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第14話 木陰 告白 朝焼けの空

ルーシェルは悩んでいた。

アルゴの旅の目的は、サンニャーチコにいる兄弟に会いに行くことだ。それが果たされた今、アルゴとはもう一緒にいられないのだろうか。

フウマ達と一緒に旅をしていたい。しかし、アルゴと離れるのは耐え難かった。

アルゴは今後の行く先をどう考えているのだろうか。それが気になって夜も眠れない。


ルーシェルは考えるよりも感情で行動するタイプ。

涼しい木陰に座って、一人で読書をしているアルゴを見つけて飛んでいった。


「アルゴくん、そこ涼しそうだね。私も座っていい?」


「どうぞ。涼しいですよ」

アルゴはそう答えながら、隣に座れるように少し体をずらす。


「あ、あのね」

ルーシェルはアルゴの隣に座り、改まった顔でアルゴに聞いた。


「明日の朝、フウマとガラはハナマチに出発するんだって。その、ア、アルゴくんはどうするの?」


「それなんですが」

アルゴは読んでいた本を脇に置いて、ルーシェルの目を見た。真面目な顔をして答える。


「僕も着いて行っていいかどうか聞こうと思ってたんです。旅の道中で、大学の植物学の研究を進められると思って同行したいんですけど……。何分、僕は戦いが苦手なものですから、完全に足を引っ張るかもしれません。やっぱり駄目でしょうか? ルーシェルさんはどう思いますか? 僕が着いて行くことには反対でしょうか?」


ルーシェルはアルゴの言葉を聞いて、思わず立ち上がった。放心状態で青空を見上げる。晴れ渡った空には、少しだけ白い雲が流れている。


「ルーシェルさん? どうかしましたか?」

アルゴはいきなり立ち上がったルーシェルを見上げる。何かまずいことを言っただろうか?


ルーシェルはしゃがんでアルゴに詰め寄る。その顔はニコニコと効果音が聞こえてきそうだ。喜びで頬が上気して、その少女のような可愛らしさにアルゴは心臓がドキリと跳ねるのを感じた。


「アルゴくん、着いてきてくれるんだね! 約束だよ! 私もうこの耳で聞いたからね!」


ルーシェルは突然。草の上に寝転んで大人しくなる。目を閉じて風の音を聞き、隣にアルゴがいることの喜びを噛み締めているようだった。顔の近くでブウンと羽虫が飛んでいる。それすらも愛おしく感じる。


「よかった……。安心しちゃった。もしアルゴくんとここでお別れになったらどうしようかと思っちゃった。私、アルゴくんのこと大好きだもん。そんなの辛すぎるよ……」


「え?」

アルゴは目をパチクリさせてルーシェルを見た。


ルーシェルは飛び起きて、またアルゴの方に体を寄せた。そういえば、まだ質問に答えてなかったなと思い出したのだ。


「アルゴくん、安心してね。フウマとガラはアルゴくんがいてとっても楽しそうにしていたし、一緒に旅をするのを断ったりしないよ。それにね、もしアルゴくんが危ない目に遭ったりしたら、私が絶対助けてあげるから!」


「あ、ありがとう……」

アルゴはドキドキと高鳴ったままの心臓を手で抑える。顔が赤くなっているのが自分でもよく分かった。ルーシェルに赤くなった顔を見られないように、顔を背ける。


「よかった! もやもやしてたのが馬鹿みたい! もっと早く聞いてみたらよかった! そうだ! 早速フウマとガラに伝えて来てもいい?」


ルーシェルは今にも飛び出していきそうだった。アルゴは慌ててそれを止める。


「ま、待ってください! 僕のことですから、僕が相談してきます。ルーシェルさん、よかったら一緒に来てくれませんか?」


「あ、そ、そうだよね……」


アルゴに優しく制されたことで冷静になったルーシェルは、一人で舞い上がっていたことが急に恥ずかしくなってしまった。

顔を赤くして俯くルーシェル。


アルゴはルーシェルの手を取って言った。

「僕もルーシェルさんのこと、好きですよ」


「ええ!?」

ルーシェルは飛び上がらんばかりに驚いてしまった。慌てて、繋いでいる手とアルゴの顔を交互に見比べる。アルゴに言われたことが、がなかなか理解できていないようだ。


「『僕も』って!? わ、私、アルゴくんのこと好きって言っちゃったのかなあ!? え、え、それに、アルゴくんは私のことどういう意味で好きなの!?」


「さ、事務所に戻りますよ」

アルゴは聞こえないふりをして、ルーシェルの手を引いた。


訳も分からずルーシェルは着いて行くが、嬉しくなって、繋いでいる手をぎゅっと握り返した。








あくる日の早朝。これから太陽が昇り始める、まだ肌寒い時間。森の中のフクロウが、一日の狩りを終えて眠りにつく時間帯。フウマ、ガラ、ルーシェル、アルゴは馬車の荷台に座っていた。御者台にはリズとルーがいる。サンニャーチコの国境の門まで送ってもらっているのだ、


