第7話 廃工場
「廃工場だな」
『真尋! こういう時は、十中八九ここにヤバイ奴が居ますよ! 私、テレビで観ました!』
黒猫に導かれ、廃工場に辿り着いた。入れる場所がないか観察する俺とは対照的に、ショウメイは興奮したように言葉を放つ。羽毛が舞い鬱陶しいことこの上ない。
「奇遇だな。ヤバイ奴なら、今正に俺の隣に居るのが?」
『はっ! この猫のことですね! 大丈夫ですよ、真尋。貴方のことは私が守って差し上げます!』
「嫌だ。無理。余計なお世話」
『酷いです! 私はこんなにも真尋のことを心配しているというのに!』
事実を言えば、芝居がかった口調で胡散臭い台詞を放つショウメイ。笑顔もその言葉も、こいつは昔から信用出来る要素が一つもない。
「喚くな。さっさと、その蛍光灯を渡せ」
『なっ! これは蛍光灯ではありません! 天使の輪と言い……あっ!』
中に入れそうな扉を見付けた。中を確認すると、塗りつぶしたような暗闇が広がっている。ショウメイが珍しく役立つ機会だが奴が渋った為、それを強奪した。『自称天使』の迷惑ストーカー野郎だが、唯一の利点がある。
それはショウメイの頭上に輝く円形の蛍光灯だ。昼間の野外では眩しく鬱陶しいのだが、屋内や暗闇では良い照明になる。奴の呼び名はそれに由来する。
『雑用係』は諸経費を申請すれば補填金が支払われるが、懐中電灯を購入する気にはならない。照明があるのだ、それを利用するに限る。但しそれは蛍光灯部分に限り、喧しい部分は不必要だ。
「時は金なりだ。こうしている間にも逃げられる可能性がある。お前はつい来るな」
『……うぅ、分かりました。気を付けてくださいね、真尋』
俺はショウメイの頭上から強奪した蛍光灯を右手に持つと、ショウメイを放置し扉を潜った。これ以上の面倒事は御免被る。
「お兄ちゃん。宇美ちゃんを助けてくれて、ありがとう」
「……?」
声変わりをする前の少年のような声が背後から響いた。
確認をする為に振り向いたが、誰も居なかった。