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魔獣の真実

「レトロ、とりあえずその棒は必要ないから置いてくれ」


 優しく話してくださるムロ様の指示に従い、棒をそっと地面に置きます。


「君にいくつか確認しておきたい事がある。あの襲われた馬車を少し調べさせてもらったのだが、やはりこの魔道具が見つかった」


 そう言って差し出されたのは笛に見える物。

 私には何を仰りたいのか理解できず、少々首を捻ってしまいます。


「これは、魔獣が好む音色を出す魔道具だ。つまり、魔獣を引き寄せる機能がある。人には聞こえないが、魔獣には良く聞こえる。そのおかげで、俺の友であるリージュにも聞こえて駆けつける事が出来たのだがな」


 ムロ様は、肩にいる小さな魔獣を撫でておりました。

 ですが……仰っている事は、馬車に同乗された方、護衛の冒険者の方のどなたかが態々この危険な場所で魔獣を引き寄せたと言う事なのでしょうか?


「この魔道具は御者が首にぶら下げていた。何故魔獣が多く生息するこの場所で魔獣をおびき寄せる行動をしたのかが分からない。だが一つ言える事は、このレベルの魔道具は一般には流通しない。御者程度が手に入れられる物でも、単純に護衛をしている冒険者達が手に入れられる物でもない」


 だんだんと理解ができなくなってきました。


「俺もあまりうまく説明できないが、今までの経験から、周囲を巻き込む事を厭わずに行動している結果を考えると、貴族・王族絡みのトラブルである可能性が高いと思っている。同乗していた者達に、貴族関連の者がいたか?」

「申し訳ありません。私とお母様は目立たないようにしておりましたので、周りの方とお話しはしていないのです。ですが……皆様のお話を聞く限り、そのような方はいらっしゃらなかったと思います。町の話、王都の話、噂話を楽しそうにしていらっしゃいましたから」


 少し考え込むムロ様。

 そう言えば噂話で思い出しましたが、このムロ様は王都の騎士隊長、この馬車の中でとても信じられない噂を聞かされた騎士隊長とお名前がそっくりですね。

 小さな魔獣もいらっしゃるし。


……いけない、余計な事でした。


「そうか、それで君達はどうなんだ?」


 あれ?私達。一応……貴族?元貴族??えっ、それってシアノ達が私達を?


 考えが纏まりません。もし、もしもムロ様の推測が正しかったとしたら、シアノの差し金でお母様が、そして何の罪もない方々を巻き添えにこのような状況になったという事ですか?


「心当たりがありそうだな。わかった。正直この魔道具、どこで作られたか調べるのはそう難しい事じゃない。この効果、魔獣を引き寄せる魔道具は基本的に作成する事が禁じられている。何かの拍子で作成されてしまった場合、王都に登録する必要があるからな。これを破れば爵位剥奪、死罪が待っている。魔道具の登録程度を怠ってこんな罰を受けたがる貴族はいないから。出所は直ぐにわかる」


 随分と色々と知っていらっしゃる。本当にこのお方はどういったお方なのでしょうか?


「残念だが王都は魔道具を登録しているだけで、その後の継続的な管理は一切しない。実際に事が起こった時に証拠として魔道具が残っていれば、当事者が処罰の対象になるだけだ。だから管理は緩い。少々大き目の町のギルドで調べれば、情報は直ぐに得られるだろう」


 何とお返事すればよいか分からずに、口を開く事が出来ません。


「いや、すまない。突然色々話してしまっては混乱するだろうな。まして今はこんな状況だ。よし、それでは君の、レトロのお母さんを埋葬しよう」


……最後の最後まで、私の事を必死で考えてくださっていたお母様。でも、私は大丈夫です。必ず生きて、幸せになって見せます。いつか私がそちらに行った時には、沢山自慢話をさせて頂きますね。ですから……今まで通り、優しく見守って……下さい。お母様!


