第5話 追加依頼
「本当に……うっ……」
男性が話している途中で横に倒れた。それを支えたのは、白い毛の腕だった。
「失礼致します。大変お待たせしてしまい申し訳ございません。国上真守様、天使様。リコでございます」
「やあ、リコさん。あれ、今日はネコ?」
一体の白いネコの着ぐるみが現れた。俺の担当者だ。アミューズメントパークのキャラクターのような可愛らしい外見に反して、紡がれた無機質な声がアンバランスである。今日はネコの着ぐるみ型の、認識阻害防護服を纏っている。
『異なる者』やそれに関係する物には、認識をすることもされることも危険を伴う。それらから身を守る為に、認識阻害防護服を着用しているのだ。
俺は立ち上がり挨拶を交わす。
「はい。この格好は今回の事件に対して、最大限に認識阻害の効果をもたらします」
「じゃあ……ネコ関連ってことかな? でも、もうクラゲは終わったけど?」
声に温度は感じられないが、胸を張る仕草をする担当者に気に入っていることがわかる。『ネコ』が関係していることは、情報収集の際には知らされていない。何の関連があるかわ分からないが、今回の件は解決したと言える。俺は首を傾げた。
「その件につきましては、『魚の子』の二人の窮地を救って頂きまして誠にありがとうございます。報酬の方は既に振込み済みです。しかし、この些細な出来事は『今回の事件』を、きっかけに起きた偶発的なものです。本題は車の中で説明させていただきます」
「今日は……」
これから根本的な事件の解決を迫られる。『雑用係』も楽ではない。今日の働きと稼ぎは十分だ。俺以外にも対応することが出来る者は、沢山いるだろう。断わる為に、口を動かした。
「金額はこれぐらいでいかがでしょうか?」
「よし、行こう!」
担当者は器用にスマホを持つと、報酬金額を提示した。破格の値段に俺は即答する。金は幾らあっても困るものではない。岸に止まっている車へと向かうことに決める。
何時の間にか現れた担当者の部下であるネコの着ぐるみ隊が、強制的に眠らされた男性と少女が搬送していく。
この二人は、今回の騒動を直ぐに忘れるだろう。いや、正確には忘れさせられると言った方が正しい。
だが、俺には関係のない話だ。