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第13話 カラフル 金髪 家族の再会

フウマはリズの自室を訪ねた。会ってから一度もリズが話しているのを見たことが無い。フウマ達に警戒心や不信感を抱いていることは嫌でも分かる。

話をしてくれるかどうかは分からないけれど、フウマはリズと話したいことがあったのだ。


扉をノックしても返事はない。フウマは思い切って声をかけてみる。

「リズ、おはよう。フウマだけれど、ちょっと話したいことがあるんだ。ここの保護区を見せてもらって、僕は考えが変わったよ。よければリズに直接、いろんな話を聞いてみたいんだけど……」


フウマは反応のない扉に話しかけている気がして言い淀んでしまう。扉の向こうにリズは本当にいるのだろうか?


突然扉が開いて、リズが顔を覗かせた。ジッとフウマのことを見つめている。

しばらく二人は見つめ合っていたが、リズは扉を広く開けて、無言でフウマを中に招き入れた。


フウマは嬉しくなって、リズにお礼を言って中に入る。


リズの部屋は綺麗に整頓されていたが、全方向の壁に備え付けられた本棚には、本がぎっしり詰まっていた。そのほとんどは魔物の生態や分布に関する研究書と論文のようだった。

ベッドの枕元には魔物の写真集がある。


「わあ、凄い。本当に魔物が大好きなんだな」

フウマは壁の本の背表紙を興味深そうに眺める。


「そんなことはどうでもいいから。で、考えが変わったってのは何のこと? 私はあなた達みたいな旅人と違って忙しいの。話はちゃんとまとめてから話してよね。質問はひとつだけよ」


「は、はい」


リズは見た目通りの可愛い声に似合わず、かなり高飛車で刺々しい話し方だ。

フウマは少し驚くが、その傲慢ともとれる態度はリズにとてもよく似合っていた。


「なに突っ立ってんのよ。そこのスツールに座りなさい」

リズは事務机に座り、ベッドの横にある紫色のスツールを指さした。


「はい。失礼します」

フウマは言われたとおりにそのスツールに腰掛けた。

途端に言い知れぬ笑いがこみ上げる。笑ってはいけないと思いながらも、なぜかツボに入ってしまったフウマは必死で肩を揺らしながら俯いて笑いをこらえた。


「何? 笑ってるの? なにがおかしいのよ。ふざけてるなら出て行ってもらうわよ」

リズは怪訝な表情で、うざったそうにフウマを見る。


「ご、ごめん。……ふざけてるわけじゃないんだけど、なんか……。リズがあんまり可愛いもんだから、笑えてきちゃって……」

耐え切れなくなったフウマは思い切り笑い出す。


リズは驚きと恥ずかしさと、馬鹿にされたような怒りで顔を真っ赤にしている。

「や、やっぱりふざけてるんでしょ! 怒るわよ!」


「ご、ごめん! だってリズが可愛いから!」

フウマは楽しそうに笑っている。


むううとリズは顔を赤らめたまま、笑うフウマを見ていた。

ふとリズは気づいた。こんな風に笑ったことって、もう何年もないかもしれない……。



「はあ、笑った笑った」

ようやく落ち着いたフウマは目尻の涙を指で拭う。


フウマが笑い疲れるころには、リズはフウマを無視して机で書き物をしていた。


「リズ、あの、話が逸れちゃったけどさ」

フウマはようやく本題に入った。真面目な顔で、誠心誠意を言葉に乗せる。


「僕はこれまでの旅で、保身のために魔物を殺したよ。でもこれからは絶対に魔物を殺さない。約束するよ、リズ。ここで魔物の為に働いているリズに誓う」

フウマは胸に手を当てて言った。


リズはフウマの方に体を向けて、真剣な顔で聞いた。

「凶暴な魔物に殺されそうになったらどうするのよ。それでも魔物を殺さずに、自分が死ぬとでも言うの?」


「その時は、身を守るために危害を加えてしまうかもしれないけど、決して殺しはしないよ。僕が死ぬつもりもない。……僕は強いんだ。これからもっともっと強くなって、魔物を殺さずに自分達の身を守ってみせるよ」

フウマは笑って言った。その言葉は確信に満ちていた。


「ふう~ん」

リズは腕を組み、フウマの目を見た。


「……今回、私たちがアルゴ兄さんを呼んだのは、見せたいものがあったからよ。兄さんだけに見せるつもりだったけど、あんたにも見せてやってもいいかもね」

リズはそっぽを向いて、ぶっきらぼうにそう言った。





リズの操る馬車に乗って、アルゴとフウマは“見せたいものの”のところまで案内してもらっていた。

ガラとルーシェルは、ムーの手伝いも兼ねて保護区内をパトロール中だ。


「リズ、どこまで行くんだ?」

アルゴは御者台のリズに聞いたが、リズはプイとそっぽを向いて答えない。


「着いてからのお楽しみってことだな」

アルゴは特に気にする様子もなく、楽しそうに笑っている。


森を抜け、大きな川に架かる橋を渡り、沼地を慎重に通り抜け、なだらかにそびえる山の麓についた。

山に入る小道の前で馬車を止める。


「この山の中に謎の祠があるの。周りをカラフルなきのこで覆われていて、近づいていいのか不安だし、祠は人工物みたいに見えるから気になってて。森に詳しい兄さんに見てほしかったのよ」

