帰宅後
街に戻った口裂け女様とタンポポさんはどうなったのでしょう?
もしかしたら、口裂け女様はおれの事を意識しているのかも!?
そう思うと、立ったまま眠れる。(直立即寝)
まあ、いつも立ったまま寝ているんだが。ドライアドという種族は姿こそ人間にそっくりに見える。だが実際なってみると分かるが、人間でないのは明らかだ。
そんなおれにも、時々精霊界本部から呼び出し状が送られてきている。伝書鳩から受け取った書類には、集合時間は明日の正午からとあった。
おれはどうやら野の花代表枠での出席だそうだ。
というわけで、一人旅路を急いでいたのだが・・・。
町の門をくぐり丘を越える辺りで口裂け女様に出くわした。
「こんにちは。口裂け女様。昨日ぶりですね。」
「うむ。してお主。街の外に出ているとは珍しいな。」
「そうなんですよ。実は会議に出席しなけらばならないのです。」
「なるほどな。我もそろそろ世界を破壊する計画を練らねばな。」
や、やっぱり凄く不安だ・・・。おれが不在時に世界は何回か滅んでしまっているのかもしれない。
「その時はおれも呼んで下さい。」
「なんだ。お主も興味があるのか? やはりこの破壊衝動は愉快じゃからな♪」
何としても止めなければ・・・。おれのひと事に世界の命運がかかっているのかもしれない。
「約束ですよ。是非お願いします。」
「良かろう。お主を待ってやるわ。ワハハハハハ。愉快じゃ♪」
「ところで、どんな会なんじゃ?」
「えーっと。そうですねえ。今いるメンバーの各自紹介とか、婚約者探しとか? ですかね~。」
「おい。聞き捨てならん事をお主言いおったな。」
「え、何がですか?」
「お主だけ幸せになるなんて我、許さんからなあああ!」
「く、苦しいです。襟が伸びちゃいますって!」
ぐぬぬぬ。力ずく引っ張られるおれのワイシャツ。
「我も行く。」
「ええっと。呼ばれていない方の出席は基本難しいと言いますか・・・。やっぱ何でもないです。」
ひと睨みで黙らされるおれ。仕方がないのだ。本当に恐ろしいのだ。口裂け女様は。
「フフフ。ドライアドも所詮しれものよ! 我の力を見せびらかしてやるわ!」
どうしましょう。おれの普段から人に合わせ過ぎる性格が災いしたようだ。
断る良い言い訳がみつからないので、仕方なく、一緒に行くこととなった。
*****
会議が一段落ついた頃だろうか。おれの人生にも奇跡が起こっていたのだ。
「あら、新たにドライアドになられた、タンポポさんですね?」
「あ、はい。そうです。初めまして。これからどうぞよろしくお願いします。」
「フフフ。こちらこそです。」
何とも美しいカーテシーをして頂く。おれもお返しに見よう見まねでボウ・アンド・スクレープでお辞儀を返す。
前世で見た、ふるちん漢の像を思い浮かべながら・・・。
「ところで、あなたこれから婚約者を探していらっしゃる?」
「はい。そうです。」
「ドライアドってどうしても古代樹の精霊なものだから、皆さん自分に自信ありげで・・・。」
「尊敬します。私なんて雑草ですから。」
「そんな謙虚なのはあなたの美徳よ。タンポポさん。」
「・・・。そういうもんですか。」
「良かったら、私の婚約者になってくださらない?」
「ふぁ!?」
「先ほど皆さま方とお茶をしている時から気にはなっていたの。」
「それとも、私は好みではないかしら?」
「いえ、そんな。あなたは凄く魅力的な女性ですよ。でも・・・。」
「なら、良く考えて下さる? 返事はいつでも良くってよ。」
「ちなみに私は世界樹ユグドラシルのドライアド、のるんと言います。」
「あ、どうもご丁寧に・・・。おれはタンポポです。」
「フフフ。知っているわ。」
2人で談笑が盛り上がりかけていた頃。
「おい。お前。こいつはもう先約済みだぞ!?」
