番外編 とある騎士隊長のお話
おそらく誤字、脱字等あるとは思いますが、どうかその寛容な御心でお許しください。
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大上段に構えた剣を振り下ろし、手首を返して流れるように斬り上げる。
俗に燕返しと呼ばれるその剣を軽く躱すと、腰に溜めた剣の鋒を喉元に向け突き上げる。
どうにか反応するも完全にはよけきれず首に一筋の切り傷ができる。
血がツーっと首をつたって流れるのに僅かも気をやらず、乗り出した半身を左上段から袈裟懸けに斬りつける。
右の肩から背中にかけて大きく斬り裂かれた目の前の男はひざを折り力なく崩れ落ちた。
足下にたまった血を見ながらふと首持ちに指をあてる。
赤く染まった中指を見つめ、ふっと息をつくと声をかけて来る男がいた。
「あら、傷が。大丈夫ですか?隊長。」
「俺の心配はいい。他は片付いたのか?」
「はい。けが人こそいますが、死者は一人も出ていません。」
「よし、ならいい。さぁ、後片付けだ!証拠は一つとして取りこぼすなよ!」
ネクタル帝国騎士団4番隊隊長ヴァルトは遠くに見える隊員に向かって声を張り上げた。
ヴァルト率いる4番隊は最近幅を利かせているギャングのアジトへ急襲を仕掛けたところだった。
不幸なことにボスは不在だったらしく、少しでも情報を集めるためにヴァルトは隊員に指示を出した。
しかし、先ほど声をかけてきた男、副隊長のスミスはヴァルトの態度にどこか違和感があった。
「了解です。...ヴァルト隊長、なんか悩みでもあるんですか?」
「ん?いや、なに、そうだな。剣を抜け。」
「え?」
そう言うやいなやヴァルトは腰に収めた剣を抜き放ち、横一文字に振り抜いた。
スミスは後ろに飛び退くと、激しく詰問した。
「どういうつもりですかっ?隊長っ!」
「稽古さ。」
そう短く返すと、一瞬で距離を詰め肩越しに担いだ剣を振り下ろす。
本気だと悟ったスミスは剣を握る手に力を込め、振り下ろした隙を埋めるかのように斬り返す。
そうして2撃、3撃と剣を交えているうちに他の隊員もその異常事態に気づき、周囲がざわめきだす。
しかし当の本人たちは見られていることにも気づかず、ただ己が身に迫る剣をどういなし、そして如何に次の攻撃へと転じるか。ただそのことにのみ注力する。
周りを取り囲む騎士たちは、初めて見る隊長と副隊長の本気の剣戟に唾をのむことすら忘れて魅入っていた。
そうしてどれほどの時間が経っただろうか。真上にあった太陽も気づかぬうちに傾き、空を赤く染めていた。
地面にはお互いの体から流れた血と汗がしみこみ、独特の紋様を描き出していた。
剣は欠け、鎧には無数の剣筋がつけられていた。それでもなお、全身から発せられる闘志はまるで衰えるものではなかった。
しかし、体はとうに悲鳴を上げていた。
低く低く、膝が地面につくほどに屈めた姿勢から跳ね上がるように振り抜いた逆袈裟斬りは、相手の体ごと剣を吹き飛ばした。
思わず膝をつきがっくりとうなだれる。
それを見下ろしているのはスミスであった。
高鳴る心臓を落ち着かせ、肺に十分に空気を入れてから口を開く。
「スミス...。」
「はい。」
「今日から4番隊隊長はお前がやってくれ。」
「はぁ?さっきから何なんですか?まるで意味が分からないんですが。」
「衰えたんだよ。俺は。」
「はぁ。」
「栄えある騎士団の隊長を名乗るにはふさわしくないと思ってな。」
「なるほど。今でも十二分に強いと思いますが引き止めはしませんし、幼いころからの夢だったんです。推薦していただけるのなら引き受けます。でも、隊長は今後どうするんですか?」
「どうすっかな。スミスは何がいいと思う?」
「さぁ?まぁ何でもできるんじゃないですか?それこそ騎士団の新人教育とかどうですか?」
「この歳でやるには少し荷が勝ちすぎるな。」
「ゆっくり考えればいいじゃないですか。時間はできるわけだし。」
「そうだな。俺は先に帝都に戻って団長に伝えておく。後始末は頼んだぞ。」
