ホラー映画のヒロインみたいな人
何かこういうのも好きだなあ! さてさて、同じ穴の狢対決と行きましょか!
「いやああ~~~!」
「そんな!マリア!」
「助けて!」
「このままじゃ全滅だ!」
「君だけでも逃げてくれ! ヘレナ!」
「そんな! きゃああああ!」
廃墟から、響いてくる、6人組の悲鳴。廃墟の家財が倒れる音とチェーンソーの機械音。
そして室内の音は搔き消え、アライバーの逃げる足音とハンターの音だけが残る。
ここまでが、悲鳴が聞こえたので、救助しに来た俺たちが今知り得ている情報だ。間に合わなかった。後はヒロイン(?)みたいなのを救わなくては。
2人組の足跡を追う。
「おい。早く町に帰らないか?」
「でも、彼女は助けを求めているのです!」
「いや。こんないかにも怪異が出そうなとこに来るやつは、死ぬ覚悟くらい出来ていて当然だろう?」
「・・・。」
「気にする事はない。全滅させてやるのが我らの礼儀というものだ。」
「それはそうかもしれませんが。」
ここでおれは一瞬考えてみる。そうだ。何故見ず知らずの人を助けなければいけないのか。どうして人は人助けをしたいと思うのか。
「確かに、彼らを救う理由なんてありません。」
「そうじゃろう。」
「でも、実はおれ口裂け女様に黙っていた趣味がありまして。」
「ほう。手か足かいらない方を選べ。鎌のさびとかしてくれよう。」
「人助けが趣味何です。」
「は!?」
「そして口裂け様。あなたは怪異の中でも尊きお方。畏怖の存在のあなたが、目の前にいる安っぽい半端ものを、のさぼらせても良いのでしょうか。」
「確かにお主の言い分も一理あるな。だんだん腹が立って来たわい。やつを殺す。お前も来るか。」
「ははあ。お供させて頂きたく存じます!」
「全く今回は載せられてやるわ。次はないぞ!?」
「存じております。」
口裂け女様におんぶをしてもらって、それはもう神速でチェーンソー・ヴァンパイアの後ろに回り込む。
「死にさらせ! この下郎が!」
振り上げた鎌がおれの耳を掠める。盛大な血しぶきを上げ、ヒロインの衣服と髪を真紅に染めていく。
ニヤリと不気味な笑みがヒロインをさらに絶望へと追いやる。
像も飛び上がるようなびっくりな金切り声で命乞いをするヒロイン。
おれは背中から降ろしてもらうと、ヒロインの耳元へ悪魔のささやきをする。
「すみませんが、言う通りにしてください。あなたの命を助けてくれた彼女に礼を尽くしたいなら、その調子で死ぬほど怖がって下さい。」
(コクコクコク)
「腰が抜けているしょうから、死ぬ気で這いつくばって逃げて下さい。オーバーな行動が好印象を与えます。本当に悪いですが、私は彼女からあなたを救うことは出来ないので、言われた事をただ実行してください。そうすれば助かる可能性があります。YESは右眼。NOは左目。質問の時は答えて下さい。」
(コクコクコク)
それからは、圧巻の演技だった。ヒロインはキャタピラーウォークを実行し、気絶したふりをする。
おれは彼女を抱きかかえ、村へと送り届けた。時々道案内をウインクでしてもらいながら。
「真っ直ぐであってます? あ、あれか。やっと着いた。」
口裂け女さんは村の外れでまってもらっている。住民に保護してもらうのを見届け、俺たちは村を後にした。
「アヤツの悲鳴はなかなかに興が乗っておったぞ。我、大満足じゃ!」
「私も口裂け女様の恐ろしさに改めて身が竦む思いでした。」
「そうじゃろう、そうじゃろう!」
「じゃが、なんかムシャクシャもしているのじゃ。」
鎌で空を薙ぐと、カマイタチが発生し、木を5・6本切り倒してしまった。
「何故か我にも分らんのじゃ。」
ヒエエ。流石すぎます! おれまだ明日やりたいことあったのにな。殺されかねんなこれは。
「あ、あのう。口裂け女様も怖い事してみたくありませんか。」
「むう? なんじゃいきなり。」
「女性は、お姫様抱っこされたら、足元が疎かになって恐怖するといいます! もちろん、おれが相手だと嫌かもしれませんが・・・。」
「なるほどなあ。」
「お主がそこまで言うのなら、試してやっても良いぞ。何事も経験じゃからなあ。」
「何をしているのだ? 早くせんか。」
「失礼します。」
口裂け女さんは何とも軽やかで良い匂いがした。そんなキモイ事考えてしまって、本当にすみません!
100Mくらい歩いてからだろうか。予想はできた事だが、おれの手と腰が悲鳴を上げ始める。
「もう、おろせ。お主本当に貧弱じゃな。」
「返す言葉がございません。」
どれ一緒に帰るぞ
その言葉をおれの耳は捉えてくれなかった。月明かりの下、口裂け女さんの笑顔と手の温もりに時間は盗まれてしまっていた。
ホラー映画見てウキウキの作者・・・。そして生まれたこの話。。。悪ノリしすぎたかも(笑)