こうして度の無いレンズは割れた
黒楓!!
私を泣かせるな!!
byしろかえで
本当の事を言うと私は父の仕事…家業が嫌いだ。
政務活動費を不正受給 政治資金規正法はザル法 忖度 利権 …
色んな言葉が私の周りを取り巻いている。
それが嫌で小学生の頃から一所懸命“掃除”をしたのだけど…
22歳の私は、もう疲れ果てた。
それから、地縁、血縁って言葉もイヤ!
…既に取り込まれてしまったけど…
一人娘の私では全てを託すには心許ないという事なのだろう。
地縁血縁の某家の次男をフィアンセにあてがわれた。
『今時、政略結婚?』と笑われそうだが…
『こちらはレッドデーターブックに掲載されております』とコメント書きされた蛾のように、私は“標本箱”に虫ピン留めされている。
本当は諦めてはいたんだ。
遠い昔に
だけど、あんまりにも立場が無いから、すぐに結婚はしたくなくて、院に進学した。
フィアンセに“待たせている”と言う負い目ができた。
そのカレとのデート?は、いつも私が車を出して
カレは助手席か後部座席でスマホのゲーム三昧だ。
ホントにゲームなのか分からないけど…
ところが、その日に限ってカレは自分の車を出してきて
私の家の敷地で私を助手席に乗せた。
珍しく両親が見送りに来た事で
私は全てを察するべきだったのだ。
いきなりビラビラの下がった入口から中に乗り付けられ
私はその日、ファーストキスから始まり…全てを
奪われた。
もうずいぶん昔から諦めと覚悟が出来ていたので
“その時”は歯科椅子に座らされた治療前の患者のようにベッドに横たわったのだけど、
メガネをカレの手で外された時に言われた
「意外とかわいい」
という言葉に
私は何故か深く傷付き、枕を濡らした涙を
シーツを汚した痛みのせいにした。
それがわずか約1か月前の話なのに…
今日はビラビラの下がった入口を私の運転で潜り抜けた。
そればかりか
「マグロに餌を与える」
と
色んな事、
ヤらされた。
こんな事をヤらされる私に、一体何の負い目があるのだろう…
私は絶望に陥らないように目を反らせていた言葉をついに掘り出してしまった。
私は
負い目の上に
胡坐をかいているんだ
今は夜の11時
カラダも頭も疲れ果てていた。
学校の課題だって机に積まれたままだ。
そんなタイミングでスマホにメッセが入ってきた。
『よ、ハロー』
千景だ
『ハロ吉!』のメッセとネコ由来のキャラクターのスタンプを返す。
だけどそれきり
無反応…?
と、電話で掛かってきた。
「どうしたの?」
『うん、メッセでと思ってたんだけど…指、動かなくて…』
「…ん?」
『あのさ、美咲の事なんだけどさ』
「あー美咲~」
『やっぱり不機嫌になった』
なんだか人が近くにいるようだ
「誰か居るの?」
『えへへへ 和田っちと一緒』
「あのさ、エッチな実況だったらやめてよね」
『アハハ。やんないやんない もう済んだ』
<腕枕はしてやってるぞ>と後ろから和田っちの声が被る。
仲の良ろしい事で…
『あ、それでね。アノ子、また持ち帰りされたみたいでさ』
「あー、マタ、だね。千景の親友だから悪くは言いたくないけど…アノ子、股、甘いから」
『それは否定できないわ… 問題はね、その事を桜井くんの耳に入れちゃったらしいんだ』
「えっ?!!」
私の頭をあの桜井くんの笑顔がよぎる
『さっき美咲から<持ち帰りされた事を桜井にメールしたら半日遅れで電話来て、めっちゃ迷惑>って、メッセ来てさ、それが通知内容表示にまるまる出たのを和田っちが見ちゃって…どういう事だ?ってなってさ』
ゴソゴソと音をさせながら和田っちが割り込んで来た。
『オレが今、めっちゃ!怒ってんだ』
『ちょっと!そんな乗り方したら、胸痛いよ~! あ、でね、アレはまだ有効?『桜井くんへのチャンスがあったら連絡して』ってヤツ』
私は自分が婚約者のいる身だという事を友達関係には一切話してはいなかった。
で、即答した。
「もちろん」
『じゃ、オレ、桜井と会えるようセッティングするよ』と和田っちが言ってくれて
私は「ありがとう」と電話を切った。
さっきまでは「もうどうにでもなれ」と思っていた。
なら、こういうのも有りだ。
私だって!
