挙式を控えているのにフラレました
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彼の言葉が信じられなくて、私は呆然とするしかなかった。
◇◇◇
「……今、なんて?」
「だから、婚約を破棄したいっていったんだ」
何度も同じことを言わせるな、とでもいいたそうに、私の婚約者、京極 蓮は言い捨てた。
「なんで?もう、式場も押さえてあるし、準備は進んでるのよ?あとは、招待状を出して式の細かい打ち合わせをしていくだけなのに」
「綾のそういうところが嫌になったんだよ」
「どういう、こと?」
蓮は、はぁっとため息をついた。
「結婚が決まるなり、どんどん話を進めていって……なんかもう追い詰められてる気がする」
マリッジブルーかよ!
突っ込みたくなるのをぐっとこらてた。
確かに、蓮の時間のあるときは蓮も一緒に、時間のないときは私一人で打ち合わせに行っていた。
レンタルするドレスとタキシードも決まっている。
でもそれは、式の日取りに間にあわせるためには必要なことで……
まさか、女性である自分ではなく、男性の蓮がマリッジブルーになるとは思いもしていなかった。
でも、男性もそれまでの自由な暮らしから急に結婚となると尻込みしたり、式の準備が面倒だから、と急に非協力的になることはあると聞く。
だから、蓮のそれもマリッジブルーだと信じて疑わなかった。
「ごめん。式の準備はまだ余裕があるし、もっと蓮と一緒の時間を作るよ」
でも蓮は、そうじゃないと言うように、首を振った。
「もう、うんざりなんだよ。このまま結婚しても、うまくお互いの妥協点にすり合わせられる自信がない。
悪いけど、うちの親も俺の意思を尊重してくれてるから」
その言葉に、私はショックを受けた。
蓮と付き合って5年。
半同棲のような暮らしをして、たまに蓮の実家に連れて行ってもらったときも、結婚の挨拶に行ったときも、あんなににこやかに迎えてくれたのに。
「とりあえず、式のキャンセル費用は俺が全額持つから、この結婚は、なかったことにしてくれ」
一方的に言われて、私はカフェに置いてけぼりにされた。
何が、悪かったんだろう。
蓮がうんざりするほどのことを、私はしてしまったのだろうか。
そんな、一方的に婚約破棄されるほどのことを、私はしてしまったの?
考えても答えは出なくて、代わりに涙があふれ出した。
◇◇
「大島さん?大丈夫?」
気がつくと、向かいの席に同僚の水野さんが座っていた。
慌てて涙を拭うと、水野さんは優しくその手を止めた。
「たまたま近くの席に座ってたから、話はだいたい聞こえちゃったんだけど」
恥ずかしい。
泣き顔を見られたことだけでも恥ずかしいのに、その理由まで知られてるなんて。
私と蓮は勤務先が違う。
だから、婚約破棄になってもそこまで噂にはならないだろう。
でも、明日にでも会社の上長に報告はしなければいけない。
寿退社の予定はなかったけど、私が長年付き合ってた彼と結婚することは、うちの部署の人間ならみんな知っていることだ。
彼らに、なんて言えばいいんだろう。
急に婚約破棄されました?
理由が全くわからないけど、それしか言いようがない。
「化粧落ちちゃうかもしれないけど」
水野さんが店員さんから温かいおしぼりをもらってくれて、それを目に当てる。
「私、何がいけなかったんでしょうか」
明確な答えを求めてたわけじゃない。
ただ、男性目線からの意見が欲しかっただけだ。
「大島さんは何も悪くないと思うよ。
こんなこと言うのもどうかと思って黙ってたけど、俺、大島さんの彼が他の女の子と仲良さそうに歩いてるとこ、見ちゃったんだよね」
返ってきた答えは、ショッキング過ぎる内容で。
蓮が、浮気していた?
「そんなはず、ない。蓮は……」
「でも、普通の関係には見えなかったよ」
水野さんが追い打ちをかけるように言う。
蓮には姉妹はいないし、きっと、本当に女の子と仲良く歩いてたんだろう。
私の知らない間に、私の知らない人と。
また溢れだす涙を、お絞りを押し当ててこぼれないようにする。
「大島さん。俺は、大島さんのこと、好きだよ。彼みたいに浮気もしない。
だから、このまま俺と結婚しようよ。
ドレス、もう選んでるんでしょ?俺、大島さんのドレス姿見たい」
驚きのあまり、涙が引っ込んだ。