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第11話 絶滅 カラゲル 魔物の涙

サンニャーチコへ入国するには、やけに分厚く頑丈な門をくぐり、その奥の建物で入念なボディチェックをされ、しつこいくらいに多種多様な質疑応答をする必要があった。

フウマ、ガラ、ルーシェルは国境を超えるのは初めての経験で、どこの国でもこんな風に身分を証明する必要があるのかと面食らっていた。


ルーシェルは書き終えた書類を窓口に提出し、やれやれとため息をついて肩を回した。

「出身地とか今まで人生で行ったことのある地名とか、昨日何を食べたかまで、入国に何か関係あるのかな? 事務仕事でもした気分だよ~」


ガラは淡々と、服についている金物を外してトレイに入れる。

「ついでに健康診断もしてもらえるなんてラッキーだろ」


金属探知機の機械をくぐりながら、アルゴは言った。

「いやあ、サンニャーチコの入国審査は噂通り厳しいんですね。やることが多すぎて僕もちょっとくたびれてきましたよ。他の国はこんなに警戒はしないらしいですけど、サンニャーチコは国の性質上、仕方ないですよね」


フウマは腰に携えている刀や、護身用の小刀を一まとめにして金庫に預ける。武器の携帯も禁止されている。

「サンニャーチコの性質って? 何か特別なことをしてるのか?」


「特別も特別ですよ!」

アルゴは胸を張って自慢げに、よくぞ聞いてくれましたとばかりに嬉しそうに言った。


「サンニャーチコという国は、大規模な絶滅危惧種の魔物の保護区なんです。だから、管理外の生き物を持ち込まれるのはご法度ですし、密猟者の対策も万全です。そして僕の下の兄弟は、そこで立派に働いているんですよ。自慢の妹と弟です」


長時間に渡る入国審査を終えてしばらくすると職員によって結果が伝えられた。四人とも審査に通ったらしい。やっとサンニャーチコに入るためのゲートを通り抜ける。

そこには広大なサバンナが広がっていた。





緑色の大きな幌馬車が向こうからやってきて、ゲートを通った四人の前で止まった。大きな馬が二頭で引いている馬車は、貨物用の馬車なのだろうか。頑丈そうな荷台はボロボロに使い込まれている。


御者がアルゴに向かって手を振った。

「兄さーん!」


「ムー! 久しぶりだなあ!」

アルゴは御者台へ走っていく。その勢いのまま御者台によじ登り、弟のムーの体をべたべたと触っている。会えなかった三年間の長い隔たりを、触って確かめているようだった。

「しばらく見ないうちに背が伸びたなあ! 体もがっしりしたんじゃないのか?」


「ちょっとちょっと! お客さんもいるんでしょ! 恥ずかしいからやめろ!」

ムーはアルゴの手をあわあわと慌てながら遮る。


「みんな! 僕の弟のムーです」

アルゴは三人に言った。弟との再会と自慢の弟を紹介できることで、その笑顔はとても嬉しそうだ。


「ムーです。兄さんと同行してくださってありがとうございます。兄さんを呼んだのは良かったんですが、道中が凄く心配で……。なにかとご迷惑をおかけしたと思います……」

御者台から降りて三人に挨拶したムーは、まだ少年のような年頃だった。短い金髪に、動きやすそうなラフな服装。ぺこりと頭を下げて控えめに笑うその目元は、アルゴによく似ていた。


お互いに簡単な自己紹介を済ませる。


「どうぞ皆さん、狭いですけれど荷台に乗ってください。僕の働いている、保護区中央事務所までご案内します!」


アルゴは御者台の助手席に座り、三人は荷台に乗り込んだ。大きく開いた入り口に並んで座る。


「では行きますよ~!」

ムーは手綱を軽く振って、馬に合図を送る。蹄の音をポッカポッカと軽やかに響かせながら、馬車はゆっくりと進み始めた。


「ムーくん、さっきアルゴくんがご迷惑おかけしたと思うって言ってたけど、全然そんなことないよ。アルゴくんは命の恩人なんだよ」

ルーシェルは御者台のムーに向かって言った。


それに付け加えるように、ガラが言葉を続ける。

「道中にこけまくって何度も荷物をぶちまけるし、飲み水が減ってきたのにむせて全部地面にまいちまうし、すぐへたばって何度も休憩しなきゃいけなかったけどな。アルゴのおかげで薬草はいつでも見つけてくれるし、森の中の食べていいものに詳しいから食うには困らなくなったな」


「ガラさん、けなすか褒めるかどっちかにしてくださいよ。フウマさんも笑いすぎですって……」

アルゴは恥ずかしそうに少し頬を染めて、はあと溜め息をつく。


フウマにつられたように、ムーも楽しそうに笑う。

「なんだか楽しそうに言ってもらえて安心しました。あ、皆さん、進行方向から見て、右側をご覧ください」


ムーの保護区馬車ガイドが始まった。

そこには生き物の潜んでいそうな大きな巣穴がいくつかあった。中から長い角の生えた灰色のウサギが一羽飛び出してくる。


「あれはホーンラビットの巣穴です。角の価値が高くなって、乱獲されすぎて随分個体数が減ってしまったので、ここで保護しているんです。角はオスにしか生えないんですが、密猟者はそんなことはお構いなしですよ」


