妊娠と動揺
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では、どうぞー!
今、私はトイレでドキドキしている。
最後に生理が来てから2ヶ月。
薬局でこっそり買ってきた判定スティックの結果待ちだ。
2本線なら陽性。
1本なら陰性。
やがて薄っすらと、縦線が現れた。
2本。
妊娠したんだ!
どうしよう。式の前だけど、式まで1ヶ月もないから、体型的には問題ないし、ドレスはそのまま着れるよね。
仕事は妊娠するまで続けるつもりだったけど、既につわりっぽい症状も出てるし、この調子だと式を挙げてすぐに退職することになるかもしれない。
それとも産休を取ったほうがいいのかな。
でも部署移動してすぐに産休取るのも、なんだか心苦しいし。
とりあえず明日、仕事が終わったら午後診を受診しよう。
それから、夜、家に帰ってきた武士さんに、伝えよう。
驚くかな。
迷惑がられたりは……しないよね?
入籍して以来避妊はしていなかったから、子供を望んでくれてたってことだよね?
いろんな考えが、頭の中をグルグル回る。
色々考えているうちに、武士さんが帰ってくる時間になった。
武士さんは、主任になってからますます忙しくなって、帰りも遅い。
私は胃に負担をかけず、かと言ってボリュームも落とさないように食事には気を使っている。
武士さんは唐揚げが好きだから、今夜は唐揚げにしよう。
妊娠判定キットを見えないように袋に入れて、ゴミ箱に捨てた。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい。もうすぐ唐揚げ全部揚げ終わるところだよ。ナイスタイミングだね」
「今日は唐揚げか。すぐ着替えてくる」
武士さんはニコニコの笑顔になって、寝室に着替えに行った。
「今日はなんかいいことあったの?」
武士さんが唐揚げをつまみながら言う。
どうする?
もう言っちゃう?
いや、やっぱりちゃんと病院で診察してもらってからのほうがいいよね。
「特に何もないよ?なんで?」
「いや、機嫌がいいなーと思って」
「たしかに機嫌はいいけど……明日になったら話すね」
その時の私は、翌日何が待ち構えているかなんて、何も想像していなかった。
武士さんと一緒に受診することにしていたら、もしかしたら、何かが変わっていたのかもしれない。
◇◇
翌日、仕事を早めに切り上げて定時で退社すると、そのままA総合病院の婦人科を受診した。
「おめでとうございます。おめでたですよ」
優しそうな女医さんに言われる。
まだ、クリオネ程度の大きさしかないらしいけど、エコー写真ももらった。
少し混んでいたせいか、会計で名前を呼ばれる頃には、2時間が経過していた。
それでもまだ、武士さんが帰宅するまでには充分余裕がある。
会計を終えて帰ろうとした私は、病院に入ってきた人物に目を奪われた。
武士さん……
なんで、武士さんがここにいるのかがわからない。
病気?
でもそれなら、もう外来は受付を終了している。
こちらには全く気が付かない武士さんを目で追っていると、受付で面会者用のストラップを受け取って、エレベーターに乗って行ってしまった。
誰か、入院してるのかな。
仕事帰りによるほど、大切な人?
親戚とか?
ご両親は健在だし、武士さんに兄妹はいない。
まさか、秘密の恋人とかじゃないよね?
妊娠で情緒不安定気味な私は、ネガティブなことしか思い浮かばなかった。
家に帰って何かを作る気にもならなくて、武士さんには申し訳ないけど、スーパーのお惣菜に少し手をかけただけのものを夕食にした。
ちょうど、出来上がった頃に武士さんが帰ってくる。
いつもと同じ時間。
もしかして、いつもお見舞いに行ってるの?
私、何も聞いてない。
モヤモヤしたまま出迎えると、武士さんは心配そうに私の顔を見た。
「顔色が良くないな。大丈夫か?」
「平気。ご飯は、お惣菜にしたけど、ごめんね」
「いや、体調が悪いんなら仕方ないよ」
武士さんは、相変わらず優しい。
秘密の恋人がいるなんて、やっぱり私の勘違いだ。
でも、じゃあ誰のお見舞い?
着替えて食卓に座った武士さんと、食事を始める。
「今日、A総合病院に行ったんだけど」
ピクッと武士さんの肩が震えた。
そのまま、耳朶を擦る。
これは、動揺しているときの武士さんの癖だ。
「誰かのお見舞い?」
「あ……うん。大学の同級生が怪我で入院してて……暇だからって、雑誌なんかの差し入れを頼まれたんだ」
「そうなんだ」
ほんとに、ただの友達?
私の疑問が口に出る前に、武士さんが口を開いた。
「それより、綾はなんで病院に?」
「うん……あのね」
なんとなく気恥ずかしくて言い淀んでいると、武士さんがますます心配そうな顔をした。
「あっ、病気じゃないの。あのね、妊娠、したの」
喜んで、くれるかな……
「やった!」
一瞬の間の後、武士さんはすごく嬉しそうに喜んでくれた。
「産んで、いいんだよね?」
「当たり前だろ?俺達の子だぞ。
そっか。それで最近体調が悪そうだったのか」
武士さんは一人で納得して、スーパーのお惣菜なのにすごくおいしそうに食べている。
「これからも、体調悪いときはお惣菜でいいし、それも辛かったら俺が帰ってきてから作るから」
「うん。ありがと」
武士さんはやっぱり優しい。
やっぱり、武士さんの言うとおり、入院してるのはただの同級生なんだ。
私の気持ちも軽くなった。
このときの私は、武士さんが最初に動揺を見せていたことなんて、すっかり忘れていた。




