第9話 入学試験 後編
「えーと、ユージーン君だね。あぁ、ゴネリル殿のご子息なのか。さぁ、君はどんな魔法を使うんだ?」
「えっと、あの、その、身体強化しか使えなくて...」
「ん?」
「その、まともに使える魔法が身体強化しかなくて」
「え、身体強化以外全部だめなの?」
「発動はできるんですが、ちょっとしか飛ばなくて...」
「ちょっと?一回見せてもらってもいい?」
「わかりました。あいうえお、よし、“火球”!」
俺の詠唱と同時に召喚されたちっちゃい火の玉はひょろひょろっと進むと、50センチくらい進んだところで唐突に消滅した。
「こんな感じです」
「なに、これ?」
「僕にもわかりません」
「でも、身体強化はできるんだよね?」
「そっちならいけます。」
「わかった。こっちはいったん保留にして上に掛け合ってくるから君は戦闘実習のほう行っておいで」
「はい。」
「許可してくれるといいんですが」
「まぁ、ここは騎士学校なので最悪剣の腕さえよければある程度のクラスには入れますよ」
「そっかぁ」
指定されたグラウンドにやってきた。
「おぉ!君がユージーン君か!話は聞いてるよぉ!」
「あ、ほんとですか?よかった...」
「どうやら、身体強化の達人なんだろう?お手柔らかに頼むよ」
「え!?どこからそんなこと聞きました!?」
「なんか、放出系の魔法はからっきしだが身体強化は超一流なんだろう?戦闘実習の成績の一部を魔法実習の成績に組み込んでくれって言われたよ。あ、バスターソードでいい?」
「大丈夫です。じゃなくて僕は身体強化も...」
「問答無用!」
試験官と思しきおっさんが左腰に剣を構えながら突進してくる。おそらく腰から横に薙ぎ払うんだろう。おっさんが剣を抜くのに合わせ、おっさんごと飛び越え背後に回り、逆袈裟に斬る。が、おっさんもなかなかの手練れらしく、振り返りながら剣を合わせてくる。間髪入れず斬り上げと突きを出すも、軽くいなされる。体勢を崩したところを、剣を大上段から振り下ろしてくる。親父殿や、じじぃに比べれば遅い剣だが、見えるのと受けれるのは別で、慌ててその場から転がって退避する。膝をついて起き上がろうとしているところをおっさんが薙ぎ払おうとするので、どうにか後ろに飛びのき、回避する。
「親父さんにしっかり鍛えられてるみたいだな!」
「月2回だけですけどねっ!」
そういうと俺はおっさんの少し右に向かって走り出した。いぶかしむおっさんをしり目に俺は空中を踏みしめおっさんに向かって上段から振り下ろした。
これはじじぃに教えてもらっ魔法の一つで、俺の名前の由来になった霆王がよく使っていたらしい。これは空間を部分的に固定し、そこを足場にすることで相手に先読みをさせず奇襲を仕掛けることが可能になるという優れものらしい。霆王は超すごいのであらかじめあちこちを固定したり対象の周りの空間を固定して動けなくしてたらしいが、俺は半径50センチ以上先に魔法が届かないため直前で空間を固定している。
おっさんはどうにか剣を割り込ませてはいたが勢いは殺せなかったようで、額から血を流していた。
これならいけると確信を得た俺は、ヒット&アウェイに徹し、おっさんに体力と魔力の続く限り攻撃を続ける。はずだった。
「かあぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!」
おっさんが大声を上げるのと同時にすさまじい風が吹き荒れ、俺はわけもわからないまま吹き飛ばされた。体をおこした時にはおっさんが笑顔で俺の首元に剣を突き付けているところだった。
「さすがは、あいつの息子。俺に本気を出させるとはなかなかやるな!」
「あ、ありがとうござい...」
「ただ一つ気になることがある。お前あの術をどこで知った?」
「あの術...?」
「とぼけるな、空気を固定する魔法だよ。あれはうちの国の禁術に指定されてて1部の者しか知らないはずだが?」
「な、なんのことでしょう?」
「あくまで、白を切るか。それもいいだろう。よく考えてしゃべれよ?お前のやったことは今すぐ軍法会議にかけられてもおかしくないレベルのことだからな?」
「え、えっと...」
おい、軍法会議ってマジかよ...。どうするあの能力のこと言うか?ただ証明のしようがないよな。いろいろ試した感じあそこには生物は連れていけないし、何か適当なこと言ってるって思われたら即軍法会議にかけられるよな。どうするどうするどうする......。
(普通に思いついたって言えばいいんじゃ)
あー、最悪だ。焦りすぎてあたまのなかに、イマジナリージジィが現れた。しかもなんだよ思いついたってそんなの通るわけないだろ。
(いや、まじで、思いついたで行けるからの。だまされたと思って言ってみるんじゃ)
うーわ、このイマジナリージジィ全然引いてくんないよ。わけわかんねぇだろ思いついたって。俺はまったくもって頭いいほうではないが、そんな俺でもダメだってわかるぞ。
「沈黙が答えでいいんだな?」
うーわ、やばいやばい。どうしよ、これマジでどうしよ。信じるか?イマジナリージジィのこと。えぇいままよっ!
「いや、その、ふと思いついて。なんか、壁とか作れたら強いんじゃねえかって。ただ、急にまじめなトーンになるから、焦ってちょっとわからないふりとかしただけで、本当に禁術だって知ってたわけではないんです...」
頼む!信じてくれ!禁術だって知らなかったのはマジだし!
「ふむ、ゴネリルの息子ならあるいは、か?よし、今日のところは帰っていいぞ。多分数日中に軍の使いがお前の家に行くと思うから」
「はい、ありがとうございました。」
これは、どっちだ!?アウトか?セーフか?
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