表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/23

第22話 ノート 黒煙 黒歴史

雨を待つ間に、カフェ“のおあ~る”で手伝いをし始めた一行。もう一週間が過ぎようとしている。四人が交代でやっているとはいえ、仕事にも随分慣れてきた。

今日はフウマが手伝いをする日。お客さんの少ない平日の午後。フウマは店内の掃除をしていた。布巾を手に持ち、雑誌がたくさん置いてある本棚のホコリを拭く。雑誌を一つひとつ手に取り、丁寧に拭いていた。

ふと、雑誌の中に一冊の大学ノートがあるのに気づいた。


「ユウゴさん、このノートはここに置いておいていいの? 誰かの忘れ物が紛れ込んでいるとかじゃないのかな?」


「ああ、それね」


ユウゴはニヤニヤと笑いながら、フウマの持っているノートを覗き込んだ。


「懐かしいな。それはアルゴが中学生の時に書いた小説だよ。ゴミ箱に捨ててあったのを拾って置いておいたんだ」


「ええ!?」


フウマは耳を疑う。この家庭にプライバシーというものは無いのだろうか。それともデリカシーというものが無い?


「結構気に入ってるんだ。今はお客さんもいないし、フウマも読んでみるといいよ」


「よ、読んでいいのかな?」


アルゴが一度は捨てたものを、拾ってお店に置いて、それを自分が読む……。この違和感は、アルゴだけが被害を受けていることに起因している気がする。

アルゴには申し訳ないけれど、好奇心には勝てない。フウマはノートを開いた。





『黒煙を纏う銀河のワルキューレ』



目の前には、ビッグボーイの入り口横に置いてある巨大な人形がある。舌を出してコック棒をかぶった男の子は頭身が低く、下からライトで照らされていて薄気味が悪い。今にも動き出して殴りかかってきそうな狂気を帯びている。

僕はその人形を見つめているのに夢中で、五トントラックが後ろから迫っているのに気づかなかった。

僕の体は吹き飛ばされ、宙を舞っているのが分かる。もはや体は全く痛くない。ビッグボーイの人形と目が合ったのを最期に、僕は意識を手放した。

僕はママのお腹の中にいた。

「胎児だ! 胎児では何もできないよ~」

隣には僕と一緒に転生してきた赤ちゃんトラックもいた。

「バブルン、バブルンブブ」

赤ちゃんトラックの排気口で煙たい思いをしながら僕は生まれた。赤ちゃんトラックが無事に生まれることは無かった。でもいつも僕の心の中にあいつはいる。僕を轢いて、僕と一緒にママのお腹の中で栄養を分かち合ったトラック。

「車には気を付けんとあきまへんで……」

空を見上げると、いつもあいつの声が聞こえる気がする。


僕は右手に持った、あんドーナツに力を込めて燃やし尽くした。生まれ変わった僕は黒炎を操る魔女。迫りくる敵から身を守り、ついでに何か他の物も守るべきだ。

後ろを振り返ると、宇宙からやってきた僕の恋人、ガイガが立っていた。

「あと1874秒で、そこに隕石が降ってくるんですけど、何か?」

「ガイガ、会いたかったよ」

「私もですけど、何か?」

ガイガの言う通り、隕石が降ってきた。五トントラックと同じくらいの大きさだ。僕は生まれることの無かったトラックの赤ちゃんを思い出す。

「バブルルウン」

隕石の唸り声だろうか。

僕は右手に再び力を込める。システム良好。コード認識。システムオールグリーン。僕は左腕の排気口から立ち昇る煙を確かめながら、右手の黒煙を一か所に集中させる。

隕石にゼロ距離で黒煙の塊をぶつける。周りに被害を出さないように、左腕の排気口は出力最大だ。

「成仏しなはれや……」

辺りは黒煙と爆発に包まれる。


目が覚めると白い天井。白いカーテンに包まれた部屋。僕は病室にいた。左腕に繋がれたチューブ。チューブの先にある液体の入ったパックには「MOJAMILK」と書かれている。モジャという生き物から分泌される体液には、ドラゴンフルーツ770個分の栄養が含まれている。食糧難になった世の中を生きていくには、モジャミルクが必要不可欠になっていた。

寝ている間に僕は夢を見た。成仏しきれなかったトラックの赤ちゃんは、隕石となって再び僕を殺しに来た。でももう大丈夫だ。僕の黒煙に包まれ、排気ガスを思い出して安心したはずだ。もう天国に行けただろう。

「さ、ロイホ行くか」

僕は立ち上がって病院から出た、ロイホのパンケーキが無性に食べたくなったのだ。

「大将! パンケーキください。バリカタで」

厨房の奥から出てきたのは、ガイガの生首を持ったコックだった。舌を出して下からライトで照らされている。ビッグボーイの悪魔だ。

ガイガの生首が目を開けた。

「力及ばずですが、何か?」

「ガイガ、会いたかったよ」

「私もですが、何か?」

僕は左腕に繋がれたモジャミルクを、ビッグボーイの悪魔に向かって投げた。ただの目くらましのつもりだったが、やけに苦しんでいる。悪魔の顔面から滴り落ちるモジャミルクが床に落ちて、床がジュウウと焼ける音がしている。モジャミルクとはいったい何なのか。

僕はビッグボーイの悪魔に向かって走り出した。その一歩目から、僕は深い深い穴の中に落ちていった。






「え! ここで終わり!?」


「そうなんだよ。続きが読みたいから昔、書いてって言ったことがあるんだけど、すごく怒られてね」


「それは怒る……。僕が読んだこと、アルゴには秘密にしておいてね」


フウマはノートをそっと本棚に戻した。いつかアルゴがここにノートがあることに気付くかもしれない。その時は知らなかったふりをしておこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