表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/55

ムロ、リージュの秘密(1)

 俺はムロ、いや、本名ムロト。元騎士隊長。

 流石に送魂炎を使用して顕現したレトロの母には正体はバレていたようだ。


 彼方此方で噂になっているようだが、俺はいつの間にか龍の素材を横領した事になっているらしい。


 本当に貴族連中とは相いれる事ができない。


 俺は、気が付いたら孤児院にいた孤児だ。

 その孤児院、いや、どこの孤児院でも同じだろうが、貴族の盾になる人材を育てているような場所で、碌な教育はなされず、真面な生活環境ではない。


 そんな中、俺は10歳になるまで驚異的に魔力が増え続けた。

 当時は魔力を抑える技術など無いために、周囲に魔力が溢れていた。


 自分達の盾や、便利に使える孤児を探しに偶然来ていた王都の騎士が、そんな俺を発見して王都に連れ帰ったのだ。


 あいつらの目的は、この魔力を利用して自分達の代わりに仕事をさせ、その手柄を自らの物にすると言う、予想通りのものだった。


 いつの間にか王都に到着した俺の修行は苛烈を極めた。

 何も知らない俺に対して、突然戦闘訓練をするのだからボコボコになるのは当然だ。


 だが俺の立場で文句を言う事は出来ない。

 文句を言えば、更にボコボコになるだけ。最悪は食事すら出ない可能性がある。


 何も言わずに堪えれば食事は出るし、ポーションで傷を癒してくれる。


 そんな中、10歳の誕生日を迎えると、俺のスキルが判明した。

 鑑定士曰く、特殊能力らしく、魔力貸与という物らしい。


 だが、俺にはもう一つスキルがあるのが分かっていた。

 魔力譲渡。


 鑑定士は似た様な名前だから伝えなかったのか、そもそもこのスキルを鑑定できなかったのかは不明だ。


 この能力、魔力貸与は俺の有り余る程の魔力を、その名の通り貸す事が出来る。

 もう一つの魔力譲渡は、俺の生命活動を司っている僅かな魔力すら一気に譲渡する事ができる能力。


 この能力を使うと、俺はもれなくあの世行きだという事位は理解できた。


 俺のスキルである魔力貸与という力を理解した当時の上官である騎士は、その力を自分に使ってみるように指示を出した。


 俺は言われたとおりに、スキルを使用してその騎士に魔力を貸与する。

 すると、その騎士の力は明らかに跳ね上がった。


「何だこの力は、これがお前の力、スキルかムロト。良いぞ。良しお前、この力は俺達だけに使え。わかったな」


 上官の指示を違えると惨い扱いを受ける事を理解していた俺は、そのまま命令に従う。

 俺としては、自分の力が増すスキルが良かったのだが、結果は全く異なっていたので、落胆していたのもある。


 いくら魔力量が多くても、自分自身にその魔力を使用して起動するスキルがなければ宝の持ち腐れだからだ。


 俺の気持ちとは裏腹に、この日を境にこの騎士を筆頭とした分隊は目を見張る成果を出し始めた。

 今までは上位の隊長数人で討伐していた高ランクの魔獣すら無傷で討伐して見せたのだ。


 こんな突き抜けた成果を突然出せば、周囲の目は妬み一色になる。

 だが、そんな連中すら、俺の魔力を借り受けて力を付けた分隊の隊員は歯牙にもかけなかった。


 分隊の立場が上がるにつれて俺の待遇も上がるかと期待したが、変わらない。

 むしろ、俺という秘密兵器?の情報が漏れないようにするためか、より束縛されて厳しい生活を強いられた。


 だがある日、上位種である龍が王都近辺で目撃されたとの情報から、当時最強とも言われ始めた俺の所属する分隊、いや、既に第二隊と言う上位の隊に上っていた隊が派遣される事になった。


 鬱蒼とした森に踏み込むと、確かに龍クラスの存在が暴れたと考えられるほどの荒れ具合だった。

 しかし、既に龍は目的を達したのか、その存在は一切なかった。


 たった一体の瀕死の小さな龍を残して……


 当時の第二隊は正に無敵状態であったので、幼体で瀕死の魔獣程度であれば視界にすら入らないようになっていた。


 恐る恐る隊長にその幼体を助けても良いか問うたところ、戦闘せずに任務を完了できた満足感からか、事の他機嫌がよく、二つ返事で了承を得た。


 これが俺の運命を大きく変えたのだ。


 俺は必死で幼体の龍を治療した。

 もちろん治療が出来る術を使えるわけではないが、龍クラスになると自らの魔力で自分自身を治癒する能力があると聞いた事がある。


 そこに一縷の望みをかけて、自分の魔力を与え続けたのだ。

 一晩寝ずに魔力を与え続けた所、翌朝にはすっかり傷もなくなった幼体の龍が元気に俺の周りを飛べる程に回復していた。


 なんだか無条件で俺を慕ってくれているような気がした。

 慕われていると言う感情は、俺が初めて感じたものだ。


 俺は家族の暖かさを知る事、人から損得なしで優しくしてもらった事が一切ない。


 そんな俺に、人ではないが友ができたのだ。


 この龍にはリージュと名付けて生活を共にする。

 リージュは、何かを食べるという事をする必要がないらしく、俺の魔力を糧に成長する事が出来るらしい。


 リージュは俺の言葉を理解しているらしく、リージュの言いたい事は、何となくわかるのが不思議だ。

 俺の魔力を摂取し続けているからだろうか?


 第二隊が遠征する際も、常に俺の肩にいて行動を共にするリージュ。

 俺が仕事をしっかりとこなしている上、リージュが第二隊に悪影響を一切与えない事から、特に何かを言われる事は無かった。


 かなり仲が深まったのではないかと思っていたところ、再び龍の討伐命令が第二隊に下った。


 その話を共に聞いていたリージュの感情が揺れたのを俺は見逃さなかった。

 自室に戻り、リージュと向き合う。


「なあリージュ、今回の遠征、お前はここで待っているか?同族が、ひょっとしたらお前の家族が討伐されるのを見る事になるかもしれないんだ」


 だが、リージュの思いは俺の考えとは真逆だった。

 リージュの意思は、むしろ龍一族に復讐したいと言う物だったのだ。


 詳しく話を聞いていくと、いや、感情を読み取っていくと、……リージュは人族とは違い、術の習得や行使の能力が優れていると言われている龍族の中でも、特に優れていたらしい。

 だが、魔力量があまりにも小さいために、どのような術でも効果は薄く、やがて両親を始めとした家族、同族全てから迫害されたそうなのだ。


 そして最後は、王都の近くの森で痛めつけられた上に捨てられた。

 瀕死の状態のリージュは、周辺に生息するレベルの低い魔獣にすら捕食される状態で放置されたのだ。


 そこに俺が現れて、リージュを救出したらしい。


 あの森の惨状は、龍が何かと戦ったのではなく、リージュだけを痛めつけるために行われた攻撃によるものらしいのだ。


 それならば、遠慮する事は無いだろうな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