「まあ。どちら様かしら!? すごい邪悪な気配を感じるわ。」
「タンポポさん、あなたのお知り合いかしら? もし、脅されているのなら、私が・・・。」
「邪悪だなんて・・・。(〃▽〃)ポッ」
「なんて恐ろしい気配なのかしら。今にも世界に害をなしそうな・・・。」
「も、もうやめてくれ・・・。(〃▽〃)ポッ」
「のるんさん、ごめんなさい。実はおれ、好きな女性がおりまして!」
「そ、そうでしたのね。お誘いしてしまって大変失礼いたしました。」
「いえ。お気持ちは大変嬉しいのですが、お応え出来かねます。実は私は彼女に惚れてしまっているのです。」
「そうなのじゃ! しかし、お前なかなか見る目があるな! そんなに我は邪悪に見えるのか!」
「彼女は何で喜んでいらっしゃるのでしょうか? 私にはとても理解ができません。」
「彼女の世界では褒め言葉らしいです。」
「うむ。そしてこやつは我の言う事を何でも聞く、何とも悪いやつなのじゃ!」
ここまで伝わらない事もあるだろうか。おれは少しばかり傷ついた。
「というわけで、こやつはずっと我のものなんじゃ! ワハハハハハ!」
ここは彼女に行動で分からせるのが良いのかもしれない。
彼女を傷付けてしまうのは心苦しいが。このままうやむやにしたくない。この気持ちはおれの身勝手さだ。
男女間には恋愛が必要である。きっとその価値観は世界を歪めているのだろう。
でも、おれはおれの気持ちを隠してこれから口裂け女様と向き合う事が出来なかった。
きっと器用な人なら出来たのだろう。もっと自分に自信があったなら。さらに彼女の気持ちを考える聡明さがあったのなら。
どんなに良いのになあと思い、おれは許されない事をした。ドス黒い欲望を胸に。
「口裂け女さん、口にご飯粒がついていますよ。」
「ぬう?すまぬ・・・。むぐ?」
それは一瞬の事だった。おれは彼女の唇におれの気持ちを重ねてしまった。
「何をするかあ、貴様・・・!」
「ごめんなさい。いかようにもお裁きを。でもそれがおれの気持ちなのです。お慕いしておりました。」
引き離されるおれ。その手は酷く震えていた。
「わ、我だって。我慢しておったのだぞ!?」
「・・・はい。」
「分かっておったのじゃ。お主が我の事を好いてくれておることもな。でも!」
「お主は善いやつすぎるのじゃ。我といてもどうせろくな目に合わぬじゃろ?」
「なのに、何で、我の努力を無視できるのじゃ。我だって苦しかったんじゃ。」
「ずっとお側にいます。口裂け女様が道を踏み外しそうになったら、私が支えます。」
「それに、おれはそんな破天荒なあなたが大好きなんですよ?」
「ふう。その気持ちしかと受け止めたわい! 仕方ないやつじゃなお主は! 前言撤回は許さぬ。そして我の思いは呪いのように執念深いぞ?」
「そんなに思って頂けるなんて、おれは幸せものです。」
「そ、そういう風にデレてくるのこれからは禁止じゃからな!? でも、そのありがたく思ってやらん事もないのじゃ。」
「それは大変光栄です。今の顔も大変恐ろしいですよ。」
「むうう。そうやって我の前で口説き文句を息をはくように言う出ない!」
「これは大変失礼いたしました。愛しの口裂け女様。」
「じゃからな~!」
「あらあら。これは大変素敵なカップルの誕生ね。」
「いよ~。お2人さんお熱いね~!」
「憎いねえ。この色男!」
「嬢ちゃんも凄く怖いぞ♪」
辺りは黄色い声援と、温かい拍手に包みこまれていた。
2人の関係が急接近ですね~。主人公グッチョブでした! 主人公が恐ろしいといっている時のセリフは可愛すぎるだろって意味らしいです。
聡明なる読者の皆様にはお伝えしなくてもって思っちゃってましたが、やはり言葉にしなくては♪
隠しネタみたいなのが一つ・・・たんぽぽの花言葉は↓
真実の愛だそうです♪ (*´▽`*) ☆