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ショートショート3月~2回目

説法

作者: たかさば

 旦那に誘われて、偉いお坊さんの説法を聞きに行くことになった。

 何でも、月に一回、近所の人?檀家さん?を集めて、ありがたい話を授けて下さるのだそうで。


 あたしゃあんまりこういうの好きじゃないんだよなあ、ちゃらんぽらんで不真面目要素が高いからさあ、学べる話だのためになる話だのってのがこう…おなかいっぱいというか、向いてないって言うか、めんどくさいって言うか、うん、わりとかなりダメな部類の人間でしてね。


「うわ、結構人いるんだね、端っこのほうでちんまり聞かせてもらお…。」

「何いってんの、こういうのは一番前で聞かなきゃダメじゃん!!」


 はりきる旦那に引っ張られ、一番前の端の方で正座をすること三分、ありがたいという坊さんが…うん?


「ハイ、皆さんこんにちは。いよいよ三月も半ばを過ぎまして・・・」


 紫色の袈裟をカッコよく着こなし、まっすぐ背を伸ばして奥の廊下?から現れた、やけに濃ゆいお顔のお坊様…ええと、なんだ、えらく、人がたくさん……。

 お堂の真ん中で立ち止まり、用意された椅子に腰を下ろして穏やかにモノを語りはじめた、輝く頭の後ろが、やけにこう、賑やかしい事になっておりますががが。


「・・・では、本日は、人に尽くすということにつきましてお話を致します」


 腕を振り上げ、オーバーアクションでお堂いっぱいにひしめき合う皆さんに熱弁を奮っていらっしゃるけれども。


 その腕に絡みついてるおばちゃんはいったい誰だい。

 その背中にしょってる兄ちゃんはいったい誰だい。

 その横に並んでる爺さんはいったい誰だい。

 その光る頭の上で目を光らせてる姉ちゃんはいったい誰だい。

 その背後でもやもやしている黒い何かはいったい誰なんだい。


 なーんかうっすいのもひらひらと漂ってるなあ、これは相当の…生臭坊主の、予感!!!


「人というのは、真心を与え合って生きているのです」


 ……腕にしがみ付いてるのは…坊さんを独り占めしたいおばちゃんの独占欲か。

 真心を与え合う?いやいやいやいや…何をおっしゃる。

 あんた下心たっぷりで…何を与えた、何を貪った!


「人生において、年長者は若者を見守るだけではいかんのです」


 ……背中にいるのは、人生を潰された兄ちゃんの恨みだな。

 若者を見守る?いやいやいやいや…何をおっしゃる。

 あんた人の選択を否定して…口出しして、叩きのめしたでしょうが!


「誰かの意見を聞くというのは難しいことではありません、すべてが…学びです」


 ……横にいる爺さんは、人の話を聞かない事に対してたいそうお怒りの様子だ。


 意見を聞く?いやいやいやいや…何をおっしゃる。

 あんた親の言うことを馬鹿にして…聞く耳すら持たずに、思い込みと勢いだけで論破してやりこめとるやんけ!


「裏切ることは最も恥じるべきこと、人と向き合う時は、真摯な気持ちを忘れずに」


 ……頭の上の姉ちゃんは…なんだ、奥さんの監視したい気持ちが飛んでってるのか。


 真摯な気持ちを忘れずに?いやいやいやいや…何をおっしゃる。

 あんたババアなんか口先でどうとでもごまかせるわって…日常的に大嘘ついてるじゃん!


「人を妬むこと…悲しいことです、なぜそこで向上心につなげることが出来ないのでしょうか?」


 ……背後でもやもやしてるのは…ちょ、坊さん自身の妬みじゃん、何この人。


 妬むのが悲しいこと?いやいやいやいや…何をおっしゃる。

 あんためちゃめちゃあらゆる人に妬みぶつけてるの丸分かりだよ…ドンだけ劣等感の塊なんだ、この人。


 ……偉そうに説法してるけどさあ。


 なんかこう、すご――――く、げっそりするんですけど。


 まだやんちゃだったヤンキーが己の罪に気が付いていきなり人生の方向転換してゴミ拾い頑張ってる姿の方が尊いというかさあ。

 てんで理解する気がないくせにいい声してるから頼まれただけの兄ちゃんが愛にあふれた感動物語を朗読するほうがこう、心にしみるというかさあ。

 なんだ、学級会でガキ大将が五番煎じくらいの良い話をしたらクラス全員が勘違いして児童会会長に担ぎ上げられる展開の方がまだ感動するぞ…。


「あ、今日はいいお話ありがとうございましたー!僕とってもお勉強させてもらえました!」

「あー、おほん!君ねえ、人の話を聞く時ぐらい、きちんと正座で聞かないとダメだよ!礼儀としてなってない、もっと痩せて正座ができるようになったら来なさいね」


 説法会が終わって挨拶に行った旦那は…肩も背中も首も頭も凝っていそうなおっさんに厳しい事を言われましてですね。日頃フレンドリー300%の対人スキルに自信がありすぎるおしゃべりダイスキ井戸端会議上等の旦那が…おお、引いたぞ、これは珍しい。奥様方に囲まれている坊さんの前から速やかに移動し、どすどすと重低音を響かせながらこちらにやってキタ━(゜∀゜)━!!


「ムム…なんかめっちゃ怒られた、もうイイや、今後は誘われても来ないようにしよ!!なんかプンプンだよねえ、正座なんて痩せてる人しかできないじゃん!太ってたらいい話聞いちゃダメって事?!」


 なにやら憤慨している旦那がいるわけなのだけど。…あれかなあ、おばちゃんたちの井戸端会議中についでに誘われたのかなあ、旦那を誘ったというよりは、たまたま一緒にいたから社交辞令的な感じで声をかけられたっぽい?


「うーん、まあ、とりあえず来るなって言ってんだから、もう来なくていいよ、あと60キロ痩せたらこようね、うん……」


 まあ、恐らくこの場所に今後来ることはあるまいて。


 お堂を出ようと、少々出遅れて退出する人々の後を追い、下足入れ前の込み合う空間に一歩踏み込みましたら…やけに疲れた顔の奥さん、ずいぶんカリカリした雰囲気のおばさん、陰気な感じのおじさんに憎々しげなおばあさん、一般人のふりした別の星の人に肉体があるふりしてる過去の人でしょ、陽気なおばちゃんにおとなしそうなじいさん、恨みがましい感じのおっさんにやけにエロい奥さん、ええとやんちゃな本性を隠そうとしている真面目青年にやらかした過去を背負って地味な一般人を演じる事に必死になってる女子…なんだ、えらく重苦しいというかグローバル?個性豊かな面々がわんさかいる寺だなここは。


「なんか疲れちゃったよ、おいしいもん食べて帰ろう!!」


 ああ、すぐ横にはずいぶん重苦しい肉体を持つ人が…なんだ、旦那だった。


「うん、そうだね…。」


 帰り道にたまたま見かけたニューオープンの洋食屋は、わりとかなりハンバーグがおいしかったという、お話です……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こいつはダメだ。例えば小説書かせても説教で読者否定して萎えー [気になる点] それに引き換えハンバーグの存在感よ
[一言] それっぽい格好をしていれば、騙せるということでしょうかね。あ〜、胡散臭い、胡散臭い(笑。
[一言] まぁ、ホレ、「嘘も方便」、「知らぬが仏」、ですわいなwwwwww
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