リズは突然喋り出す。


「おお! リズ久しぶりだなあ」

リズの声を聞いて、アルゴは喜んだ。


リズは森の中へと続く小道をどんどん先に進んでいく。フウマとアルゴは、リズを見失わないように、慌てて後を着いて行った。


しばらく進んだ先に、周りを一面きのこで覆われた、石碑のようなものが現れた。きのこは見たことも無いほど色とりどりで、大きさもカサの形もバラバラだった。その統一性のなさや異様な雰囲気で、一目で近づいてはいけないような恐ろしさを感じる。


「あの中央にある祠のようなものが気になっているの」

リズはきのこの群れの中央に指を差してアルゴに言った。


「なあんだ!」

アルゴは拍子抜けしたように呟いて、きのこの中を歩いて行った。


リズは慌ててアルゴに叫ぶ。

「ちょっと! だ、大丈夫なの?」


「大丈夫。これはハリマクタケといって、見た目の凶悪さとは逆に無害なきのこだよ。普通に食べられるものだ。こんなに大きくて広範囲に群生してるのは初めて見たけどね」

アルゴは手近なきのこを一つ手に取って眺めている。


「そうだったんだ……」

リズはおそるおそるアルゴの後を追ってきのこの群れの中を歩いた。祠を調べようとして、カバンからノートやペン、巻き尺を取り出す。


「こんなにすごい色をしてるのに食べられるのか。美味しいのかな」

フウマはリズに着いて行きながら、物珍しそうにきのこを見ている。


「炒めると美味しかったですよ」


「食べたことあるのか!? すごいな……」


フウマとアルゴの会話を尻目に、リズは祠に小さな扉になっている部分を見つけて、指をひっかけて開けてみた。

長年安置されていたであろうにも関わらず、意外にも扉はすんなりと開いた。


中から一匹の三毛猫が飛び出した。

三毛猫は、突然扉が開けられたことに驚いたように、慌てて周りをうろうろし始めた。

その三毛猫は、太陽が当たっているわけでもないのに、キラキラと光って見える。


「あ!」

フウマはそれを見て度肝を抜かれた。

一目見て、その猫が探し求めている”守り神様”だとわかった。

フウマの背後から、どこからともなくミケ様が現れる。

祠から飛び出した守り神様は、ミケ様に気づいてニャーンと甘えに行った。二匹はゴロゴロと喉を鳴らしてじゃれ合っている。


フウマは呟いた。

「僕もここに着いてきてよかった……」


フウマはリズとアルゴに説明した。

この二匹は探し求めていた守り神様だということ。

ミケ様はミケランドールで出会った守り神様だということ。


「ふう~ん。つまりこの祠は守り神様を祀るためのものだったわけね」

リズは祠の内部に文字が書かれているのを見つけ、懐中電灯で照らして読み始めた。

「『サチコ様、ここに眠る』」


「君の名前は、サチコ様なんだね」

ミケ様に体を摺り寄せているサチコ様を、フウマはよしよしと撫でた。ミケ様はサチコ様に擦り寄られて、ちょっと鬱陶しそうにしている。


サチコ様はジッとフウマを見つめ、ミケ様と共に、フウマの中に入っていくようにして消えてしまった。


「あ、そうだったのか」

フウマは胸に手を当てて、二匹の存在を確かめながら気づいた。

「サチコ様は、ミケ様の子どもなんだね。またお母さんに会えてよかったな。これからはずっと一緒だ」


空っぽになった祠でずっと眠っていたサチコ様は目を覚ました。フウマとともに、ミケ様にゴロゴロと甘えて過ごしている。

フウマは胸の中が暖かく、自分もサチコ様のように心から安心していることに気づいた。


「さ! もやもやしてた謎の物が判明したし、暗くなる前に帰るわよ。さっさと馬車に乗りなさい」

リズはパンパンと両手を叩いてアルゴとフウマに言う。空はもう日が落ち始めていた。


事務所へと帰る道すがら、リズはアルゴに言った。

「兄さん、ありがとね。……協力してくれて」

リズの頬は夕日に照らされたせいか、恥ずかしがっているせいか、燃えるように真っ赤だった。


「うん。また何かあったらすぐに来るから」

アルゴは妹の頭を優しく撫でた。


フウマは不器用ながらも信頼しあっている兄妹の会話を聞きながら、嬉しそうに口角が上がる。


馬車は夕日の中を進み、帰るべき場所へと車輪の音を響かせている。

リズの金色の髪が、キラキラと揺れた。


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