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第1話 旅立ち 海風 守り神

フウマは今日、旅に出る。


ここはハナマチという国の、はずれの片田舎。海の綺麗なのどかな町。フウマはずっと夢見ていた旅路の支度を終えたところだ。マントを羽織り、少ない荷物を持った。

短く切り揃えた髪が、軽やかに海風になびく。フウマの頬は嬉しさで上気している。


「父さん、母さん、行ってきます!」

フウマは元気よく両親に別れの挨拶をする。


「達者でな。体に気をつけろよ」

父は大らかに笑いながら、フウマの頭をわしわしと撫でた。

フウマは目を閉じて嬉しそうに笑う。


「手紙を書いてね。近くに寄ることがあったら絶対顔を見せてね。母さんはいつも美味しいご飯を作って待ってるからね」

母は涙ぐみながらフウマに言った。フウマは黙って母を抱きしめた。


「大丈夫! 僕が強いの知ってるだろ? 目的を果たしたら必ず帰ってくるから、それまでしばしの別れだ!」

フウマは歯を見せて母に笑いかける。


フウマは走り出した。名残惜しさはこの場に置いていこう。

後ろを振り返らずに、町を出る門を突っ切る。耳からは風を切る音だけが聞こえていた。




フウマは小さい頃から大のおじいちゃん子だった。いつも祖父の後ろを着いていき、一緒に遊んでくれとせがんでいた。祖父はそんなフウマを心からかわいがっていた。

幼いフウマが寝る前、枕元で絵本を読んで寝かしつけるのはいつも祖父の役目だった。


「今日はどれを読んでやろうかな~」

祖父は本棚を見回す。


「おじいちゃんあのお話をして! 守り神様の話!」

フウマは布団から飛び降りそうな勢いで祖父にせがむ。


「またあれかい。フウマはあの話が好きだなあ」

祖父は呆れてフウマを見た。

「もう一週間以上ずっと同じ話じゃよ?」


「いいから!」

フウマは大人しく布団に潜り込む。いい子にしていると、いつも祖父は甘やかしてくれるのだ。


「フウマがいいならいいんじゃよ。さてさて」

祖父はフウマの頭を撫でながら話し始めた。


昔々、この世界には四人の守り神様たちがいました。ある日神様たちは、人間が喧嘩をしているのに気づきました。

人間が好きな神様たちだったので、人間のために守り神として降臨することにしました。

四つの国を作り、それぞれが一つの国を統治することにしたのです。

ミケランドールという国には、ミケという神様。

サンニャーチコという国には、サチコという神様。

ハナマチとい国には、マチコという神様。

モジャラという国には、モジャという神様。

四人の神様はそれぞれの国を平和にし、人間に守り神として祀られました。

人間たちと守り神様は、今も仲良く暮らしています。


守り神様は人間に言いました。

「願い事あったら叶えるよ~」

守り神様と仲良くなった人間は、願い事を一つ叶えてもらえるそうなのです。

しかし、気まぐれな神様の事です。叶える願いも気まぐれで選ばれます。

日照り続きの地域に雨を降らせたり、川の流れを変えて便利にしてもらったり、空を飛んだり、恋を成就させたり。

神様はなんでもできるのです。


願いを叶えてもらうために、神様と友達になることはできません。そんな心は神様にはお見通しです。

神様が本当に好きになった人間。そんな心の綺麗な人間は、いつもどこかから現れるのです。




「フウマ、このお話の守り神様は本当にいるんじゃよ。心の綺麗なフウマのことを、いつもどこかから見守ってくれているよ」

フウマの祖父は、フウマがスヤスヤ眠っていることに気づくと、音をたてないようにそっと部屋から出ていきました。




それから月日は流れた。祖父の枕辺でフウマは祖父の遺言を聞いていた。

「フウマ、お前の大好きだったあの守り神様のお話はな、ただの童話じゃない。本当にあった話なんじゃよ。今も守り神様は、人間と仲良く暮らしている。気になったら探してみなさい。フウマは心が綺麗だから、きっと守り神様とも友達になれるだろうよ。……ここから東に行ったところにメイランという小さな村がある。村長を訪ねなさい。私の旧友だ。守り神様のことを詳しく教えてくれるはずじゃ」

