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王都への移動

 流石にメンタント公爵領でこのまま暮らす程、私達の神経は太くありません。


 あのお屋敷を出る時に私物だけを持ち出してきたのですが、その中には、本当にかなり昔、お母様がメンタント公爵から頂いた金銭があったのです。


 そのおかげで馬車に乗る事が出来たので、女性二人でも少しでも安全に暮らせるようにと、キューガスラ王国の王都に行く事にしました。


 厨房の料理長の様な方に言い寄られる事を防ぐため……すみません、自意識過剰かもしれませんが、そうならないように、お母様と二人、顔を覆う様に外套を使っています。


 馬車は一般の方しか乗られていないようなので、沢山のお話を聞く事が出来ました。

 その中でも特に興味を持ったのが、特殊スキル持ちとして有名な騎士隊長ムロト様のお話しです。


 何でも、小さな一匹の魔獣を従えており、その魔獣が圧倒的な強さだとか、ムロト様の指揮されている軍は誰も怪我をした事がないとか、信じられないお話があったのです。


 その中には、どこそこの伯爵令嬢の入り婿をお断りした話ですとかもありました。


 信じられないと言えば、ムロト様、孤児院出身だそうなのです。

 騎士隊長にまでなられたお方なので、てっきり貴族出身だと思っていたのですが……想像なのですが、相当な苦労をされてきたのでしょう。


 自分に少しだけ気持ちを重ねていた所、特に信じられないお話が聞こえてきたのです。

 なんと、今現在行方不明だと言うではありませんか。


 それも、龍の素材を横領した罪に問われているそうなのです。


 にわかに信じられません。


 ムロト様のお話を一切聞いていなければ信じてしまったかもしれませんが、ムロト様の自出、そして公爵令嬢の入り婿をお断りされた件、この二つと共に、申し訳ありませんがシアノと()父であるメンタント公爵達の性格と行動……貴族としてのプライドと言うのでしょうか?私自信も経験した事から、どうしても横領を行うような方であるとは思えなかったのです。


 むしろ、公爵令嬢の入り婿……この公爵様がそのような噂を流したと考える方が自然ではないでしょうか?


 とは言え推測の域を出ないので、いくら私が考えても仕方がない事です。

 せっかくお母様と二人での新生活が待っているのですから、このような事に頭を悩ませる時間は、どのようにして楽しく生活していくかを考える方が有益ですね。

 

 初めて乗った長距離の馬車ですが、良く考えられているようで、丁度お尻が痛くなったころに必ず休憩を入れて頂けるのです。

 そして夜には町に入り、指定の宿泊処で宿泊して一夜を過ごします。


「お母様、長旅ですが大丈夫ですか?」

「ええ、あなたのおかげですっかり体調も良くなっているので問題ないわ。それに、二人での旅、とっても楽しいわね」


 宿で外套を外して、素顔を晒してお母様とお話ししています。

 この時だけはお互いに姿を晒してお話しができるので、ホッと一息つく事が出来ます。


 早く王都について、素顔を晒しても安全である場所で一生懸命に働いて、お母様と楽しく生活がしたいです。


 ですが、王都まではもう少しかかるそうです。

 私達は初めてなのでよくわかりませんが、同乗していた方達のお話しですと、明日、明後日で着くような距離ではなさそうです。


 でも、既に道中の宿泊分までの料金はお支払いしているので、旅の間の衣食住の心配はありません。

 せっかくですから、それぞれの町の宿泊処を堪能させて頂きましょう。


 翌日、同じように馬車に揺られています。

 王都までの道のりではいくつか危険な箇所があるそうで、今日はその場所を通過する日なのだそうなのです。


 何が危険か……魔獣や盗賊が現れやすい場所なのだそうです。


 どちらに襲われても、明るい未来がない事位は理解する事が出来ます。

 もちろん馬車の周囲には、護衛を請け負って頂いている冒険者の方々がいらっしゃるのですが、何分初めてですので私もお母様も緊張してしまいます。


 お互いに手を繋いで、馬車の隅で小さくなっているのです。


 すると突然馬車の勢いが増し、周囲が騒がしくなりました。

 何が起きたのか分からず、困惑して震えてしまっているのが分かります。


 もう何が何だか分かりません。

 そんな中、一瞬馬車ごとフワッと浮いた感覚があって、その直後に強い衝撃がありました。


……どの程度経ったのでしょうか?何が起きたのでしょうか?


 ぼんやりとした意識の中、私は周囲を見回します。

 確か馬車の中で……そう、お母様!!


 何故か馬車の中にいたのに外の景色が見えるのですが、それよりもお母様。


 慌てて周囲を見回すと、私の倒れていた場所のすぐ横は崖になっており、その下に馬車が見えます。

 そして……その周辺に魔獣が群がっている事も良く見えてしまっているのです。


 まさか、あの中にまだお母様が!

 慌てて立ち上がろうとしますが、足が痛くて立ち上がる事が出来ずに倒れてしまいました。

 その先には……お洋服を血で濡らしているお母様がいるのです。


 なぜ、どうして??

 今まで苦労して、やっとこれから楽しく生活できると思ったのに!


 今まで私達が何をしました?悪い事など一切していません。それなのに、何故私達だけがこのように苦労しなくてはいけないのですか?


 感情がぐちゃぐちゃになって、涙が溢れてきます。


「お母様、お母様!!」


 必死でお母様に声を掛けるのですが、気が付いていただけません。

 魔獣が近くにいるのに、思わず大声で叫んでしまいます。

 

「誰か!!」


 ですが、崖下では生き残りの冒険者、旅人と、魔獣が最後の戦闘を行っているようで、そちらに助けを求めるわけにはいきません。


 どの道私の声など届いていないでしょう。

 

 気持ちを必死で落ち着かせ、私は外套の一部を切り取り、出血している箇所を縛ります。


 何とか助かって欲しい。いえ、今まで苦労した分、助からなくてはいけないのです。

 必死で止血を行っています。ですが、手元に薬草もなければポーションもありません。


 これ以上はどうしようもないのです。


 そして、崖下の喧騒も聞こえなくなっており、恐る恐る崖下を除くと……私は絶望に襲われました。

 そこに生存しているのは魔獣だけだったからです。


「そんな……」


 戦闘が終わった魔獣達は、再び周囲を警戒しているそぶりを見せます。

 私はあわてて痛む足を引きずりながら、お母様をこの場所から動かそうとしますが、どうしても動かす事が出来ません。


 ですが、お母様をこの場に残して逃げる選択肢は有り得ないのです。


 そんな中、お母様が意識を取り戻して小さな声で私に告げるのです。

 魔獣に襲われた際に私を庇ってくださったであろうお母様は、全てを理解していたのでしょう。


「レトロ、お願い、逃げて。貴方だけでも逃げて頂戴」


 そんな事、できる訳がありません。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >その中には、どこそこの伯爵令嬢の入り婿をお断りした話ですとかもありました。  >ムロト様のお話を一切聞いていなければ信じてしまったかもしれませんが、ムロト様の自出、そして公爵令嬢…
2022/10/25 20:10 退会済み
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