 ダメです。今までの思い出が溢れて涙が止まりません。

 こんな場所で埋葬しなくてはならないなんて……ごめんなさい。


「レトロ、君は送魂炎という術を知っているか?」

「え??はい」


 当然知っています。

 伝説中の伝説の術。魔力が固定される10歳になる前まで、多くの子供達が魔術に夢を抱いて読む本の中に必ず出て来る術です。


 その効果は亡くなられた方の魂を、安らかに空に送り届ける事ができる秘術。


 ですが、その術を行使できる方はいらっしゃらない。なぜならば、大量の魔力を消費するので、術の起動に必要な魔力をお持ちの方が存在しないから。


「今からその術を君のお母さんに行使する。最後の時だ。甘えると良い」


 今までムロ様の肩にいた小さな魔獣がお母様の前まで移動すると、ムロ様からは魔力が溢れ出します。

 その魔力は拡散する事なく、全てお母様の前に移動した小さな魔獣、リージュさんと呼ばれていた魔獣に吸収されています。


 リージュさんが発光してその光がお母様に移ると、お母様の体は金色の粒子になってその存在が消えていきます。

 そして粒子が空中に漂うと、何の怪我もない姿でお母様が再現されたのです。


「お母様!!」


 私は思わずお母様に抱き着いてしまいました。

 体温とは違う、柔らかい暖かさで迎えて下さったお母様。


「ムロ……様。貴方様にも事情がおありのようですね。ですが、貴方様に最後にお会いできた事、とても嬉しく思います。これで安心して最愛の娘をお任せする事が出来ます。レトロ、ムロ様を信じて、幸せになるのですよ?」

「はい、はい!お母様。見守っていてください!」


 優しい微笑みと共に、お母様は再び粒子となり空に消えていきました。

 お母様が倒れていた場所には、何も残っていません。


 ですが、私の心の中には、優しくて暖かいお母様のぬくもりが確かにあるのです。


「この送魂炎、所縁の深い者にほんの一部ではあるが、送られた者の心の一部が移ると言われている。その存在、確かに感じているのではないか?」

「はい、ムロ様の仰る通りです。ありがとうございます」


 本当に悲しい出来事でしたが、心の中のお母様と共に、そしてムロ様のおかげで乗り越えられそうです。


「ですがムロ様、あの方々は……」

「いやスマン。流石の俺でも全員を送る程の魔力を行使してしまうと、今後の活動に影響が出る。魔獣に襲われても対処する事が出来ないからな。申し訳ないが……」


「いえ、こちらこそ申し訳ありません。余計な事を言ってしまいました」

「いや、気にしないでくれ。それでな?ここは少し危険だ。あの馬車を調べた時に割れたポーション、少々の痛みを取り除く事や、擦り傷程度を治すレベルのポーションだが、少しだけ残っていた。とりあえずこれを使ってくれ。その後は、この場所を移動しよう」


 手渡してくださったポーションの瓶、確かに割れていて少ししか残っていませんが、痛む足に振りかけると、痛みは随分と楽になりました。


「じゃあ行くか」


 ムロ様は、私に背中を向けてしゃがみこんでいらっしゃいます。???。


「いや、君が嫌なら仕方がないが、歩ける状態ではないだろう?俺の背中なんかで悪いが、背負って移動するのが一番良いと思うのだが……」


 何故か顔が熱くなっている気がします。

 初めて異性の方に背負って頂く……ですが、ここは危険な場所。私の我儘で時間が経過するのは得策ではありません。


「えっと、重いかもしれませんが……失礼します」


 意を決してムロ様のお背中に覆いかぶさるように体を預けます。


「じゃあゆっくり行くからな。リージュ、周囲の警戒を頼んだぞ」

「ピュー!」


 フフフ、リージュさん可愛い鳴き声ですね。

 それと、ムロ様のお背中はとても大きくて、不思議と安心できます。


 これが、私が経験した事の無いお父さんのお背中なのでしょうか?


「レトロ、あの馬車はおそらく王都に向かっていたと思うんだが、君の目的地は王都か?」

「はい、お母様と共に安全に暮らすには王都が良いかと思っていたのです」


「そうか。えっと、相談なんだが、俺は逆に王都から出てきている。その……目的地を決めているわけではないが、王都以外に向かっても良いか?」

「はい。既に王都を目的地にする必要はなくなりましたから。ムロ様のお好きなようになさって下さい」


「すまないな。だが、君の希望も色々言ってくれよ。俺ばかりの希望が通っては、何時かは不満が爆発するからな」

「フフフ、ありがとうございます」


 本当に暖かいお方です。

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