祖父はフウマに地図を手渡した。メイランという村を指し示してフウマに教えた。


「うん。おじいちゃんありがとう。僕は守り神様に会ってみたい。きっと旅に出て、行ってみせるよ」

フウマと祖父は笑い合った。


次の日、フウマの祖父は亡くなった。

雲一つない、青空だった。


祖父の墓前でフウマは誓いを立てる。

「〈おじいちゃん、僕は旅にでるよ。おじいちゃんの思い出と一緒に、思い出の童話を確かめに行く!〉」

フウマは祖父の形見の地図と剣を握り締めた。





「さ~てと!」

村を出発したフウマは地図を開いた。


「……地図を見てもよく分からないんだよなあ」

とりあえず、とフウマは懐からコンパスを取り出した。くるくると回っていた針はゆらゆらと北を指した。


「おじいちゃんはたしか東って言ってたな!」

フウマは東に向けて歩き始めた。


「フウマーーー!!! 待ちやがれーーーー!!」


後ろから見知った声がした。フウマは驚いて振り返った。

走ってフウマを追ってきたのは、幼馴染のガラだった。長身のガラが全速力で走ってフウマに追いついた。


「な、なんで来たんだよ! なんか用か?」

フウマはガラに言う。


ガラは急いで走ってきたので、ゼエゼエ言いながらフウマの腕を掴んだ。

「お、俺も行く……」


「え!?」

フウマは驚いて、ガラに掴まれている腕を振りほどこうとするが、ガラは腕を離さない。


「ガ、ガラには関係ないだろ!? 離せよ! 僕は一人旅のつもりで出発したんだよ!」

突然現れた幼馴染みに戸惑うフウマ。


やっと呼吸を整えたガラは、フウマを見据えて言い放つ。

「一人旅なんてだめだ。俺も着いて行く」


「はあ~?」

フウマはガラを睨みつける。


「なんでガラにダメだとか言われないといけないんだよ! 着いてくるな! 僕は一人で行く!」


「ダメだ!」


「ダメじゃない!!」


「ダメだ!!」


「もー!! なんでダメなんだよ!!」


「女の一人旅なんて危ないだろうが!! ダメだ!!」

ガラは顔を真っ赤にして叫んだ。


「……」

フウマもつられて顔を赤らめる。


「し、仕方ないな。勝手に着いてくればいいだろ」

フウマは赤くなった顔を隠すように、ガラに背を向けて歩き出した。


「おうよ! 勝手に着いていくぜ!」

ガラは意気揚々とフウマの後ろを着いて行く。




フウマとガラは赤ん坊のころからの幼馴染だ。いつも泣いていたガラを、男勝りなフウマが手を繋いで遊びに連れて行っていた。


「(あの頃をちょっと思い出すなあ)」

フウマは一人で思い出を懐かしむ。隣には、あのころとは全く雰囲気の変わったガラがいた。

フウマの方が高かった身長は、いつの間にか頭一つ分ほどガラに抜かされている。


「で? 最初はどこに向かうんだよ?」

ガラは楽しそうにフウマに尋ねた。


「メイランという村だ。ここから東にあるらしいから、東に向かってるんだ」

フウマはガラに地図を見せながら答える。


「東?」

ガラは体格のいい体を少しかがませて、フウマの手元を覗き込む。地図とコンパスを交互に見ながら驚いている。

「お前、逆の方向に行ってるぞ?」


「え!? そうなのか?」

フウマはポカンとしている。


「お前……地図読めないのか? よくそれで一人旅とか言ってたなあ! 腕っぷしだけじゃ一人旅なんかできねえぞ? これだから一人で突っ走るタイプのやつはダメなんだよな! 周りが見えてないんだよ周りが! 子どもだって地図くらい分かるぞ!?」

ここぞとばかりにガラはフウマを罵倒する。


「むぐぐ……いいから道案内しろよお……」

フウマは悔しそうに顔を赤らめた。


「道案内しろだとお?」

ガラは意地悪そうにニヤニヤ笑う。


「道案内“してください”だろ? いいんだぞ俺は別にどこに向かっても! でもお前は俺がいないと一生目的地には行けないだろうなあ!! ほら! 頭下げて俺にお願いしろよ!」

ガラはとても楽しそうだ。


フウマは観念してガラに大人しく頭を下げた。

「道案内してください……」


「よし! それでいいんだよそれで! 俺がお前をずっと道案内してやるから、大船に乗ったつもりでいろよな!」

ガラは大股にのしのしと歩き始めた。


フウマはその背中を見ながら、ハアと溜め息をつく。

「(面倒な旅になりそうだなあ……)」


フウマの旅はこうして始まった。



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