありがと、由香。おかげで少し気持ちが楽になった」


「どういたしまして。お礼は水野主任の友達紹介してくれればいいから」



「あはは、言っておくよ」



私は少し楽になった気持ちで、お茶を飲んだ。



◇◇



結婚式。


割とギリギリになって相手の変わった結婚式だったけど、招待状を出す前だったこともあって、何も知らずにお祝いしてくれる人が多かった。


事情を知ってる人も最初は何も言わなかったけど、二次会になると、さすがに口が軽くなってきて、



「水野主任、放流された直後に確保するとは流石ですよね」


「もういっそ、水野主任がかげて暗躍して別れさせたんじゃない?」



と口に出すようになった。

初めこそ、心配げに私を見ていた武士さんだったけど、私の中で蓮を過去の人として、笑ってやり過ごすことができているのを見て、安心したみたいだった。


武士さんは、もしかするとずっと、蓮の影に怯えていたのかもしれない。



「結婚式に別れた男が乗り込んできて掻っ攫ったりしたら面白かったんだけどなー」


「面白くないし、彼はそんな人じゃないよ」



同僚の冗談に、武士さんは不愉快そうに、はっきりと言った。


ちくり、と何かが心に引っかかる。


彼はそんな人じゃない、ってまるで、蓮のことをよく知ってるみたい。

確かに、蓮は別れたあとも相手の幸せを願うような人だ。

たとえ、自分から振ったのだとしても。


でも、武士さんと蓮は、そんなことがわかるほど、付き合いがあるわけじゃない。私が振られたあの日、店で見かけたくらいだろう。

しかも、あんな振られ方をしたのを見たら、ひどい男だって思っても仕方ないのに。

なんで、庇うようなこと……


「ん?どうかした?」



眉をひそめた私に、武士さんは優しく聞いてくる。



「ううん。ただ、随分蓮のことをかってるんだなって思って」



武士さんが耳朶をこする。



「綾が5年も付き合ってた相手だからね、悪いやつのはずないだろ?」


「うん、そうだね……」



なんで。

なんで動揺してるの?


もしかして、武士さんは、蓮と繋がりがあるのかもしれない。

私の知らないところで。


どうやって知り合ったのかは分からないけど、今も蓮と連絡を取り合っているのかもしれない。

だけど、蓮だって、別れた女の話なんて聞きたくないよね?

それとも、結婚を急いだのは武士さんの意思じゃなくて、蓮にせっつかれたから?


ううん。

それはありえない。


だってあの日。

武士さんが婚姻届を持って帰ってきた日、武士さんは不安でたまらないって顔で帰ってきた。

早く私を手に入れないと、逃げられるとでも言わんばかりに。


じゃあやっぱり、武士さんと蓮が繋がってるってのはないかな。


私はオレンジジュースを飲みながら、そんなことを考えていた。






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