ムロ、リージュの秘密(2)
リージュの意思を確認した俺は、共に遠征する事を決意した。
「そうか、許せないな。わかった。共に行こう。この任務が終わればお前の事を虐げた連中もいなくなって、自由だぞ!」
だが、俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべるリージュ。
可愛いのだが……
その意思は、俺自身がいつの間にか考えないようにしていた事を的確に突いていた。
それは、今の俺は決して自由ではない事。
そんな俺と共に行動をしていきたいリージュにも、本当の自由はない事が告げられた。
そう、確かに俺には自由はない。
この部屋も窓には柵がはめ込まれている。つまり、逃走防止だろう。
遠征の際には常に監視がついているし、城下町等は行った事すらない。
「だけど、俺は魔力だけはあるが、自分では何もできないんだよ」
少し落ち込んだが、リージュは新たな道を示してくれたのだ。
それは、リージュ自身の不足を補い、リージュが俺自身の不足を補う、正に理想とも言えるものだったのだ。
リージュは多彩な魔術を行使する魔力が不足している。
俺は、魔力だけは無駄にあるが、魔術が行使できない。
二つを合わせれば良いのだ。
俺は、リージュを治癒した時から何となく魔力をリージュに貸与していた。
しかし、俺の魔力を貸与した魔術の発動は今まで通りに同族である人、第二隊の人々にしか行使できないと勝手に思い、魔術行使のための魔力は貸与していなかったのだ。
以前瀕死のリージュが自身の治癒をした事については、種族特性の為例外だと勝手に思っていたのだ。
一気に暗い空から光が差し込んだ気がした。
その日から、俺とリージュは互いの連携を取る訓練をこっそりと部屋で行う事にした。
そんな中で龍の討伐遠征を行ったのだが、現場に着くと、リージュからは見た事もない龍だと言う感情が流れてきた。
龍とは言え、全てが同じ一族ではないのだろう。
全ての龍がリージュに関連しているわけではないのは当たり前だ。
やがて戦闘が始まり、俺の魔力を貸与された第二隊は無傷で龍の一体を完全に仕留めた。
他の龍は、思わぬ力を持った第二隊の戦闘を目の当たりにして、急遽撤退していく。
「フハハハ、我が第二隊に恐れをなしたか。まあ、その判断は正しいがな」
隊長の機嫌はいつも以上に良くなる。
なぜならば、この成体の龍を持ち帰れば多額の報酬が出る上、恐らくその成果から、第一隊への昇格が行われる可能性が高いからだ。
今迄どの隊も単独で、しかも隊に被害がない状態で龍を討伐した実績はない。
仮に第一隊に昇格したとしても、相変わらず俺の対応に変化はなく、むしろ秘匿レベルが上がるので自由は更になくなるのではないかと危惧していた。
危惧していた通り、王都に戻ってからの俺は一切の自由が無くなり、ほぼ監禁状態となった。
もちろん第二隊は第一隊と立場が入れ替わっており、恨み、妬みの感情に支配されている元第一隊が、現第一隊の強さの秘密を知ろうと躍起になっている事が原因だ。
普段の俺達の隊は大して強くはない。もちろん城内の訓練でも俺の魔力貸与は実施していないので、はっきり言って弱い。
だが、実戦では無類の強さを誇るのだ。
鑑定術を持っている者が既に第一隊となった隊員を鑑定しても、弱いまま。
つまり、何かしらの秘術を使って強さを底上げしていると言う結論に達するのは当然の結果と言える。
「リージュ、確かにお前の言った通り自由は無いな。どうするか……」
悩むだけで打開策はない日々を過ごすが、第一隊と第二隊の軋轢は増すばかりで、ついには王城内で激突してしまったのだ。
城内であるが故、監禁状態にある俺は第一隊の近くにはいなかった。
隊舎にいつもの通り幽閉されていたからだ。
もちろん魔力貸与をしていない第一隊の隊員は、第二隊にボコボコにされる。
更には普段から横柄な態度であった事もあり、第二隊にボコボコにされた状態で放置されたのだ。
その結果、かなりの時間苦しんだ状態でようやく治癒されて隊舎に戻ってきた。
第一隊の隊長は荒れる。
公衆の面前でボコボコにされた挙句、放置されたのだ。
その怒りはなぜか俺に向かう事になった。
突然扉が開いたかと思うと、殴られたのだ。
「お前がいないせいで大恥をかいたぞ。それなのに貴様はなんだ?何の苦労もなく薄汚い魔獣と生活をしている。少しは責任を感じているのか?」
突然殴られた俺は困惑したが、隊長の怒りは収まらない。
「そもそも、そんな薄汚い魔獣と共に生活しているから気が緩むんだ」
突然リージュに攻撃を仕掛けたのだ。
流石に俺はこの暴挙を看過するわけにはいかず、今までの修行の成果を出す。
リージュに魔力を貸与して、俺の望む動きをしてもらうのだ。
今回は、リージュの多彩な能力の中の一つ、俺にスキルの効果を与えて貰ったのだが、その効果は絶大だった。
当然リージュが習得しているスキルの中からの選択になるのだが、リージュは人族と違いかなりのスキルを習得している。
今の俺はリージュの力によって身体強化を行っているので、素早く隊長とリージュの間に割り込むと、その拳を軽々と受け止めた。
さっき吹き飛ばされたとは思えない程軽い拳だ。
「貴様、この私に逆らうか!」
「何を言っている?俺の力がないと雑魚の癖に偉そうにしやがって。二度とお前らには魔力貸与はしない」
相当力を込めているのか、隊長の顔は赤くなり、手は震えている。
だが俺はびくともしない。
「貴様の力等なくとも、我ら第一隊は無敵だ。思い上がるな!!」
そう言い捨てると、体を扉に向けたので俺は手を放してやる。
そのまま出て行く隊長を見送る。
そこに、リージュからの意思が伝わる。
これで自由になれるかもしれない!と言う喜びの意思だ。
確かにその通りだ。
俺は今後あいつらに同行するつもりはない。
何れは遠征先から帰還できないと言う結果になるだろう。
その間に、俺が本来第一隊に依頼すべき内容の依頼を単独で成し遂げれば……かなり自由に行動できるのではないだろうか?
と考えた。
今思えばどれ程貴族達、王族達を善人と見ていたかが分かる、正に世間を一切知らない若造の楽観的な思いである事が分かるのだが、当時はそこまでの経験はなかったのだ。