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黄昏に染まるその陰で  作者: 三当香季
11/19

第3部 ACT2の1 彼は受け入れることのできる人である

ポケットの中が震えた。

彼は面倒くさそうに手を突っ込むとそれを取り出す。

携帯電話の画面には父の名前が表示されていた。

「もしもし」

携帯の向こうからは騒音が聞こえている。

「なに?とうさん、どうした?もしもーし!」

携帯に向かって、大きめの声で話す。すると、

「ああ、、、えーと。 相沢 さんの、あ。いや、俊平さんの・・・息子だよね」

聞き覚えの無い野太い声がした。

彼は一旦、携帯を耳から離し、画面をもう一度確認する。そこにはやはり、 相沢俊平 と表示されていた。それは父の名前で間違いない。

「えっ、そうですけど・・・」

どなたですか?と言おうとしたところに、

「ああ。えーとね。私は君のお父さんが勤めている会社の者なんだけど。えーとね。そのね。えっと・・・。落ち着いて、聞いて欲しいんだけど」

野太い声の主のほうからある程度の情報をくれた。

その男は、声のトーンを少し落としてゆっくりと話しを続けた。

「実はね、君のお父さんが西須駅前で事故を・・・。んと、そうだなあ・・・。事故にね、巻き込まれたんだ。それで、これから中央病院に救急車で搬送されるところなんだけど、これからすぐ中央病院に来れるかい?」

 父が事故に巻き込まれたと聞かされて、一瞬、思考が停止しそうになったが、言われた通り冷静であるように努めながら言葉を返す。

「事故って、父は大丈夫なんですか?」

「私もまだ詳しくは聞いてないんだけど。・・・あー、 誠 くん、だっけ?とにかく、西須中央病院にすぐ行ってほしいんだけど、来れる?」

 西須中央病院。場所は分かる。

「あ、はい。すぐ向かいます。けど、1時間ぐらいかかると思います」

 誠はそう答えながら、今いる場所の一番近い駅へと走り出した。

「えー、私は 嵐山 というんだけど、私も今から中央病院に行くから。んっと、私の方が先に着いてるはずだから、正面玄関前で待ってるよ。あー、そうだなあ。後で私の電話から発信だけしとくから、私が見つかんなかったら電話掛けてみて」

 嵐山 と名乗った男はてきぱきと指示を出す。

「はい。わかりました。よろしくお願いします」

誠 は携帯を耳に当てて走りながら答える。

「誠 くん。くれぐれも気を付けて。焦らないで来るんだよ。じゃあ待ってるからね。電話切るよ」

 そこで電話は切れた。

-そうだ。俺も気を付けなきゃ-

誠 はそう思いながら、携帯をポケットに突っ込みつつ、走る速度は緩めずに駅へと急いだ。


相沢誠 22歳

彼がまだ幼かったころに母が病気で他界した。

それからは、ずっと父と二人暮らしである。

父、 俊平 は会社勤めしながら家事もよくこなし、 相沢 家は父子家庭ながらもそれほど男所帯であることのデメリットを感じさせない生活を送れていた。

裕福とまでは言えないが貧乏だとも感じない程度の暮らしで、 誠 は普通に義務教育を経て、高校・大学へと進学した。

今年の春には大学を卒業。その後は、すでに内定をもらっている会社に就職して、これから父に今までの恩返しができる。そう思っていた矢先の出来事だった。


 誠 が病院へ着くと、正面玄関前に背広を着た恰幅の良い男が立っているのが目に入った。

その男は近づいてきて、

「 誠 くん?」

 電話で聞いた野太い声だった。

「さあ、中に入ろう」

 男は 誠 を病院の中へ促す。

先を歩きながら、男はときどき振り返って自己紹介をした。名は 嵐山 、誠の父が勤めている会社の社長だそうだ。

-「父がいつも大変お世話になっております」とかって挨拶した方がいいよな-

などとも思ったが、 誠 はそれを声にすることができずに、ただただ 嵐山 の後をついて歩く。


エレベーターに乗り、下の階へ。

エレベーターのドアが開くまでの時間がものすごく長く感じた。

誠 も 嵐山 も無言のまま。


 エレベーターを降りると、 嵐山 は近くにいたナースに話しかけた。廊下をしばらく進んだ先の部屋に二人は案内された。

 その部屋の中はひんやりとしていた。がらんとしていて、その真ん中に大きい白い布がかけられたなにかが置かれている。

その正体が何かはすぐに分かった。

一緒に部屋に入った背広姿の男が白い布をめくる。

促され、 誠 はおそるおそる中を覗く。

すると、そこには父の顔があった。目を閉じているその顔には、無数の傷があり、皮膚のところどころが変色していた。

誠 は、横たわっている父にすがりつき、泣いた。


 しばらくしてから、背広姿の男と白衣を着た男から、なにかの説明を受けた。

「意識」とか「心停止」とか、そんな単語が聞こえたような気もしたが、それらが示すものが何なのかは認めたくなかった。

説明を終えた男らが一礼し、 嵐山 が会釈を返す。 誠 は涙をぬぐうこともせずにただ立っていた。

そのあと、警察だという数人の男たちがやって来て、丁寧に挨拶をすると、事故についての詳しい説明をしていった。


 誠 の父、 相沢俊平 は会社の車を運転していて、西須駅前の交差点に入ったときに反対車線の車に猛スピードで衝突された。突っ込まれたその勢いで 俊平 が乗っていた車は弾き飛ばされて、信号機の支柱にぶつかって止まった。

俊平 の乗っていた車の後部には、仕事用の機材が積まれていて、激突した衝撃でその機材が前方へと追いやられ、運転席を圧迫する形になってしまったのだそうだ。

俊平 は運転席で挟まれ、身動きが取れない状態となり、救急隊が駆け付けたときにはすでに意識を失っていたそうだ。

病院に救急搬送され、処置がなされたが手遅れだった。


 嵐山 へは、警察から会社の車が事故に巻き込まれた連絡が入り、すぐに現場へと駆けつけた。現場に着いたときには、 俊平 が車から出されて救急搬送されようかというところだった。警察から簡単な説明を受けると、 俊平 の携帯電話を受け取って、 誠 へと連絡した。


 その後のさまざまな手続きなどは、嵐山 社長が同行して手伝ってくれた。

翌日、祖父母が駆け付けてきてくれたし、社長と会社の人達が全面的に手伝ってくれたおかげで、葬儀、納骨も無事に済ませることが出来た。

祖父母からは、田舎で一緒に住まないかと誘われたが、就職がすでに決まっていたこともあって断った。

そうして、 誠 は父と二人で住んでいたアパートで生活を続けることにした。

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