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シアノの終着点

「えっと、ユルゲン様。何とか我がプロドリ領に援助いただけないでしょうか?()の代でこの領地を潰すわけには行かないのです」


 爵位としては同列の男爵であるプロドリ男爵が、ユルゲン男爵に微妙に気弱な物言いで助力を願っている。


 このプロドリと言う男、自分の意思はあまりなく、長いものに巻かれる気の弱い男で有名だ。

 何をするにも自分の意思はないのだが、流石に今の危機的状況を改善するために、自分の意思で他人(・・)に縋っている。


 何とも頼りない男が魔道具の先に映り込んでいるのを見ながら、ユルゲン男爵はようやく対象の者からの連絡が来たかと言う思いで、レトロの指示通りに動く。


「成程、今までムロ殿の冤罪を疑う事なくドロニアスの指示に従い、旗色が悪くなればこちらに縋る……と」


 既に国王に対して敬称すら付けなくなっているユルゲン。

 その言葉を聞いて、聞こえないほどの声でモゴモゴ言っているプロドリ。


「だが私も鬼ではない。貴殿のその優柔不断な態度は呆れかえるが、自分の意思で有効に活用する事が出来れば領地復興も出来るだろう」


 そんな事は決して有り得ないがな……と口には出さずに話を続ける。


「貴殿も知っている通り、この国は統治術による運営をして失敗したのが今の状態だ。その統治術を持つ者、シアノをお前の元に送ろう。その力を十全に使えれば、領地復興など問題なくできるだろう」


 物事を自分で深く考えるという事ができないプロドリは、シアノの統治術に期待を込めてしまっていた。

 今の大惨事がシアノが原因であると言う事に対する理解が無いのだ。


 なぜ王都にいるはずのシアノを、王都に喧嘩を売っているユルゲン男爵が派遣できると言い切るのか……と言う事にすら考えは及ばない。


「ありがとうございます。何とかシアノ様が到着するまでは持ちこたえて見せます」


 ユルゲンにしてみれば、何を言っているんだ!と言いたくなるような言葉だが、何も言わずにそのまま通信を切る。


 こういった助力を願う通信がひっきりなしなのだ。

 しかしレトロのスケジューラーによれば、これでもバージルと比較してかなり少ないと教えられているので、辟易しつつも無難に対応していた。


 そんな中、シアノを送り付ける対象であるプロドリ男爵からようやく連絡が来たのだから、何とか一区切りつける事が出来たのだ。


 プロドリからの連絡が来る時間については、凡その時間は教えられていた。

 当然、全ての通信を受けた場合の時間だ。


 そのため全ての通信に対応していたので非常に疲れていたのだが、今後は特段通信に応じる必要もないので気楽なもので、これ以上の対応をしているバージルの身を案じていた。


 対してバージル。ユルゲンの心配を裏切る形にはなるのだが、特段疲労するような事は無かった。

 なぜならば、全ての通信に対して無視を決め込んでいたからだ。


 ユルゲンと違い、誰か特定の人物と会話をしなくてはならないと言う事がないため、気楽なものだったのだ。


 そんなバージルは、レトロのスケジューラーによってプロドリに対する作業が過去の項目に移ったと連絡を受け、二人の間の専用の魔道具を起動した。


「ユルゲン殿、上手く行ったようですな」

「情報が早いですね。流石はレトロ殿のスキルだ。ですが、ようやくくだらない通信は無視できます。後はあの女を待つだけです」


「ですが、それもあと数日。辛抱なされよ。ハハハ」

「そうですね。待たなくてはいけない時間が正確に分かっているのですから、贅沢な悩みです」


 こうして数日が過ぎると、予定通りシアノが騎士を伴ってユルゲンの元にやってきた。


 当然門番はシアノ一行が来る事を正確に理解しているので、入領させずに待機させたうえで、ユルゲンに連絡を入れる。


 本来はユルゲン自身もシアノが来る事を理解しているので、連絡など入れる必要はないのだが……


 わざと時間をかけて門に到着したユルゲン。

 護衛として、リネールを引き連れている。


「お爺様、お久しぶりでございます。シアノです。私、王都での惨状に耐えられなくて出てきました。お父様の所に向かおうとも考えたのですが、彼方の状況も芳しくなく……統治術によって、お爺様のお力になる事が最適との指示が出たのです」


 わざわざスキルの名前を言って、有用だとアピールしているシアノ。


 本来は父であるメンタント公爵領に戻るべき立場ではあるのだが、その領地は王都と変わらない状態、場合によってはそれ以下になっている事、更には母であるメリンダとの確執があるので、直接ユルゲンの所に来たのだ。


 母との確執の原因は、このユルゲンの領地を見捨てた事にあるのだが、祖父であれば許してくれると言う謎の自信があったのでこの場に来ている。

 もちろん、このユルゲン男爵領が安全であるので来たと言うのもある。


 その期待をユルゲンは粉々にして見せた。


「何をしに来た?我が領地はお前によって一時壊滅的な状態にまで追い込まれた。だが、レトロ殿のスキル、スケジューラーを始めとした複数のお方の助力によってここまで復興できた。お前も有用なスキルがあるのならば、その力でメンタント領を復興させるのが筋ではないか?」

「え、お爺様……」


 当てが外れて、中々二の句が続かないシアノ。


「お前程度の力では、キューガスラ王国全体が適用範囲になる統治術を起動できる程の魔力はなかったようだな。だが、メンタント領だけであれば問題ないだろう?今まで通りに適当な事を言うのではなく、統治術の指示に従えば復興程度は出来るのではないか?」


 今まで誰にも伝えていないスキルの事実まで言い当てられたシアノ。

 ユルゲンからは目の敵にしているレトロの名前も出ている。


 考えが纏まらずに、眉間にしわを寄せているシアノだが、どうしても確執のある母の元に戻る事は出来ないと考えていた。

 シアノと同じく、あの母もかなり陰湿なのだ。


「そこを何とか……統治術があればお爺様の領地の発展は間違いありません」

「その統治術を使った結果、キューガスラ王国のこの惨状か?それにな、我がユルゲン男爵領はお前程度の力がなくても十分に栄えている。そこに毒を投下するつもりは一切ない」


 本当に取りつく島がないと言うのはこの事だ。

 当てが外れたシアノと同行してきた騎士達は一瞬強引に入領しようと考えたのだが、ユルゲンの後ろに控えているリネールからの無言の圧力によって行動する事が出来なかった。


「だが私も血縁を放置する程無責任ではない。そこでお前には最後のチャンスを与えよう。プロドリ男爵を知っているな?」

「え、はい。存じております。お爺様の領地からそう遠くないと記憶しておりますが」


 悪い意味で有名なプロドリ男爵。当然ながらシアノもその存在は知っており、領地の場所まで把握していた。


「お前達はそこへ向かえ。話は既につけてある。そこでスキルを活用して、領地を復興して見せろ」


 シアノは、何故ここに来る事を伝えてすらいないのにここまで動けていたのかを一瞬疑問に思ったが、既に何度も未来を見られると言うレトロの話を聞いていた事を思い出した。

 しかも、目の前の祖父は、自らの領地復興に助力したのはレトロだと言い切っていたのだ。


 血縁であり、統治術を持つ自分ではなく、シアノ自身が見下していたレトロの方が有用であると明確に伝えられたうえで、行動にも移されたのだ。

少し趣を変えた作品、


https://ncode.syosetu.com/n6688hf/


投稿させていただきました。

異世界の知識を持った王族が、現代で生活するギャグよりのお話です。

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