メリンダの終着点
シアノと、シアノに同行している騎士達は、期待していた結果にならずに肩を落としてスゴスゴユルゲン男爵領から撤退する。
行き先はもちろんプロドリ男爵領だ。
既に王都からは勝手に逃走した立場である事から、今更戻っても受け入れてもらう事は出来ない。
メンタント公爵領にも行けない。
立場が悪くなっているのは、シアノの母であるメリンダも同様だ。
シアノと確執が出来た時に、夫であるメンタント公爵とも大きな確執が出来たからだ。
「メリンダ!なんとかユルゲン殿に力を貸してもらえ!」
「ですから、何度も断られたと言っているではないですか!あの時に無理にでも力を貸しておけばこのような事にはならなかったのです」
「どうしようもないだろうが!あの時、今もだが、こちらには助けられるほどの戦力など有りはしなかったのだ!」
「戦力だけが助力ではありません。第一隊の撤退を撤回し、再びお父様の領地に向かわせるための進言程度は出来たはずです!」
「進言程度したとしても、この私がユルゲン殿の為に動いた事などは理解されないだろうが!いや、まてよ……なるほど。よし、私はあの時、ユルゲン殿の領地から第一隊が撤退した時に、その決定を覆すように進言したと伝えろ。これで良いだろう?」
あまりの物言いに呆れるメリンダ。
「何を言っているのですか?あなたはレトロのスキルの話を聞いていないのですか?レトロの持つスケジューラー、にわかには信じられませんが、未来、現在、過去が見えるそうです。その程度の嘘、軽く見破られますよ。結果、むしろ心象は悪くなるでしょうね」
「ではどうすれば良いのだ!」
机を叩きながら叫ぶメンタントだが、メリンダ自身にも解決策などは無い。
当然このままでは自身も安全も脅かされるため、メンタントを見限り、数人の使用人と共にこの領地を去る事を決めていた。
行き先はもちろんユルゲン男爵領、実父の領地だ。
この辺りは流石母娘。考える事は一緒だ。
事前通告をしないところも同じ。
行ってしまえば、受け入れられると思っているのだ。
いよいよ明日早朝、付き人と共に出立しようとしていた晩に、メリンダ個人で所有している通信魔道具に連絡が入る。
「メリンダ、お前はここに来てもシアノと同じく入領させる事はできない。理由もわかるだろう?レトロ殿の扱いだ。我が領地は、レトロ殿のスキルによって復興できた状態だ。そんな恩人に対して非道な行いをしてきた人物を入れるわけには行かない。明日の出立だが、目的地は我が領地ユルゲン領ではなく、シアノと同じくプロドリ男爵領に向かえ」
既に明朝出立する事すら知られている事には驚かない。
話の中にレトロと言う名前が出てきたからだ。
「……わかりました。今までありがとうございました」
流石は年の功と言うべきか、実父との付き合いが長いためにユルゲンの性格を熟知しているからか、メリンダはシアノと違い、素直に提言を受け入れた。
こうなったユルゲン男爵は、決して意見を曲げる事は無いと知っていたからだ。
メリンダの移動に問題がない事は、レトロに教えて貰っているのでユルゲンは把握済み。
だが、プロドリ男爵領でのシアノとメリンダについては、あえて教えて貰わなかったのだ。
万が一にも家族の情が湧き出して、レトロの意思に反する事をしたくなかった事が最大の原因だ。
こうしてそう遠くない内に、プロドリ男爵領であの母娘は再開を果たす事になる。
立場としては両者共に夫と領地を見捨てて逃亡してきたと言う立場になっているのだが、統治術を持っているシアノの方が、領主であるプロドリ男爵としては有用だと判断するだろう。
加えて母娘の確執があるとするならば、メリンダの扱いについてはあまり良い物にはならないだろう事は容易に判断できる。
メリンダがプロドリ領に移動している頃、名も無き町では酒を飲みつつバージルがムロとレトロと話をしている。
「次は王都か?どうするのだ、レトロよ」
「シアノ達の件では特に行動することなく、時間をかけて滅びていくでしょう。ですからバージル様の仰る通り、お父様を幽閉した愚王の対応をしたいと思っております。家臣からは見放され、最早何の力も無い愚王。一度挨拶に伺いましょう」
レトロの肩にいるリージュも、賛成と言わんばかりに鳴いている。
「おいおいレトロ、今更俺のためにそこまでしてくれなくても良いぞ?」
「いいえお父様、これはケジメです。私、そしてお父様の過去を清算するために必要な行動なのです」
レトロにしてはきっぱりと言い切ったその姿を見て、軽く肩をすくめるムロ。
「ガハハハ、良いじゃないか。父を想う娘の行動。親としてはしっかりとフォローしなくてはならないな、ムロ!」
「そうですね」
終始機嫌の良いバージルに逃げ道を塞がれて、渋々同意するムロ。
正直ムロとしては、今更王都がどうなろうと知った事ではないので、ここで平和に家族のレトロ、リージュ、そして村人達と楽しく過ごせれば……と思い始めていたのだ。
だが、自分の為にレトロが行動をおこしてくれている事に対して、何とも言えない申し訳なさ、そして嬉しさを感じているのも事実だったのだ。




