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黄昏に染まるその陰で  作者: 三当香季
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第2部 ACT3の5 与えられる者

 介護福祉士試験の実技失敗で不合格となった母を励まそうと、母の勤める施設の人たちが残念会(という名のていのいい飲み会)を開いてくれたることになった。

 母の仕事仲間のうちの数人(女性のみ)は、我が家に何度か遊びに来たことがあったので、その人たちとは私も面識があった。

「せっかくだから、ひなちゃんもおいでよ」

 とお誘いを受けたので、参加することにした。

かくして、母の

「介護福祉士実技試験 大チョンボで不合格 残念記念 来年は絶対に合格するぞパーティー」

が盛大にこじんまりと開催されることになったのでありました。

 数年前までは、母のためにこんな会を開いてくれる人たちができるだなんて想像もしえないようなこと。

それだけでも胸いっぱい。「もしかして、今、幸せなんじゃないか?」なんて思えちゃったりもした。


 楽しく開かれた残念会。母の仕事仲間の人たちはみんな楽しい人ばかりで、とても盛り上がった。(日ごろのストレス発散の場にもなっていたと思うんだけどね)

 宴もたけなわの内にお開きとなり、2次会の会場へと向かうために店を出ると、通りの向こう側にかすかに見える大通りの方で何やら大騒ぎになっているようだった。

大通りの方へとみんなで向かっていくと、交差点の手前辺りから人だかりになっていて、その奥では叫び声や怒鳴り声が飛び交っていた。

 残念会ご一行様2次会参加チームも、皆少し早足になって野次馬の中に入っていく。

「大丈夫かなあ。あんなんなってるけど爆発とかしない?」

「あっちの歩道にも車が乗り上げてるね」

 周りの野次馬さんたちがそんなことを話しているのが耳に入ってくる。

野次馬の一部に同化した私たちが目にしたものは、交差点の信号機の柱にめり込んでいる車とその周りに人が倒れている状況であった。

交差点の反対側にも車が一台歩道に乗り上げていて、こちらもその周りに人が数人倒れている。

-交通事故だ-

「救急車まだかよ」

「誰かお医者さんいませんか」

 などという大声も飛び交っている。

 しばらくすると、警察官が何人か現れて交通整理や野次馬の整理をし始めた。

残念会ご一行様2次会参加チームが紛れていた野次馬の塊にも警察官からの規制が入り、ばらけ始めたあたりでサイレンの音が聞こえ始めた。

そこで私は、何か他の音が聞こえたような気がした。

-オルゴール?-

それは自分が持っているオルゴールの音のようだった。

-これって・・・

 まるであの時みたい-

そう思ったとき、

「残り四回だな」

 そんな言葉が聞こえた。かすかに。

その声は聞いたことのあるものだった。

男とも女とも、どっちにもとれるようなそんな声。

そう、あの夜に聞いた声と同じだった。

「今回は早かったな」

 私はつぶやいた。そして、

「・・・残り・・・四回・・・だな」

 今聞いた声を復唱した。

あの夜と同じように、

-忘れてはいけない-

なぜかそう思ったから。

 ボソボソとつぶやきながら人の波に乗って歩いていると、私の手をあの夜と同じように冷たいものが包んだ。それはあの夜と同じ手だった。

「大丈夫?」

 母が私の手を引きながら、心配そうな顔で覗き込んでいる。

「あ、うん。大丈夫。なんかびっくりしちゃって」

 そう答えつつ、私はあの声のことを考えていた。

事故現場は一層慌ただしさを増している。


 さっき聞こえたのは、

「残り四回だな」

あの夜に聞こえたのは、

「今回は早いんだな」

二つの声は同じものだと思った。誰の声なのかわからないのも同じ。

あの夜、あの場にいたのは、私と母と母が連れてきた男の三人だけ。でも、その誰の声でもなかった。

今回は・・・

「ねえ、ひなちゃん、大丈夫?」

 そこで、母の残念会ご一行様のうちの一人が、私に話しかけてきた。

「本当よ。なんかぼーっとしちゃって。大丈夫?事故見て気持ち悪くなったんじゃないの?」

 母は、握っていた私の手を離しながら「2次会やめとく?」と眉を八の字にする。

私は、できる限りの笑顔を作って、

「あ、うん。大丈夫。ちょっと考えごとしてただけだから」

 と答えた。

そして、返ってくる答えは想像できたけど、一応、聞いてみた。

「ねえ、さっきさあ、事故見てた時、なんか変な声聞こえなかった?」

 母と私の近くにいた”残念会ご一行様2次会参加チーム”のうちの数人が、パッと私の方に顔を向けた。

「なにそれ?」

「やばい系?」

「怖い話、とか?」

 などとザワザワ始める。

「変な声って、どんな?」

 そう聞かれると私は、

「残り四回、って、男か女か分からないような声・・・なんだけど」

 と答えたが、皆、気味悪がるだけで賛同する人はいなかった。妙に興奮している人が数人いたけど。


-やっぱりそうか、あの夜と同じで私にしか聞こえなかったんだ-


でも、なんとなくそうだろうとは思っていた。

あの声は人のそれじゃないような気がしてたから。

-じゃあ何者の声なんだろう?-

”今回”というのも”残り四回”というのも、どちらも何かの回数を示している。

その二つは、なにか関連があるものなのだろうか?

まったくわからない。


-だとしたら・・・-


あの夜、私はすべてを終わらせてしまおうと思った。(んだと思う)

そんなときにあの声は聞こえた。

でも、今回は事故現場に遭遇しただけで、私には何も起きていない。

飲み会のあと、たまたま交通事故の現場に出くわしただけだ。


-そういえば・・・


オルゴールの音が聞こえた・・・


あの夜も、今回も・・・-


私の周りでは、”残念会ご一行様2次会参加チーム”の面々は、ガヤガヤと雑談しながら歩いている。

進んでいる方向からして、2次会のカラオケは中止にすることなく行くようだ。


-あの変な声のことはとりあえず置いておこう。

そして、家に帰ったらあのオルゴールを見てみよう-


訳の分からないことはひとまず心の奥にしまい込んで、カラオケ大会を楽しむことにした。

そして、そのあとで、おばちゃんパワーの計り知れなさをたっぷりと思い知った。


 ”残念会ご一行様2次会チーム”が解散となり、母と二人で家に戻った私は、すぐに部屋に置いてあるオルゴールを探した。


 小物入れの中にあるオルゴール。


 それは貰い物。


 そして、その夜、私はある少年と夢の中で再会する。

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