少しは好きにさせてもらう
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フィアンセのタコ野郎が贈ってきたのは胸グリが大きく開いた、いかにも体の線が出そうな白のニットのワンピだった。
背の高い私が着ると「裾が上がって、セクシーさが倍増した」と千景に言われた。
だいたいこの背の高さだけでも私の肩身は狭かった。
どうしてこうも、オンナは生きづらいのだろう。
この間のホテルへ拉致されたのだってそう、
そもそも男だったらこんな風にフィアンセをあてがわれることも無かっただろう。
でも突き詰めて考えてしまうと、桜井くんを最初に気になったきっかけは、高校に入って、初めての学級委員として二人並んで立っていた時、カレの方が、背が高かったから…
まあ、その後、カレが模試でいつも私の上を行っていた桜井と知ってムカついたのだけど…
その時は、こんなに恋焦がれる事になるなんて、思いもしなかった…
プロの千景にメイクしてもらいながら私はそんな事を考えていた。
もうすぐ桜井くんに逢える。
ドキドキするけど…
私はなんでもやってしまうつもりでいた。
できるようになってしまったし…
千景が鏡を見せてくれて
表情を作ってみる
確かに
私は
オンナだ…
「えっ?! コンタクトなのに…わざわざメガネかけるの?」と驚く千景に私はウィンクする。
「せっかくの千景のメイクに申し訳ないんだけど…こうでもしないと、きっと桜井くん、私だって分からないから…」
この上に赤のベルテッドコートを羽織り、モスグリーン色のショートブーツで、まだ溶け残っている雪を踏みしめながら、カレが居るであろうバーへと向かった。
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意味を気付いてもらえていないシェリー酒のグラスも3杯目になった。
私の頬もメイクよりさらに色を差したに違いない。
先程、ブーツで雪を踏みしめたように、少しずつ桜井くんに寄り添い、カレの膝に手をのせて、“美咲との話”にようやく辿り着いていた。
「そんなの、桜井くん、悪くないよ。絶対悪くない!!」
桜井くんは手に持ったジンライムのグラスを呷って頭を振った。
「そのことでしかられた」
「えっ?!」
急速に酔いが回ったのだろうか? グラッ!とする。
「…誰に?」
桜井くんは
何というか
悲哀を押しつぶした様に微笑んだ。
「フーゾクのおねーさんに」
心がよろけて
桜井くんの太もも掴んでしまう
心配そうに覗き込んだ桜井くんは私にとどめを刺した。
「あ、そう言えば、聞いたよ。結婚するんだって?!
たまたまオレの得意先のオーナーが亀井さんのフィアンセさんでさ、
おかげでオレに声を掛けてもらったんだ。
ありがとう。
今日は亀井さんを酔うまで付き合わせたりして、申し訳ないね…
ホント、オレってダメダメだよ…」
そこからどう自分の部屋に戻ったのだろう。
美咲とその“フーゾクのお姉さん”への激しい嫉妬で泣きながら歩いていたらしい。
<もしも私が!
カネで抱かれるオンナなら!
カレの事を
抱いてあげられたのに!!>
何度かそう叫んでいたような気もする…
止まらない涙を拭っているうちにコンタクトも流れてしまって
度の無いレンズでは役に立たない。
この度無しメガネを…
桜井くんの手で外してもらいたかった。
髪に
カラダに
触れて欲しかった
私は自分の手でメガネを外して
床に叩きつけた。
役に立たない度の無いレンズはー
こうして
割れた。
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イラストはこれから桜井くんに逢いに行く亀井さんです。
高校時代は“二つ束ね三つ編みおさげ髪”の亀井さんでしたが大学院生の今はガーリッシュヘアです。
メイクはひょんなことから(コミケで意気投合したお姉さんが医療メイクやメイクセラピーのオーソリティの凄い人だった)その道に入った田中千景ちゃんがしています。
もう一つ
ぼんやりと思い付いたお話はあるのですが…
書こうかどうか迷っています。(^^;)