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黄昏に染まるその陰で  作者: 三当香季
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第2部 ACT3の6 少年の日

 子供のころ、その毎日のほとんどを一緒に過ごした男の子がいる。

その人は、 大野圭介 くん。

推理ものやミステリーが好きな子で、よく一緒にアニメなんかを見たりした。

私が引っ越すことになったときに、その子がくれたのがこのオルゴールだった。

 私はそのオルゴールの音色がなぜか好きで、よく催促しては聴かせてもらっていた。

そして、

「宝物だけど、お前にやるよ。大事にしろよな」

 と、自分の宝物だと言いながらも私にくれた品なのだった。

 もちろん、私は「宝物なんて貰えないよ」って断ったよ。だけど、半ば強引に、押し付けられるように渡されちゃって、それから私のものになった。


 そのオルゴールをくれた幼馴染の 圭介君 が夢に出てきたってわけ。

夢の中の圭介君は、ただ私を見つめてるだけだった。

何も言わずにただ私の方を見ているの。そして、何かを伝えたそうにしているような感じがした。

たから私は彼に訊ねた。

何を言いたいの?

なぜ黙っているの?

でも、彼は何も言わないでただただこっちを見ているだけ。

その表情は、優しく微笑んでいるようにも見えるし、悲しそうにしているようにも見えた。

なんとも言えない表情を浮かべて黙って私を見ている。

ただそれだけの夢だった。


 なにかを伝えようとしていた夢の中の 圭介君。

事故現場で聞いた「残り四回だな」の声。

包丁を握りしめたあの夜に聞いた「今回は早いんだな」の声。

そして、変な声を聞く前に聴こえたオルゴールの音は、 圭介君 から貰ったものと同じものだとわかった。音色まで一緒かどうかは分からないけど、たぶん曲は同じ。音色もたぶん同じかな?とは思うんだけど、オルゴールの音ってだいたい同じようなもんじゃないのかなあ?音色については同じだとは断定できません。


 妙な声の件とオルゴールの件、そして、 圭介君 が夢に出てきた件のおかげで、もう頭の中はモヤモヤするばかり。暇さえあればそのことを思い出して、答えのない問題で悩む日が続くようになってしまった。


 モヤモヤな毎日を過ごすようになった私は、ある日、「世にも不思議な世界」というテレビ番組を目にする。

 「世にも不思議な世界」という何の奇もてらっていないタイトルのそれは、世界の不思議なお話を紹介するというタイトルそのまんまの内容だった。そして、その中の話の一つに「前世の記憶を持つ少年」というものがあった。


「前世の記憶を持つ少年」

海外のとある町に住む少年 ステファン・プラスト 。

 彼は幼いころから、家族や周囲の人たちに妙な話をする子供だった。

時にはある人物の話。時にはある店の話。また時にはとある街の話。そのどれもが誰のことなのか、どこのことなのか全くわからない話だったので、皆はそれを ステファン の作り話だと思って軽く流して聞いていた。

 初めのころは、

「想像力豊かな子で、空想の街を思い浮かべて話をしているのだろう」

 などと思われていたが、年月が経つと、次第に

「作り話ばかりしている気味の悪い男の子」

 と言い始める輩も出てくる。

 そうなってくると両親は、

「そんな話ばかりしてると”ホラ吹き”呼ばわりされるようになるからもう止めなさい」

 と ステファン を注意するようになった。

 しかし、彼が”空想の街とその住民たちの暮らしの話”を止めることはなかった。

「また作り話かよ」

 と毛嫌いする人もいたが、ごく一部の人たちは耳を傾けてくれていた。

その中の一人に、 ステファン の従兄の イエフ がいた。

 彼は、 ステファン の話があまりにも具体的だということに興味を持ち始め、

「もしかしたら、彼が話す街は本当に実在するのかも」

 と思うようになっていった。


 そこで イエフ は ステファン の話を記録して纏めあげると、それを基にインターネットで検索することにした。

ステファン の話には、街の名前、通りの名前、店の名前、人の名前がはっきりと登場していたのだが、そのどれもが自分たちの住んでいる町、はたまた国内でも見つからなかった。