アルゴはリズとムーと話をしている。

フウマはガラとルーシェルの前で、森の中で出会ったサチコ様を呼んだ。荷台に現れたサチコ様は、ミケ様と一緒に現れた、二匹はべったりくっついて離れないが、ミケ様はちょっと鬱陶しそうな顔をしている。


「わ! ここの守り神様も三毛猫だったのね。模様が全然違ってかわいい~」

ルーシェルはおいでおいで~と言いながら撫でようとするが、サチコ様はビクビクして近寄ろうとしなかった。人見知りなのだ。


「ガラは「うっ」と言って少し距離をとる。


フウマはサチコ様に聞いてみた。

「きみももしかして、僕の願い事を聞いてくれる?」


サチコ様はニャーと可愛い声で返事をした。


「よかった。お願いがあるんだ。あのね、魔物が理不尽に人間に殺されないような、そんな世の中になるといいんだけど……」


サチコ様はジッとフウマの顔を見ているが、困ったように首をひねる。

フウマは慌てて訂正した。


「そうだよね。ちょっと具体的じゃないし、ふわっとしてるよな……」


ガラは怪訝な顔をしてフウマに聞いた。

「おい、ミケと違ってこいつは喋らないじゃねえか。お前、ちゃんと話が通じてるのか?」


「大丈夫。僕には分かるよ」

フウマは少し考えて、またサチコ様に言った。


「じゃあね、ここで保護された魔物たちが、もう危険に晒されずに、ずっと安心して生きていけるようにしてくれないかな」


サチコ様はニャーともう一度言った。

するとサチコ様の体は白い光の塊になった。上空に飛んでいったかと思うと、その光は花火のように爆発し、保護区中に四散した。

三人がその光を見届けて目を荷台に戻すと、サチコ様は何食わぬ顔でそこにいた。ミケ様の顔をぺろぺろと舐めている。


「ありがとう!」

フウマはサチコ様の体をよしよしと撫でた。サラサラとした手触りだとても気持ちいい。


「ちょっと! 今の光は何? あんた、また何かしたんじゃないでしょうね?」

リズが荷台に振り返ってフウマに言った。怒っているというよりも、先ほどの綺麗な光が何だったのか、気になっているようだ。


フウマはリズに向かってニッと笑って言った

「何でもないよ。何だか綺麗だったね」


気づくとミケ様とサチコ様の姿は見えなくなっていた。フウマの胸の中は、二匹の守り神様のぬくもりでポカポカしていた。





「また来てくださいね。皆さんがいてくれてとtも楽しかったです。ほら、姉さんも挨拶しなよ。昨日あんなに出発を悲しんでたくせに」


「ちょ、ちょっと! 余計な事言うと殺すわよ!」

リズは顔を真っ赤にしてムーに怒っている。リズは口下手だけれど、心の優しい女の子だということは、この三日間で全員が分かっていた。双子の押し問答を微笑ましく見守る。


「あの、あの、また……」

リズはもじもじしながら小さく言い始めた。


「また、来てくれたら、その時はもっともっと魔物のこと教えてやるんだから!! 今度はもっとゆっくりしていきなさいよね!!」

リズは俯きながらも、怒鳴るようにそう言った。


「うん! そうするよ。ありがとうリズ。また来るよ」

フウマは小さい子をあやすように、リズの頭をよしよしと撫でた。

以前のリズなら嫌そうに手を払いのけていただろう。しかし、フウマの優しさに触れ、自分の頼れる姉のように感じていたリズは、大人しくその手を受け入れた。


リズとムーに見送られ、四人はサンニャーチコを出る。

二人は、フウマ達が見えなくなるまでずっと手を振っていた。


「優しい子たちだったな」


「そうだな」


フウマはしばしの別れに悲しくなってしまう。ガラは慰めるように、フウマの肩に手を置いた。


「大丈夫! 皆でまた会いにこようよ。アルゴくんの家族だもん。またすぐ会えるよ!」

元気よくルーシェルは言った。


「そうですね。あの子たちは優しくてしっかりした子たちです。僕は誇りに思います」

アルゴは嬉しそうに笑っている。


心の優しい人のところには、心の優しい人が集まっていく。


サンニャーチコの朝露は、優しく旅人たちを包んでいた。

気づくと太陽が昇り、森の中を朝焼けが照らし始めている。朝露がキラキラと輝き、新しく始まった一日を祝福しているようだった。


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