グール冒険者の台頭
ちまたで噂の冒険者のようですよ!? 口裂け女さんのお悩み相談回。
「よう、姉ちゃん! 最近羽振りがいいらしいんじゃねえか!」
「そうじゃな。」
「今夜おれと一杯どうよ!?」
「どうやら死に急ぎたいらしいな。」
「うわあ。こいつ危なえな! ギルド内でむやみやたらに鎌をぶん回すんじゃねえよ!」
私はまるで目の前の男がゴミに見える。というか、人間とゴミはどう違うのだろう?
確かに、言葉を交わす事ができるが、分かり合えるとは思わない。なんせ、脅かす側とされる側の関係だ。
今この瞬間を見逃してやっただけでも大変ありがたく思うべきである。
ニヤリと怪異らしい笑みを浮かべ、ギルドを後にする。
最近ではそこそこのレベルの魔獣(?)という奴らを狩りそしてその報酬として金品などを得るという奇妙な生活をしている。なかなかに多忙であるのだが、充実はしているように思う。
なのに、何故だろうか。あの道端の奇妙な男が気になるのだ。どうせ何もせずぐうたらしているだけなのだろう。全く哀れな奴だ。
成長もへったくれもない。クソみたいな人生なのだろう。私は今まで感じた事のない優越感にひたり、いつもの帰り道を歩く。
そして、案の定奴は道端に気だるげに居座っていた。
*****
「相変わらず暇そうじゃの。今日は何をしておったのじゃ?」
「あ、どうも。口裂け女様。最近噂になってますよ? 期待の新人が現れたとかなんとか。」
「そ、そうなのか?」
「忙しそうですね。」
「ま、まあな。充実はしておる。」
「ところで、ちょっとお疲れ気味ですか?」
「わ、我は疲れてなどおらん。」
とってもドキッとした。もしかして我はお疲れ気味なのか?
少し遠慮気味ながら、さり気なく我を覗き込んでくるこ奴の顔・・・。
先ほどまで我はこ奴の事をどう思っていた!? バカにしていたのではなかったか?
自分で今の仕事を選んだくせにして。我はこ奴の事を下に見てしまっていた?
そう、もしかしたら我は疲れていたのかもしれない。疲れとは恐ろしいものだ。そう、いつの間にか我の考えをコントロールしだし・・・。
いつの間にか普段は思いつきもしないようなネガティブな考えで頭を覆いつくしてくのじゃからな。
申し訳なく思いつつも、我はちょっと嬉しかった。我の事を気にかけてくれる存在がここにもおったのじゃ。そうじゃのう。この世界の人間を根絶やしにする機会が近い内にきても、こ奴の命だけ見逃してやっても良いと思った。
「す、すみません。余計なお世話でしたよね。すみません。」
我が突然黙ってしまったからじゃろう。こ奴め慌てだしておるわ。
「そんな事はないのじゃ。」
少しだけ笑顔を見せる事にした。
「リボン似合っていますよ! 良かったら野原の妖精さんから、良質なハーブ頂いたんですけど。お茶飲んで行きませんか?」
「茶というより、ティーじゃろう?」
「そうですね! ではティータイムと行きましょう!」
昨日よりも、少しだけこ奴の事を知りたい。一緒に歩く足取りは何とも軽やかじゃった。
むむむ。優しさって時に心に刺さりますよね・・・。私も優しい人になりたいなあ。