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楽園の雑用係  作者: 星雷はやと
第1章 ネコと猫とおネこ様と。
9/11

第8話 おネこ様


「……あ、居た」



 蛍光灯を右手に持ちながら、廃工場内を歩いていると広い空間に出た。そこは倉庫のようで、明り取りの窓から光りが降り注ぎ、中央に居る『異なる者』を照らしている。

 不要になった蛍光灯と手放すと、それは俺が来た道を漂いながら戻って行った。ショウメイの下に戻る。それを横目で見送ると、視線を正面に戻す。


「ちゅーる感覚なのか?」


 路面バス一台ぐらいの大きな白い体に、左右から手足が四本ずつ生え巨体を支えている。後方には体と同じ長さの尾が生え、鋭い棘が光を放つ。それの顔は人の顔をしている。

 普通の人間と唯一違う点と言えば、口から筒状の触手が生えていることだろう。此処は奴の巣なのか、薄茶色の紙が至る所に敷き詰められている。


 目の前の『異なる者』は葬儀場から盗んできた遺体を両手で握り、その筒状の触手を遺体の口に挿入している。触手はストローと、口の機能を果たしているようだ。吸い上げる音と共に、巨体の喉が動き、両手の中の遺体はみるみるうちにしぼんでいく。

 黒猫の案内を合わせ、目の前の『異なる者』が『おネこ様』であることは間違いないだろう。


 人間の遺体をちゅーる感覚で吸う、『異なる者』を見上げる。


「早く終わらせよう」


 ズボンのポケットから、スマホを取り出した。それと同時に『おネこ様』は遺体から全てを吸い上げると、俺を見た。


「……っ!?」


 不味いと思った瞬間には、体を大きな両手で挟み込まれていた。スマホは床に落ち、救援を要請することは出来ない。不幸中の幸いは、左腕だけが捉えられなかったことだけである。


『?*#$5&??』

「あ? 日本語喋れよ」


 『異なる者』は俺を持ち上げたまま、顔を覗き込み何か呟く。意味のない奇声に近い。意思疎通が可能なら、こんなに苦労はしない。『異なる者』は面倒な奴ばかりだ。俺は鋭く睨む。


『&‘8“!!”*$%#!!!!』

「うっぐっ! このっ……」


 俺の反応に対して奇声を上げると、巨大な手で俺を握りつぶそうと力が加えられる。あまりの圧に骨が軋み、息が詰まる。確か担当者の話によれば、内蔵の腐敗具合がクラゲの味に似ているらしい。担当者の言葉を信じるならば、遺体しか食さない筈だ。


 しかしそれなら、何故俺に襲い掛かってくる?巣に侵入したからか?


『$5#&‘#“!!』

「ちっ……生け捕りだからって調子に乗るな……」


 両手の力をそのままに、『おネこ様』は口の触手を俺の左手に巻き付けた。腕を砕く勢いで強く締め付けられる。俺は仕事に命を掛けるタイプの人間ではない。この仕事をしているのは、金払いがいいからの一点だけだ。金と己の命が大切かと問われば、当然後者だ。


『苦しそうですね、真尋。助けて差し上げましょうか?』


 白い羽根が視界の端で揺れたかと思うと、頭上にショウメイが現れた。


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