ヴァルトは腰を上げると、剣を拾い上げ馬を連れてくるように近くの隊員に告げる。
隊員から受け取った剣を鞘に納めると、馬をつないだ場所に足を進めた。
「隊長!こちらを。」
「おう、すまんな。」
隊員から手綱を受け取ると、馬にはまたがらず手綱を握ったまま帝都に向かって歩き始めた。
特に何かを考えていたわけではなかった。ただ思い出していた。
賊との死合い、そしてそのあとのスミスとの仕合いを。
気付けばもう夜になっていた。視線を上にあげるまで一切気が付かなかった。
思わず大きなため息をついてしまう。
頭を少し振って気を取り直し、腰の剣を抜いてみる。
月の光をキラキラと反射するその件には欠けや傷跡が数多くついていた。
どうしてだろうか。ついさっきまで握っていたはずなのにどこか小さく感じるのは。
色々な角度から見たり、軽く振ってみるが答えは出なかった。
考えるのをあきらめて馬にまたがり帝都へと急ぐことにする。
帝都に着いたのは翌日の朝を過ぎたころ、宿屋で休憩でも取ろうかとも考えたが諸々の用事を終わらせてからのほうが良かろうと思い、騎士団帝都本部へと向かった。
騎士団本部は、入団と退団、部隊の編制、任務の割り振り、予算管理などの事務作業から、新人育成、武器防具の手入れ、一部魔法の研究など直接戦闘に関係する業務を執り行っている。
その内部は実に質素で一番豪勢にできていると言われる受付でさえ、少しお高めな食事処のほうがましだと揶揄される始末である。
というのも、この国において騎士とは自らの名誉と矜持、そして皇帝への忠誠心のためになるものであり、その建物自体には価値はないという考え方が一般的であるためだ。
そのため、本部の質素さに対して、隊長の中には豪華絢爛な鎧を着用しているものもいる。
ちなみにヴァルトはおしゃれとかよくわからんというタイプなのでめちゃくちゃシンプルな軽鎧を身に着けている。
ヴァルトは受付にまっすぐ進むと、騎士団長の居場所について尋ねた。
受付嬢によるとどうやら団長室にいるらしいので、階段を上り団長室へと向かうことにした。
団長室は本部の最上階、7階にある。
団長室の扉をノックし名を名乗ると短く「入れ。」とだけ返事があった。
扉を押し開けると、そこには普段と変わらない険しい表情でこちらを睨む団長の姿が。
「何の用だ?」
「実は、4番隊隊長の座を降りようかと思いまして。」
「そうか。」
そう返すと団長は手元にあったペーパーナイフをいきなり投げつけてきた。
ギィンッという金属音とともにペーパーナイフは壁に突き刺さり、ヴァルトの頬には一筋の切り傷ができた。
「衰えたな、ヴァルトよ。」
「えぇ。」
「退役の件、了承した。後任は決めているのか?」
「副隊長のスミスに任せようかと。」
「わかった。諸々の処理はこちらでやっておく。」
「ありがとうございます。」
ヴァルトは深々と頭を下げる。
少しの間、静寂が訪れる。
ヴァルトが頭を上げると、沈黙を破り団長が口を開いた。
「だがヴァルトよ。長く騎士団にいたお前をこのまま野放しにすることはできない。わかるな?」
「はい。」
「そこでだ、こんなものがある。」
団長は机の中から紙を一枚取り出し、ヴァルトに手渡した。
そこには、騎士学校教員募集の文字が。
「これは?」
「騎士学校が今人手不足だってのは知ってるな?いつだったかお前も試験に駆り出されていた。」
「えぇ、そんなこともありましたね。」
「まぁあれは、ゴネリルの息子を見極めるというのが本心だったわけだが人手不足に変わりはない。そこで、ヴァルトには教員をやってもらう。いいえは無しだ。」
「わかりました。」
「では来年度から頼むぞ。」
こうして20年以上を騎士団にささげたヴァルト・ウィンストンは騎士学校の教師となる。
ですが、ユージーンとヴァルトが再開するのはもう少し先のお話。
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