 そこで、外国の情報にも手を伸ばして調べることにしたのだが、これがなかなか大変な作業だった。

外国語は翻訳アプリを使って何とかなると思って始めてみたものの、翻訳アプリの精度が割と怪しい時代だったこともあって想像以上に作業は難航した。

 しかし、苦難を乗り越えて、ついに イエフ は ステファン の話に当てはまる点がいくつもある街を探し当てることに成功した。

ステファン の両親にそのことを伝えると、

「そんなばかばかしい話があるものか。お前までどうにかしちまったのか」

 と、最初はまともに聞き入れてもらえなかった。

 しかし、根気強く説得を続け、 ステファン の話を纏めたメモと、インターネットを使って探し出した街の情報を照らし合わせて見せたところ、両親も少しは理解し始めた。

 ステファン が、インターネットの映像を見ながら、さらにこと細かにその街の説明をし始めたものだから、その場にいた人たちはもはや”空想の話”で片づけられなくなってしまった。


 ステファン の両親は、

「家族全員がこの国から出たことがない。そんな外国の街のことを知っているはずもないし、その街の情報を知っているような人とも接触した可能性はゼロだと思う」

 と語った。

親族である イエフ もそれは間違いないと思った。

 ステファン 自身も、

「誰かからその街のことを聞いたとか、テレビで見たとかではなく、なぜか知っていたんだ」

 と話していて、自分の記憶していた街が本当に実在していることに興奮さえ覚えているようだった。


 その街は、名所と呼ばれるような観光地があるわけでもなく、その街出身の有名人がいるわけでもなかったので、まったく無名の街だった。

 他国のテレビ番組や書籍の類には、取り上げられたことはほぼないだろう。自国のメディアにさえ、ほとんど取り上げられることの無い、本当に目立たったことのない街だった。

 つまり、他国の人間がその街のことを知ろうと思ったら、その国の言語を理解したうえで、インターネット検索でその国のサイトを見つけ出し、わずかばかりのその街の存在(情報)に辿り着かなければ知りようのない街だと言えた。

なにせ、その国のガイドブックにさえ、載っていないような街なのだから。


 「ステファン の話していたことは事実だった」

 という話は、次第に拡散されていき、 ステファン の周りでは、

「変な作り話をする子」

 から

「行ったこともない街のことを覚えている変わった子」

 へと評価は変わっていった。

 そうして、その噂はSNSなどでにも書き込まれるなどしていって、やがて彼の地元メディアの目にも留まるようになる。

 そうなるともう雪崩式(雪だるま式?)のようなもので、地方紙から全国紙へ発展。タブロイド紙まで取り上げるようになって、ついにはテレビ局の取材も来るようになる。

 テレビ番組で取り上げられた際には、脳科学の専門家や占い師などが呼ばれたりして、ときには専門的に、ときにはオカルティックに、 ステファン のことが分析されていった。


 そして、『その記憶の街に ステファン を連れて行ってみよう』という企画が立ち上がる。彼とその家族には、テレビ局から” ステファン の記憶と一致する街”への旅行がプレゼントされた。

 実際にその街の土を踏んだ ステファン は、初めて訪れた街だというのに家族とテレビスタッフを相手に街案内(道案内)してみせた。

 しかし、ときおり ステファン は困った表情を見せることもあった。 イエフ が自分で纏めた資料と照らし合わせてみると、 ステファン に迷いが生じている場所は ステファン が話していた情報と誤差がある場所だということが分かった。

