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第一話 屈辱の連鎖

2022.6.6開始!


プロローグなしです。

直ぐに本編がスタートします。


初日(6月6日)は朝、昼、夕方、夜の計4話投稿です。

→第四話に大規模な修正箇所が見つかり、投稿が明日(6月7日)になります。




『全滅だと?! 嘘だ……嘘だ、嘘だっっ! 何故、どうして俺だけが……畜生っっ!』


 敗北からの恨み、妬み、嫉み等々。

 

 これらの感情を抱く必要が自分の人生には無いと確信していた。


 だか想定外の()が起きた時、それに抗う力を備えていなかった上に臆病だった俺は、与えられた『『ゴミ』』を文句も言わずに受け入れる事しか出来なかった……。 


 それが今の会社だ――。



 朝七時。街が完全に目覚めようとしている頃、人々は一日の始まりに多かれ少なかれ覚悟や諦めを胸に抱きながら、朝の独特な時間の流れに身を任せている。

 雲ひとつない空、街を吹く少しまだ冷たい風。

 気持ちの良い四月の朝なのだが、なんとなく無機質にさえ感じるそんな平日の空気が学生の頃から俺は苦手だった。

 

 ただ今日の朝は、いつもとは少し様子が違っていた。


 真新しいスーツに身を包み、その顔に期待と緊張を(にじ)ませながらも颯爽と歩いている若者達。

 将来この国を背負って立つ彼等は実にたくましく見える。


 しかしそれは今の俺にとって、妬ましい光景でもあった。



 家を出た殆どの人間が慌ただしく駅に向かう中、俺は駅手前の道路を右へ曲がる。


 まさかこんなに職場が近いとは……電車通勤に憧れていた訳ではないが、いまいち新天地へのモチベーションが上がらない原因の一つにはなっているだろう。

 

 駅前の小規模な商店街を三百メートルほど進めば、右手側に五階建てのやや古く小さなビルが見えてくる――。

 その三階フロアが、これから毎日通う俺の職場だ。


 周囲の建物にも似た様なビルが幾つか立ち並び、その間にコンビニやラーメン屋、喫茶店などが点在している。


 時間に余裕もあったので歩くスピードを落とし、朝からすでに昼飯の事を考えていると、後方から猛スピードで走る女子高生に俺は追い抜かされた。


 陸上選手の様な美しいフォームで走る彼女は、あっという間に百メートル位先まで行くと、右側のビルに消える。

 

「えっ? あのビルは……」


 女子高生と同じ道を辿る俺。

 やはり自分の会社が入っているビルの前に着いた。 


 此処には自分の会社以外にも複数の他会社が入っているのだが、何の面白味もない所ばかりで女子高生が好んで入る場所にはとても思えない。一体、何の用事があるのだろうか?  


「まあ、気にしたところで仕方ないか……」


 気を取り直して、ビルに入ろうと自動ドアを通る。

 すると一階フロア奥にあるエレベーターから、さっきの女子高生が降りて来た。


 一瞬目が合った様に感じたが、彼女は表情を一切変える事も無く、また猛ダッシュで来た道を戻って行った。

 

『可愛くない奴だな……』


 そう思いながらも、彼女の姿を脳裏に焼き付けている自分。


 長く艶やかな黒髪に白い肌。きつめだが整った顔立ちからか、凄く大人びた印象を受けた。それは紺のブレザーに緑のチェック柄スカートと言う定番でもある女子高生の制服にさえ、違和感を持つほどだ。

 

「……?」


 脳内スキャンを終えた俺は、首を傾げながらエレベーターのボタンを押す。

 重なる違和感……それは彼女の手に自分の会社名が書いてあるA4サイズの封筒が握られていたからだった。


「チーン!」


 何はともあれ彼女のおかげでエレベーターのドアはすぐに開き、俺はそれに乗り込む事が出来た。

 上へ動き出すと、多少だが心臓の鼓動が早くなるのを感じる――。


「あんな()()()()でも、初出勤だしな……」


 大きく息を吸い込み、それを全て吐き出した所で、俺は無事三階に着いた。


「……」

 

 エレベーターから一歩足を踏み出して左を向くと、嫌でも視界に飛び込んでくる白い文字。


『『ステキ企画』』


 自動ドアに大きく書かれたその文字を見ると、センスの無さに改めて不安が募る……。

 一応『ゲームアプリの企画、制作』をしているのだから、もうちょっとまともなアイデアは思い付かなかったのだろうか? 


 何でこんな会社に……。

 ふと脳が、その理由を思い出す。

 

 暇潰し程度だが、ゲームは割と好きな方だ。

『自分が制作をした商品がヒットでもすれば、それを足掛かりに独立して稼げるかも……』と言う小学生でも思いつくような安易な考えでエントリーをした会社だったが、試験も面接も無くあっさりパスしてしまったのだ。


 まあ、超有名一流大学の人間がわざわざ三流会社を希望してやったのだから、それも頷ける結果だよなぁ。


 なんだか気が楽になった――。




「……」


「……チッ!」


 舌打ちするのも無理はない。


 エレベーターを降りて会社の前に立ってから、すでに二分もの時間が経過しようとしていた。


 動けない――その理由は二つある。

 一つ目は、入り口の自動ドアが開かない事だ。手動式だが、ボタンを押しても反応が無い。

 二つ目は、誰かに訴えようにも社内に人間が一人も居ない――まるで休日の様に静かだ。


 考えてみれば、このビルに入ってからあの女子高生以外、誰にも会ってないよな?

 いくら小さなビルとは言え、朝の出勤時間に誰にも会わないのは流石におかしい……。


 肌寒く静かな三階フロアに焦り始めた時、古いエレベーター独特の作動音が聞こえた。


「誰か来る……」


 三階着を願いながらも、俺の心臓はまた少し高鳴っていた――。

次回、第二話 屈辱の連鎖その2


12時から13時までに投稿予定です。

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