サバンナの砂地に住んでいるからか、毛はごわごわと固そうだ。幌馬車が通ることは日常茶飯事なのか、ホーンラビットは警戒する気配もなく、フウマ達を眺めていた。


「左手の少し遠いところですが、砂が動いているのが見えますか? スライムが動いているように砂が移動しているところです。あれはデザートスライムといって、単体で砂漠を移動して生活するスライムです。不純物の少ない綺麗な砂地でないと生きられないので、分布地が少なくなって個体数がかなり減っているんです。最近の環境汚染はサバンナにも影響するんですよ。それにゴミや焚き火の跡を始末しない旅人も増えてますしね」


フウマがよく目を凝らしてみると、確かに砂がひとりでに動いている箇所があった。


「前方をご覧くださ~い!」

ムーが何かを見つけて嬉しそうに言う。


前方には森が広がっていた。森の中に続く道が見えるので、おそらく馬車はあの道を通って森に入るのだろう。

しかし、森へ入る前の草原に小さな集落が見える。小枝で作られた建造物や、小石を並べて作った塀、フォークのような長さの槍が並べられている。まるで小人がたくさん住んでいるかのような大きさだ。


「あの小さな町はなに?」

フウマは驚いてルーに尋ねた。目は前方に釘付けだ。馬車が近づくにつれて、20センチほどのゴブリンがたくさんいるのが見えてきた。


「あれはリトルゴブリンの村です。少し前に、富裕層の間でリトルゴブリンを飼うのが流行ったんです。でもリトルゴブリンは自分たちで狩りをしないと段々凶暴になっていくのが知られていなくて、近くの森に皆リトルゴブリンを捨てていったんです。勝手な話ですよ。可愛いからといって飼い始めて、可愛くなくなると捨てるなんて。ここにいるリトルゴブリンは、生活に適していない場所に捨てられていたところを拾われて、保護しているんです」


馬車が集落の横を通る際、リトルゴブリン達は慣れ親しんだ友達のように近寄ってきて歓声をあげた。キーキーと高い声で盛り上がっている。

ムーはそれに応えて笑顔で手を振る。


「たしかに可愛い……」

フウマはぬいぐるみのような、フレンドリーで小さなゴブリン達に目を奪われる。


馬車は森の中に入った。

辺りはシンと静まり返り、冷ややかな空気は先ほどのサバンナとは別世界のようだ。


「左の楡の木に、コウモリがぶら下がっているのが見えますか? あれはファイヤバッドといって、体内に溶鉱炉のような機関を持つコウモリです。あのコウモリの肉がスパイシーで美味しいとかで乱獲されてしまって、以前は夜の森を支配する存在だったのに、今では絶滅の危機なんです。人間は流行りでものを食べるから、たまったもんじゃないですよ」


昼間なので夜行性の赤いコウモリはピクリともしなかった。大きな体で寝ていても、器用に木の枝にぶらさがっている。


「姿は見えませんけど、木をトントン叩くような音が聞こえますか? カラゲルといって、キツツキのように木に穴を開けて中の虫を食べる鳥です。尾羽がとても綺麗で、光に透かすと虹色に光るんですよ。カラゲルの尾羽を装飾に使った帽子が流行りまして……。これも乱獲されてしまいました。鳥を乱獲する密猟者はとても多いんです。何羽打ち落とせるか競争するんですよ。尾羽を付けたまま、打ち落とされて放置されたカラゲルで森が覆われた時期がありました。同じ命なのにとんでもない話です」


かすかに木をつつくような音が森の中に木霊している。

それは多くの仲間を目の前で打ち殺された、孤独なカラゲルの悲しい魂の残響に聞こえた。


フウマは俯いて荷台に座り込んでしまう。先ほどまでは目を輝かせて珍しい魔物を見ていたのが嘘のようだ。

小さな声で懺悔する様に、フウマは独り言のような小さな声でガラに向けて語り始める。


「僕は……旅の道中、たくさんの魔物を殺した。誓って言えるけれど、決して遊びで殺したり、お金や欲を満たすために殺したわけじゃない。……自分に襲い掛かってくる魔物だけを殺したんだ。でも、でも僕が殺した魔物にも家族があって、幸せな生活があったんだよな。人間は欲に忠実で怖い。……でも僕も同じ人間なんだ」


落ち込んでいるフウマの隣に座り、ガラは無言でフウマの頭を撫でた。


「みなさん着きましたよ~! あの簡素な建物が保護区中央事務所です」


馬車の前方に見えてきた建物は、ありふれた二階建ての家だった。

事務所の前で小さな少女がこちらを見ている。綺麗な金髪を後ろで一つ結びにして、清潔そうな白衣の下はTシャツに短パン。どこか不満げな表情でこちらを見ていた。


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