彼の記憶の中の街が、そのままそこに存在しているわけではなく、店や民家などの建物の多くが別の建物だったり、店の店員や住民の名前が一致しないところも多かった。

 ステファン の記憶と一致していた店や家の所有者たちはみな、 ステファン のことを「見たことのない少年だ」と語った。

でも、 ステファン は、

「記憶の中にある人と違うけど、雰囲気が似ている人もいる」

 と、記憶の中の人物の名前を挙げると、それを聞いた街の人たちは驚きの表情を浮かべた。ステファン が語ったその名は、自分たちの祖父や祖母といった先祖たちの名だったのだ。

 調べてみると、 ステファン の記憶の中にある人物たちの名前は、そのほとんどが今から2世代以上前の人たちのものだった。

 そして、彼の記憶の中の街も昔の姿であることが分かった。

 つまり、彼のその街の記憶というのが、50年以上前の街の情報だったのである。


 その番組が制作・放送されたことで、この話は一気に世界へと拡散。各国のテレビ番組が取り上げられることになった。

 そういった経緯で、「世にも不思議な世界」という番組でも ステファン の話が取り上げられ、それを私も目にしたのであった。

 番組には、霊能者と呼ばれる人がスタジオ出演していて、

「ステファン ちゃんは前世の記憶を持ったまま生まれ育った珍しい人。彼は前世でその街に住んでいたのだから、その街のことを知っていて当たり前。多くの人は生まれた直後は前世の記憶をまだ覚えているんだけど、新しい経験をして新しい記憶が刻まれると同時に前世の記憶は消されて行くもの。

 そして、言葉を話すぐらいになると、ほとんどの人は完全に前世の記憶を忘れてしまうものなの。でも、彼はそうならなかったという大変に珍しい人。

彼のように前世の記憶を幼少期まで覚えている人は稀にいるが、そういった人たちも思春期前ぐらいになると、自ら否定して記憶の隅に追いやってしまうケースが多いのよ。

ステファン ちゃんの場合、彼は前世でその街のことがよっぽど好きだったんじゃないかしら。もしかしたら、その街から絶対に離れたくないぐらいに強い思いを持っていたのかもしれない。だから、魂に強くその街のことが刻まれたのよ」

 と語った。


-前世の記憶-


 私はその言葉が引っかかった。


- 圭介 君と推理もののアニメを見ていた時に”先読み”できちゃったのって、もしかしたら”それ”なんじゃないの?-


 と、思ってしまった。


-私の前世が推理ものが好きな人で、その人が読んだり見たりした物語の記憶が残っているのかも?-


 そんな風にも思ってしまった。


 「世にも不思議な世界」という番組の「前世の記憶を持つ少年」の話を見た次の日から、私は自分の説を立証するべく、動くことにした。

 書店や図書館に行って、片っ端から推理ものとミステリーものの作品を中心にいろんな書籍を手に取り、その中から”先読み”できるものリストを作ることにした。

 すると、思ったよりヒットする作品はなくて、

-やっぱり思い過ごしか・・・-

と、少しめげそうになったけど、

-前世の人はそんなに読書好きではなかったのかもしれない-

と、とりあえず自分の直感を信じて、続けて行ったら、

 数は少ないものの、何冊か”先読み”できた本に出会えた。

その何冊かは、ジャンルで言うと、推理・ミステリーだけだったので、これで

-”先読み”できるのは、推理・ミステリーものだけ-

ということがはっきりさせられた。

 そして、”先読み”できた作品の一番手は、やはりというか、 圭介 君と一緒に見ていたアニメの原作漫画だった。

作品群の中盤ぐらいのものについては、ほぼ全ての回で”先読み”できた。中には、

「これは自分で見たときの記憶が残っているだけかもしれない」

という回もあったんだけど。


 ただ、それでまた新たな疑問が出てきたの。

”先読み”できる作品って、全部がそんなに古い作品じゃないのよね。

 前世の人はアニメじゃなく、原作漫画を読んでストーリーを記憶したんだとしても、アニメ化されたのだってそんなに年数は経っていないのよね。となると、前世の人が存在した年代と今の私はほぼ同時期に存在していることになってしまう。


-生まれ変わる余裕なくない?-


そういう疑問が湧いてきた。


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