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楽園の雑用係  作者: 星雷はやと
第1章 ネコと猫とおネこ様と。
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第3話 『異なる者』


『真尋、アレじゃないですか?』

「あ? 嗚呼、本当だ。居るな」


 不意にショウメイが俺の隣に来ると、白い手袋で覆われた指で桟橋の先を指差した。そこには空中に大人用の傘と同じ大きさの透明なクラゲが宙に浮いている。中央の口腕部分は人間の腕の形を成し、その長細い手が少女を囲み掴んでいた。


『異なる者』だ。


 この世には『異なる者』というものが存在する。姿形が常軌を逸している者、姿は普通でも思考や思想が狂っている者、無垢に純粋に災害級に残酷な者。例をあげればキリがない。極めて分かりやすい例ならば『自称天使』のショウメイがそれだ。それらを見聞き出来る者も居れば、出来ない者も居る。

 俺は前者に当たり、気が付いたのは幼少期だ。家族や周囲の人間には認識出来ないことを知ると、自分に害が及ぶ者だけ排除し他は全て無視をして過ごしてきた。


『助けないのですか?』

「いや、さっきの断りのメール送っていた」


 少女に意識はなく、力なくクラゲに抱かれている。ゆらゆらと揺れるクラゲはまるで、子どもをあやす母親のようだ。だがショウメイの言葉から、この『異なる者』に危険性があることが分かる。

 件の水難事故の原因である可能性も十分にあるが、スマホが振動したことにより画面を確認する。すると、この仕事を拒否することを了承するメールが届いた。先程、仕事を断わる内容のメールを作成していたが、誤って送信してしまったようだ。


『あらあら、では帰りましょうか。ただ働きは嫌いでしょう?』

「そうだな」


 ショウメイは自ら危険性を指摘したにも関わらず、微笑むと帰宅することを提案する。俺は同じ意見な為、頷く。元々の仕事は情報収集であった上に、仕事を断った。金が発生しないのに、助ける義理も人情も持ち合わせてはいない。無駄な労働はしないに限る。

 万が一にでも感情を起点として、この仕事を行えば忙殺されることは必至だ。『異なる者』に関して、お人好しほど損をする世界である。


「宇美!? 如何した!?」


 桟橋の先に居る少女へと、懸命に杖をつき近付く年配の男性。口調からして、彼には『異なる者』が視えていないようだ。よって孫が空中に浮いているように見えていることだろう。


「一応、記録として撮っておくか。売れるかもしれない」


 俺はスマホを構え、動画を撮る。『異なる者』は情報が少なく神出鬼没な場合、少しの情報でも高く売れるのだ。ここまでの交通費は仕事を断ったが出るが、浪費した時間は戻ってこない。せめて金になるものを手に入れないと気が収まらないのだ。


「まあ、こんなものでいいか」


 『異なる者』を数秒撮影した動画をメールに添付し、担当者へと送る。件名は【換金要請】とした。幾らになるか、わくわくしながらスマホの画面を切り替える。


「やめろ! 宇美に、何をする気だ!」


 男性の怒声が響く。彼は『異なる者』から孫を取り返す気でいるらしい。しかしそれは軽率な行動だ。現に少女はクラゲの腕に掴まれて気絶をしている。精神的か肉体的に麻痺を起こすことが出来る相手だ。接近せず、長距離からの攻撃が望ましい。

 そもそも接敵する相手の情報が無い時点で、か弱き人間に成す術などないのだ。だが彼は幸か不幸か、『異なる者』の姿が視えていない。何も知らぬ間に、クラゲの餌食になることだろう。


「……え? まじか!」

『真尋!?』


 スマホが再度振動し幾らの高値が付いたか、心を躍らせながら指をスライドさせる。しかしメールの文面は予想外の内容であった。二人の救助と『異なる者』を退ける内容が書かれている。提示された金額は当初の五倍だ。金が出るならば動かないわけにはいかない。


 俺は勢い良く地面を蹴った。

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