<こんな故郷の片隅で> Twistin' the Night Away ①
今回はだいぶ前の冴子の話です。
あ、そのうちにエロありです(^^;)
言うまでもなく私は行き当たりばったりだ。
だから夜更けのレンタルビデオ屋(最近寂しくはなっているが)でワゴンセールになっている映画のDVDを適当に束で掴んで買って帰り、テーブルに積んで1本ずつ観たりしている。
明け方近くなって最後に観たのが『インナースペース』だった。主演の俳優は前に観た(やはり束で買って来た内の1本だったが)『サボテン・ブラザース』に出演していた人で、上手いし面白かった。
凄く満足して眠りについたのだが午後の目覚ましで起こされた。
今日は仕事、しかも事務所へ行くと決めていた日だ。今日の仕事を飛ばすとしばらく仕事は無理だ。体調のカレンダーはそう告げている。
すぐにお金に困るわけではないけど…生活が窮屈になるのは本意ではない。
しかし…かったるい
まあ、いい映画の次は大抵残念なヤツに当たるので、観ないで仕事に行こう。
なんせ私は行き当たりばったりだから…
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久しぶりに事務所に顔を出した。
今日はお茶汲みのボーヤも居なくて、マネージャーと二人、缶コーヒーを載せたテーブルをはさんで押し問答をしている。
「さっきの電話のお客。あれはきっと初物だな。食べてみたくねえか?」
「パス!!!」
「ま、そう言わんと…初めての女って存在になれんだぜ!」
「NO!!」
「声からして若いし、元気だぜ、きっと」
「そーいうやつはがっついてるしクサいし汚いし、ロクなことないの。だいたい私は今日はゆる~く仕事したいんだ」
「頼むよ! ちょうどみんな最中でさ。色々と…」
「全然いないわけは無いでしょ?」
「分かった!取りあえず会うだけ会ってくれ。そこでキャンセルでいいから。時間稼ぎで。頼む!」
狭いテーブルの前で頭下げるマネージャーのリーゼントの頭には、たぶん店の子のだれかの糸くずが付いている。
それが何だか情けなくて私はつい仏心?が出てしまう。
「分かったよ。でもキャンセルはするよ」
この仏心で私はいつも失敗するのだ…
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店の人間に送ってもらって私は待ち合わせの喫茶店に入った。
スマホを開け、店から転送されたメッセージを読み直す。
窓際の席でチェック柄のテーラードジャケットか…
見回してみる。
はたして該当者は居たが…
何だよ、いい感じのイケ麺じゃん!
う~ん
まあ、そうなんだろう
「空いてる?」
と前の席に腰掛ける。
相手も目をパチクリしている。
パチクリだって! シルクハット被った水飲み鳥レベルで古いや!
まあ、そのパチクリって言葉通りだ。
私は人を間違えたか? それとも驚かれるような恰好か?
私の恰好はデニムに5分袖のニット、手にジャケット持ちだが、それが何か?
少しきつめに言ってやった。
「人、間違えだったらすみません。私、デート詐欺なんです」
イケ麺くんは弾かれたように笑った。
「ごめんなさい。あぁビックリした…あの、どうぞ」と椅子を勧める。
「私はビックリされるほど違和感あるナリか?」
「いえいえ… あの、なんて言うか… オレのカノジョよりイケてるんで」
「そりゃどうも…」
ヤバい。こいつ 残念なイケ麺くんだ。 さっさと断ろう!
「あぁ、そんなのどうでもいいからさ。悪い事言わない。別のコにしな」
「どうしてですか?」
「アンタが気に食わないから」
「笑ったこと、謝ります。だからそんな事、言わないでください。 オレ、あなたを気に入ってしまったから」
「あのね。そういう一方的なシステムじゃないのね。ウチは。女の子側も拒否権ってのが、あるの。でね、あなたは拒否られてんの」
「それは…傷つくなあ」
「そう? アンタみたいな残念なイケ麺は少しは傷付いた方が世の為なの」
「世の為、ですか?」
「今だってカノジョ裏切って私達みたいのを呼んでんじゃん」
「それはですね…」と言い掛けたカレを私は制した。
「これ以上座んなきゃじゃ、なんか頼むわ。話はそのあと」
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今日は日差しが強い。
この席じゃエアコンが日差しに負けてしまっていて、私は思わず襟刳りに指を引っ掛けてパタパタしてしまう。
あ、
「キミ、ガン見はやめようね」
慌てて目を伏せてやんの
微妙にからかいたくなるオーラだよね…
だからストローでクルクルかき回したくなって、アイスコーヒーにした。
「んで、どういう申し開きなわけ」
「ここ、お白洲ですか?」
「そうだよ、キミは人様の貴重な時間、いただいているんだからね」
「わかりました。よろしくお願いします」
「よしよし、言ってみな」
「オレ、中学は野球で丸坊主で、高校は男子校だったんですよ。だから女の子と付き合うというか、出会いっていうの…全然無くて。だって、オレ高校の学祭で女装してウェイトレスやったんですよ」
私は吹き出してしまった。で、笑いで肩を揺らせながら返してあげた
「それは…残念だったね。じゃあ今の…カノジョは初めて?」
「はい。 だからすごく嬉しいし、ドキドキする事もいっぱいあって」
「ちょっといい? じゃ、なんで私らが必要なの? リア充をふつーに楽しめばいいじゃん」
「それなんですよ。関係が深くなって、あの、キスとか」
『声上ずってるし…』と私は心の中でウケまくっていた。恋バナってなかなかに面白いと知った。
「ガチガチだったんですけど…」
「まあ、歯がぶつからなきゃイイんじゃね」
「カノジョは…たぶん、いや、きっと経験者なんですよ。共学だったし…」
悪かったな!私は女子高だったけど、ウッてたよ
「舌を、ですね。カノジョから入れてきたんですよ…」
「まあ、良かったじゃん」
「そうじゃなく!!これって経験済みってことじゃないですか?」
「そんなのわかんないよ。お尻に“経験済み”ってハンコでも押してるわけじゃないんだから。だいたいチマチマしたこと言うなよ!」
「そうは言いますけど…色々不安じゃないですか… 段取りとか…それに…」
「それにって何よ!」
「悔しい」
私は頭ガリガリした。
全く、男ってヤツは!!
すぐこれだ!
「カノジョのすべてを欲しがるのは傲慢だよ。それより私らとのエッチなんかに使うんじゃなくカノジョの為にお金使いな」
イケ麺くんはコーヒーカップを前に黙り込んだ。
あ~あ、やっぱり今日出て来るんじゃなかった。
う~ん、イヤな予感したんだよなあ
私はかなり深いため息をついた。
「表の黒のワンボックスカー見えるだろ?! あれ事務所の車。行ってキャンセル料払ってきな。そしたらそれに見合う以上の食事を奢ってやるよ。キミたちが行かない様なお店でね」
。。。。。。。。。。
イラストです。
樹くんと冴子さん
今回、書くにあたって『Twistin' the Night Away』をサム・クックによるオリジナル・ヴァージョンとロッド・スチュワートによる同曲のカヴァーの両方を改めて、聴き比べました。
で、私はロッド・スチュワートの方が♡です。