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第19話 OPEN 来店 占い師


アルゴの実家、カフェ“のおあ~る”は、ミケランドールの郊外で経営していた。地元の人に愛されている小さな商店街。その一角に、目立たず落ち着いた雰囲気の店を構えている。おしゃれに文字をデザインされた黒板メニューが興味をそそられる。ふと立ち止まって黒板の文字を読み、店内を覗き込んでみたくなる。

テーブルが8つとカウンター席が7つの小さな喫茶店だ。ミケランドールの特産品である陶器で食器を揃え、地域の食材を活かした季節の料理が人気の秘訣だ。その時期、その店でしか味わえない地域の味。何十年とその土地に住んでいたとしても、気づかなかった味に出会える店にしたい。それがこの店の目標だ。地元で愛される名店になるには、まず店の方が地元を愛さなければいけない。

“のおあ~る”の店主であるアルゴの父、ユウゴは早朝に起きて、一杯の牛乳を飲むのが日課だった。








貯金が目標の金額を超え、ユウゴはいくつも掛け持ちしていた飲食店の仕事を辞めた。いよいよその時が来たのだ。

以前から目星をつけていた土地に店を建て、テーブルやイスを運び入れて、食器や調理の機材にもかなりこだわった。それだけでも貯金は底を尽きようとしていたが、夢だった自分の店を整えることができた。苦節うん十年かけた自分の夢。

やっとのことで、カフェ“のおあ~る”は開店した。


「……客がこない」


ユウゴは大きくため息をついて窓外を見つめる。

人通りは少ないわけではない。開店して三日目。なぜ一人もお客さんは入ってこないのだろう。ため息をついていたって仕方ない。ユウゴは自分を勇気づけようと頭を働かせた。


「宣伝が足りないのだろうか。それとも皆ここが開店したての喫茶店だと気づいていないのか。外から見える店内が暗い雰囲気で入りづらいのだろうか」


ユウゴは一度外に出て、店内を見てみた。するとすぐにお客さんが入らない理由に気付くことができた。

立て札が“CLOSE”のままになっていたのだ。

ユウゴは苦笑いしながら立て札を回転させ、“OPEN”と書かれた面を表にする。


「これでとりあえず解決したかな。……店内の雰囲気も、ちゃんと清潔感があって明るい。落ち着いてて良い店だ」


ユウゴは一人でうんうんと頷いて自画自賛し、店の中へ戻った。


お昼時になり、一人の女性客が現れた。キョロキョロと見回しながら扉を押す。ドアベルがチリンチリンと涼しい音を立てた。


「いらっしゃいませ! お好きな席へどうぞ」


ユウゴは張り切ってお冷とおしぼりをお盆に乗せて持って行った。入り口から近いカウンター席に座った女性の前に置く。


「一人で初めての店に入るのって緊張しますよね。ご来店ありがとうございます」


「いえ、今日は行ったことが無いお店に入るのがいいって、占いで言っていたんです」


その女性が初めてのお客さんであり、アルゴの母、シイカだった。

ユウゴとシイカはすぐに意気投合した……。とは言えなかった。ユウゴのあまりの頼りなさに、シイカはいつもハラハラしていた。いつかお店が火事になって死ぬのではないかと考えていたが、料理はどれも最高に美味しかった。







「それでその後もね、パパったらね! お水のおかわりを入れようとして私の膝をびしょびしょにしたり、レジ打ち二桁間違えてぼったくろうとしたり! もう最高にドジっ子でびっくりしちゃったんだから!」


「アルゴくんみたい! かわいい~!」


アルゴの実家を訪ねた一行は、矢継ぎ早に繰り出されるシイカの惚気話に付き合っていた。ルーシェルはこの手の話が大好きなので、二人は異様な盛り上がりを見せている。


「ママ、もうやめてよ。しょっちゅう昔のことを掘り返される私の身にもなってくれよ」


ユウゴは少し顔を赤らめてため息をつく。


「いいじゃない。あの時の思い出のおかげで、こんなにパパにメロメロなんだもん! パパの作るカルボナーラはあの時と変わらず絶品よ」


「ママ……!」


ユウゴとシイカは抱きしめ合い、親密な視線を交わす。


「もう……パパは私がいないとお料理が天才的なだけのドジっ子なんだから……。私がホールにいないと、パパの世界一のお料理だけじゃお店が崩壊するんだからね……」


「ママ、いつもありがとう……」


それを傍らで見ていた息子のアルゴは、げんなりとした顔で目をそらす。

「オ、オエエ」


「アルゴくん、仲良しでとっても素敵なご両親ね! いいお話聞けて感動しちゃった~!」

ルーシェルは大はしゃぎでアルゴに言う。


「もう僕は何万回聞いたか分かりませんから……。飽き飽きしてるんです……」


「いいご両親だよ。こんなに美味しいものを食べて育ったなんて羨ましいよ」


フウマは海鮮ドリアを食べながら、左手には自家製の焼きたて枝豆チーズパンを食べている。


「ああ。親の仲がいいのは良い事だな。ちょっと変わってるけどな」


ガラは珍しくアルゴが意気消沈しているのをニヤニヤ笑って見ていた。ウインナーコーヒーを飲みながら、フウマの小皿からパンをつまむ。


「みんな他人事だと思って。ほんとに疲れるんですよ。自分の両親がいちゃついているところを見てるのは」


アルゴはやれやれと言いながら、横目で両親を見てハッとした。


「こらあ!! 人前でキスをするなあ!!」


「いや~ん」

「ははは」


ユウゴとシイカは楽しそうに息子に引きはがされている。

ルーシェルはそんな親子の様子を、楽しそうにニコニコしながら見ていた。

「(きっとアルゴくんと結婚したら、こんな風に毎日楽しく過ごせるに違いない……)」


シイカは立ち上がった。落ち着いた紫色のワンピースが翻る。

「それじゃあ若者たち、喫茶店”のおあ~る”のホール担当、兼占い師のシイカ様が、旅の行く末を占ってあげましょうか?」


フウマはシイカを見た。シイカの瞳は薄緑色に輝いていた。


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