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キューガスラ王国の混乱(1)

 メンタント公爵側が魔笛を使用して魔獣をバージル伯爵側に押し付けた直後……


 魔道具によって、各貴族、王族間での情報の伝達は活発に行われているキューガスラ王国。

 もちろん情報とは、最近特に増えた魔獣の襲来だ。


 あまりにも頻度が多くなり、王都所属の騎士隊が絶えず出撃している現状を鑑みて、国王主体で全ての領地に対する魔獣襲来情報を共有する事にしていたのだ。


 だが、その中にはバージル伯爵領だけは含まれていない。

 ムロト元騎士隊長を庇い続けている事から、この情報網からは国王命令で除外したのだ。


 その最新の情報は、メンタント公爵領地にかなりの強さを持つ魔獣が襲ってきたのだが、なぜかバージル領に向かい始めたという情報。

 当然バージル側に情報は行かないので、かなりの被害が出る事を貴族、王族全員が予想した。


 特に、王都にいるシアノに至ってはレトロが被害に遭う事を確信しており、すこぶる良い機嫌になっていたほどだ。


 第三隊の隊員も、酒におぼれて魔獣への対処ができなくなってしまったと言う失態を少しでも挽回するために、全力で魔笛を使用して魔獣をバージル伯爵領に押し付けるために行動したのだ。


 当然魔笛の音色に引きつられ、魔獣は即座にメンタント公爵領を後にして、第三隊の隊員が持つ魔笛の音色のする方向に移動し始める。

 隊員は、一先ず魔獣を問題なく引き連れていける事に安堵するが、予期せぬ魔獣まで引き寄せてしまう魔笛である為、最大限の警戒を行いつつバージル伯爵領に向かう。


 心身ともに疲弊した頃に、ようやくバージル伯爵領に魔獣を押し付ける事が出来安堵しつつ一旦距離を取り、流石に休息を取ろうとする……


 周囲の安全を確保しつつ、魔道具の結界を張ったうえで休息を取る。


「これでバージル領に大きな被害が出るわけだ。少なくとも、ムロト元隊長一人ではあの魔獣は完全には対処できないだろうからな」


 本当のムロト元隊長、ムロの実力を知らない隊員は呟く。

 もちろん第三隊隊長のリネールも、ムロの本当の力を見た事は無い。


「ああ、これで俺達の罰も少しは軽くなるだろう。精々注意と言った所か?」


 その後、作戦が完全に成功した事を疑っていない第三隊は結界の中で眠りにつく。

 隊長や副隊長、上位の者達が目を覚ましたのは、この時からあまり時間は経過していなかった。


 かなりの騒音、振動に目を覚ました第三隊。


「何が起きている?」


 周囲を見回し、近くにいた副隊長に声を掛ける第三隊隊長リネール。


「それが……なぜか我らがバージル領に押し付けたはずの魔獣が結界の中にいるのです」

「なに?結界の中だと?そんな馬鹿な事があってたまるか!」

「そうは言っても、事実です」


 副隊長の必死の声に、激しい戦闘音が聞こえてくる方向を注視する隊長。

 そこには疲れた体に鞭を打って、必死に魔獣と応戦する第三隊の隊員の姿が見えていた。


「これでは動きに制限が出る。一先ず身を隠せるほどの空間が必要だ。至急結界の魔道具を解除しろ!」


 安全確保のために結界の魔道具を起動していたのだが、逆にその結界内部に魔獣が何故か侵入してきたので、結界外部に排除する事ができない。

 内部にいる第三隊も結界を解除しない限り外には出られないので、多少広くはあるのだが、行動に制限が掛けられてしまう結界を解除するように副隊長に指示する隊長。


 しかし、返ってきたのは無情な返事だった。


「既に実行しようとしたのですが、この結界、我らの魔道具によるものではありません。他の……第三者による魔道具によって結界が作られているのです。魔道具の場所すら分からないので、解除できません!」


 悲痛な叫びと共に、現状が隊長に伝えられる。


 この結界は、ムロとリージュによって作成されたものであり、第三隊が使用した魔道具による結界と比較して、少しだけ大きい結界を張っている。

 当然魔道具などは使用していないため、第三隊がどれ程魔道具を必死で探そうが発見する事は出来ない。


 ムロの魔力、リージュの技術によって作成された結界は、内部から魔獣や第三隊がどのような攻撃を仕掛けようが、破壊される事も無い。


 結界内部に存在している魔獣も、メンタント側から魔獣を引き連れて来る事をスケジューラーによって把握していたムロが、同じくスケジューラーが示した選択肢の一つである事を実行したに過ぎない。

 そう、その魔獣を麻痺させたうえで、近くで休息を取る第三隊に差し向けると言う指示を……


「ならば仕方がない。まずは目障りな魔獣共を始末するのが先決だ。ここで第三隊の力を見せつけろ!」


 流石に上位の隊長ともなると、的確な指示が出せる。

 しかし、隊員はここ暫くぬるま湯につかり、更には傍若無人な振る舞いをしていたので、碌な鍛錬をしていない。

 とどめは、今回の作戦により疲弊しきっている所を急襲されたのだ。


 一人、また一人と第三隊の隊員は姿を消していく。

 やがて魔獣最後の一体と、隊長のリネールのみが残された。


 魔獣は今までの第三隊の決死の攻撃によって満身創痍。

 既に駆け出しの冒険者でも排除できるような状態であるのだが、リネールの方も同じような状況になっている。

 しかし、第三隊にはポーションがあった。

 その違いによって、リネールの方が有利に事は運ぶ。


 当然魔獣にとどめを刺したリネールは、その場に崩れ落ちる。


「はぁはぁ、クソ、なんでこいつがここにいるんだ。こんな状態ではメンタント公爵領に戻っても……俺の身の安全は確保できないだろうな」


 自分を除き、この場に来ている隊は全滅。

 そして、メンタント公爵領に残している隊員は少数。


 こうなると、メンタント公爵からの罰だけではなく、キューガスラ王国の騎士隊としての罰もあり得る……良くて降格。


 今後の身の振り方を考えつつ、体を休めるリネール。

 本来は身の振り方以前に、この結界をどうにかする方が先なのだが……


 そこに、結界を作成したムロがリージュと共に現れる。


「まったくお前らは揃いも揃ってクズばかり。この魔笛はとりあえず貰っておくぞ」

「お前はムロト!これは……お前の仕業か!!」


 ある意味逆切れなのだが、自分の隊が全滅しているので今にも飛び掛からんとするリネール。


「何を言っている?俺はお前らが連れてきた魔獣を返しただけだ。それもかなりの数を間引いてやったんだ。変な言掛かりは止めて貰おうか」


 本来はバレているはずのない現実を突きつけられて、言い淀むリネール。

 だが目の前には最強と言われていたムロト元隊長、そして満身創痍の自分。


 ここであがいても良い結果はないと理解しているので、おとなしくなる。


「何故俺達の襲撃が分かった?」

「それはな……俺の仲間のスキルによるものだ。お前らの浅はかな行動等、全てお見通しなんだよ」


 行動が全て明らかになっているのであれば、どのような対処も可能になる。

 その圧倒的に優位な条件を理解したリネールは、既に反撃する気は起きなかった。

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